「絶対に仲良くなれないタイプだ」と心の中で思った。

 2022年3月2日に“杏沙子”が、mini Album『LIFE SHOES』をリリースしました。長所と短所、裏と表、理想と現実、生きていくうえで誰しもが抱えている矛盾を左足と右足に例えた今作。時に立ち止まり考えながらも、前に進み続ける全ての人に、毎日の一歩を助けてくれるお気に入りのシューズになるような作品でありたいという想いが込められております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“杏沙子”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第2弾です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「眩しい」に通ずる想い。最初は絶対に仲良くなれないタイプだと思ったあの子。自分とは正反対のタイプなあの子。だけど…。みなさんにとっての「眩しい」存在はどんなひとですか?



初めて彼女と話したのは、渋谷の街中だった。
 
「杏沙子ちゃん、ですよね?!」
突然ひょこっと顔を覗かれて話しかけられた。
お互いに顔も名前も知っていたから
不思議なことではなかったけれど、
人見知りのわたしはかなりギョッとした。
 
共通の知人の話をして、
今度ごはんに行きましょう!と誘われ、
勢いに押されて連絡先を交換した。
 
手を振って別れたあと、正直、
「……絶対に仲良くなれないタイプだ」と心の中で思った。
わたしのタイプとはあまりにも違ったからだ。
 
わたしには街中で声をかけて連絡先を交換し、
その場でごはんの約束を取り付ける
勇気も行動力もコミュニケーション力もない。
必要以上に相手の顔色を伺ってしまうわたしには
したくてもとてもできないようなことだった。
それを彼女はなんの迷いもなく
まっすぐな目で、何も取り繕うことなくやっていた。
そのまっすぐな目を、ちゃんと見ることができなかった。戸惑った。
ごはんに行く約束はしたけれど、
食事の間ずっと戸惑い続けるのではないだろうかと思うと
ちょっと気が重くなったのを覚えている。
 
それから数日後、一緒にごはんを食べに行き、
話す中でお互いの家が近いということがわかり、
なんだかんだその後も定期的に会うようになった。
 
話せば話すほど、
わたしと彼女はなにもかもが正反対だとわかった。
何事にも積極的な彼女に対して、慎重で受け身気味なわたし。
直感を大事にする彼女に対して、論理的なわたし。
努力家で自分を信じる力が強い彼女に対して、すぐにくよくよするわたし。
彼女は猫が好きだし、わたしは犬が好きだった。
ここまで正反対な人に出会ったことがなかった。
けれど、立ち止まったり思いを巡らせるポイントや見えてる世界は似ていて、
正反対の場所から同じ目線で話しているような不思議な感覚だった。
 
彼女はわたしにないものをたくさん持っていた。
わたしが欲しいと思っているものを。
わたしが手に入れたくても手に入れられないものを。
彼女と一緒にいると、話すと、
その手に入れられないものを、手に入れたような気持ちになれた。
彼女からそれを分けてもえたような気持ちになれた。
わたしが悩み事を打ち明けると、
わたしの中にはなかった新しい考え方や
彼女から見えているわたしの姿を教えてくれて、
決まって最後に「杏沙子ちゃんは大丈夫だから」と言ってくれた。
なんの根拠もなかったけれど、
嘘のない彼女がまっすぐな目で言ってくれるその言葉に、何度救われただろうか。
いつのまにか、彼女はわたしにとってかけがえのない親友になっていた。
 
彼女を見ていると時々、眩しいな、と思う。
初めて会ったとき、目を見ることができなかったのもきっとそのせいだ。
 
眩しい人。
そんな人がいたら、きっとずっと心に光を失わずに生きていける。
彼女の「大丈夫」が、今もわたしの未来を照らしてくれているから。

<杏沙子>



◆紹介曲「眩しい
作詞:杏沙子・石崎光
作曲:杏沙子・石崎光
◆mini Album『LIFE SHOES』
2022年3月2日発売
【初回限定盤】CD+DVD VIZL-2013 ¥4,180
【通常盤】CD VICL-65664 ¥2,750
 
<収録曲>
01.元カノ宣言
02.ピスタチオ
03.Mirror
04.ともだちに戻るよ
05.負けたんだ
06.好きって
07.眩しい
08.女の子にしてよ