Kitri

父が「シンギュラリティって聞いたことある?」と言った。

 姉のMonaと妹のHinaによる、ピアノ連弾ボーカルユニット“Kitri”が、3作連続配信シングルをリリース!6月には第1弾、初のバラードシングル「Lily」を配信リリース。8月には第2弾、シャッフルビートでロックな味わいのシングル「人間プログラム」をリリース。10月にはどのような楽曲がリリースされるのが、お楽しみに…!さらに、9月23日には初のカヴァーアルバム『Re:cover』も配信リリース!是非、彼女たちの癒しの歌声をご堪能あれ…!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放つ“Kitri”による歌詞エッセイを第1弾~第3弾でお届けいたします。今回は第1弾に続く第2弾!初のカヴァーアルバム『Re:cover』に込めた想い、そして第2弾シングル「人間プログラム」にまつわるお話を、Mona目線、Hina目線、それぞれで綴っていただきました。是非、楽曲と併せて彼女たちの言葉を受け取ってください。

~歌詞エッセイ第2弾:「人間プログラム」~

<Mona>

全ては偶然なのだろうか。気に入っているあのメロディーも、どうしても入れたかったあの歌詞も、あの時に作っていなければ、きっと生まれていない。あの一言がなければ、きっと生まれていない。


とある夏の時期、私はある曲を書いていた。これまでのKitriにはない無機質な面白さを表現出来る曲を作ろうと思い、メロディーとピアノアレンジを考えていた。順調に進んでいたはずが、肝心の歌詞が浮かばない。自分が何を歌いたいのか考えれば考えるほど分からなくなって、何日間か険しい顔をして過ごした。

そんな、困った私を誰かが空かどこかから見ていて、そろそろヒントをあげようと思ったのだろうか。何かの会話の流れで父が「シンギュラリティって聞いたことある?」と言った。話を聞いていくと、どうやら人工知能によって私たちの未来に変化が生じるという概念のようだ。普段ならその話を素通りしてしまっていたかもしれないが、とっさに言葉が出た。

「あ、それだ!ありがとう。」

何への「ありがとう」なのかは言わないまま、急いで作詞に取りかかった。宙ぶらりんになっていたメロディーが探していた歌詞はこれだと思った。そうして、ずっと見つからなかったパズルの最後のピースを見つけ、完成したのが「人間プログラム」だ。ふとしたきっかけから、近未来的な世界観の一曲が生まれた。



無事に人間プログラムの作業も終わりに近づいていた今年の初夏、静かにもう一つの作業を進めていた。春のライブツアーが延期になって様々な予定が白紙になった後、この期間に何か自宅で出来ることはないだろうかと探していた。ライブで音楽を届けられない分、ほかの方法で音楽を届けたい。Hina、スタッフと話し合った結果、私たちはカバーアルバムの制作を始めることになった。

過去にライブや動画サイトでカバー曲を披露すると「カバーを音源化してほしい」「カバーアルバムを作ってほしい」そんな声をいただくことがあった。

「いつか作れたら」

そう思いながらもなかなか実現することができなかった。自分以外の誰かの思いがつまった大切な曲を、Kitriの声で歌ってリリースすることは、私にとって勇気のいることだった。だが、今年に入ってそういった言葉をもらうと、心の中で今までとは違った返事をしていた。

「いつかではなくて、今こそ作ろう。」

思うような活動ができずに戸惑っていた時、私自身さまざまな歌に心を動かされた。いつまでも色褪せずにそばにいてくれる名曲がどれほど勇気をくれたか。希望になっていたか。カバーを聴きたいと言ってくれた人の気持ちがよく分かった気がした。


カバーアルバム『Re:cover』のジャケットを眺めながら、リリースできた喜びを噛み締めてみる。あの時に作っていなければ、きっと生まれていない。あの一言がなければ、きっと生まれていない。日常の思いがけないところから、今度はどんな音楽を生み出せるだろう。


<Hina>

更け行く秋の夜、眠れずに永遠のリズムを刻んでいる。もう戻れない昨日のこと、そして楽しい明日のことを考えようか。いつか目的地に辿り着いた時、これが私の旅だったと振り返りたい。


先日、配信アルバム『Re:cover』をリリースした。念願だった初めてのカバーアルバムである。いつか作りたいねと話し、ぼんやりとは思い描いていたが、自粛期間中に急速に話が進み、まさかこんなに早く完成するとは。周りの方の尽力のお陰である。

この春から、多くの人の生活が一変した。より忙しくなった人もいるだろうし、暇を持て余した人もいる。気持ちが落ち込んだ人もいれば、少し心に余裕ができた人もいただろう。その全ての人に、ささやかなプレゼントを贈りたいと思ったのだ。私たちの音楽で少しでもみんなを励まし癒せたら…そんな願いがあった。

ところが、プレゼントをもらったのは私たちの方だった。なんと有難い誤算だろう。たくさんの応援や嬉しい感想の声が届き、その一言一言が私たちを喜ばせてくれる。私たちの音楽をより輝かせてくれる。このアルバムをリリースすることができたのは、紛れもなく、そうやって聴いてくれる人がいるからだ。音楽というものは、聴き手がいて初めて音楽になるのである。

そしてまた、私たちが選んだ9曲には、それを作った人や歌った人たちの大きな愛が詰まっている。そんな大切な作品たちを歌うことができた。そのことだけで頭が下がる思いだ。

沢山の人からもらった応援という名前のプレゼントは、かけがえのない宝物としていつも心の片隅に置いてある。それを眺めながら、この感謝の気持ちを歌に変え届けていけたら、と思う。


さて、そんなカバーアルバムより一足先に発表したオリジナル曲がある。「人間プログラム」だ。

日常にちょっとした快適さを求める時、AIと呼ばれるそれらに、気づかぬうちに助けられていると感じる今日この頃である。今朝はお気に入りの音楽を流してくれた。言葉を教えてもらったこともあれば、迷った時の道しるべとなってくれたこともある。

それらは、人間の知能に最大限近づけて造られているそうだ。いや、彼らが進化しながら私たちに近づいていると言った方が適切だろうか。人間の知能を完全に超えた人工知能は果たして誕生するのか。私には到底知り得ないことであるが、そんな空想の未来のようなものを歌った曲こそが、この「人間プログラム」である。

これは、リリースに至るまでかなりの時間を要した一曲である。初めてこの曲を聴いた時、Monaが既に歌詞も書いてくれていた。無論、後々ブラッシュアップという形で私も作詞に参加するわけではあるが。

<完璧を求めてみよう>から始まる歌詞に惹かれ、この近未来的な世界線にどんどん引っ張られていく感覚だった。少し怖いようで面白く、情熱と冷静さを同時に持ち合わせたこの曲は、さまざまな想像を掻き立ててくれる。私が好きな日本の小説家の一人、星新一を想起させる…と言ってしまうのはおこがましい話だが、私個人の主観では、どうしても重なってしまうのだ。彼の物語を読み終えた後、人間って良いな、と素直に感じることがよくある。この「人間プログラム」という曲も、聴き終えた後にそれとよく似た感覚をもたらしてくれる気がしている。

人間は面白い。人間には想像し創造する力がある。ただ感情の赴くままに、自分がやりたいことをし、作りたいものを作り上げることができる。何もないところから新しいものを生み出すことができる。また、感情は目まぐるしく変化し、いつどこで誰がどうなるか、全く分からない。それもまた面白いことだ。

近い将来、シンギュラリティという言葉の通り、AIが人間の能力を超える日が来たとする。それでも私は自分の意志で行動し、自分のこの手で作ることをやめたくない。心を込めるという作業を厭わず、音楽を作り続けたい。そんな暗黙の約束をMonaと交わすことができた気がするのである。この「人間プログラム」という曲を通して。

それにしても、AIというものは本当に便利である。私だけではなく、多くの人の生活を助けているに違いない。現代社会には欠かせないものだ。もっと言えば、これからもっと技術が発達し、より重要な役割をAIが担うことになるかもしれない。それも大いに素晴らしいことだ。しかし私はその恩恵に与りながらも、やはり人間らしい音楽なるものをやっていきたい。この先もずっと、それは変わらないはずである。いや、変わらずにいたいと思っている。

最後に、星新一のこんな言葉を思い出したのでここに記しておきたい。

「自分の一日を、そして一生を、人間というりっぱなおごそかな生命現象にふさわしい生き方で、足どりたしかに、かがやかしく、生きなければならない」

<Kitri>

◆紹介曲「人間プログラム
作詞:Mona・Hina
作曲:Mona
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