そう、忘れていました。登場人物を愛せなきゃ書けないということを。

 2020年は、シンガーソングライター“川村結花”のCDデビュー25周年のアニバーサリーイヤー!そこで、今日のうたコラムでは、その記念企画として1年を通じてのご本人によるスペシャル歌詞エッセイをお届けいたします。更新は毎月第4木曜!
 
 シンガーソングライターとして活躍しながら、様々なアーティストへの楽曲提供も行い、ここ数年はピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている彼女。この1年の連載でどんな言葉を綴ってくださるのでしょうか…!今回は第3回をお届けいたします。

第3回歌詞エッセイ:「100年初恋」

大田区蒲田出身の男子4人ポップグループ、シクラメン。彼らの曲「100年初恋」を提供(共作詞作曲)したのは2012年でした。プロデューサーのSoundbreakers氏が作られた渾身のオケに、わたしがメロディと歌詞を作りそれを土台として、メンバーのDEppaくんと共にあれこれ話しながら作っていった曲です。

歌詞のテーマは「片思い」でした。なのでまず最初、片思いの最も辛いとこってなんだろう、と考えた時に色々と出ては来たのですが、わたしの場合はやはり、大好きな人に「大好きだよ」と普通に当たり前のように言えないこと、「会いたいよー」などと素直な気持ちを言えないこと。もうそれに尽きるよなーと思ってしまったので、まんまそれをサビにしました。

“大好きな人に大好きだって
会いたいときに会いたいんだって
フツーに言えたら どんなにいいだろう”


いやもう正味のハナシどんなにいいでしょう。けれどそんなこと打ち明けてしまったら軽くフラレて「友達でいよう」とかなんとか言われて、なのに翌日から急によそよそしくなったり最悪避けられてしまったらどうしよう、なんて想像したらとてもじゃないけど言えん!だったらこのまま何も言わないで友人その1でいた方がいい、、、いや、でもしんどい、、。の繰り返し。

ーという日々を積み重ねて来た主人公の僕が、気持ちを伝えられないままずっと友達の距離で頑張って来て、でもある日“何回フラれたって君が好き”というどうしようもない気持ちを改めて確信し、最後の最後に意を決しハラをくくって彼女のもとへ告白しに行く、というお話です。

この2人は今のところクラスメイトかサークルの仲間かそんな関係。結構話や趣味が合うので、一緒に買い物行ったりもするのでしょう、1コーラス目では2人で町に出かけています。たとえばお互いバンドやってたりなんかして、「ちょっと機材買いたいんだよねー」「あ、俺も見たいやつあるんだよねー」「あー、だったら今度一緒に見に行く?」みたいな流れでしょうか。知らんけど。まあとりあえずそんな感じの流れだとして。

僕はもうドキドキでうれしくてたまらない。そのぶん、ただの友達であることが切なくてたまらない。だけどそんなのおかまいなしに無邪気に振舞ってる君。2人で出かけてくれるくらいだからちょっと期待したけど、君は僕の恋心なんてゼンゼン気づいてないんだね、、、。やっぱり僕のこと特に何とも思っていないんじゃないかな、、、。そして今日も日が暮れて別れて。

ーというような感じで最初書いていたんです。でもなんかしっくりこなくてうーん、と悩んでいた時。気づいたんです。

わ、わたしそんな鈍感で無神経な女、好きじゃないわ!

と、、、。

せめて相手の気持ちはわかっとけよ、ていうかなんとなくわかるやろ。もしくはわかっててはぐらかして楽しんでるならまだいい(よくはないが)、なににせよ、「なーんか筆が進まんなあ」と思ったら、わたし、その女の子を好きじゃなかったんですね。そう、忘れていました。登場人物を愛せなきゃ書けないということを。愛するとまでいかずとも、少しでも共感する部分があるとか、自分とは全然違うけど素敵だなあとか、逆に可哀想と同情してしまうとか。なにしろ嫌いではダメ、書けないのです。あくまで私の場合はですが。

そう、だからー、「僕」が恋する「君」は魅力的な女の子じゃなきゃきゃいけなかったんです。可愛くて控えめで優しくて芯が強くて頭が良くてユーモアもあって。人の気持ちに敏感で相手の身になれる想像力を持った女の子。わたしはそんな子が好き。そうやん、そんな子であってほしい。

「僕」の自分に対する気持ちもうすうすわかってて、一生懸命気遣ってくれているのもわかってて、なんだか一緒にいるとわたしよく笑ってるな、楽しいな、と感じている。ああそういうの爽やかでいいなー、と思ったら、すんなり書けたのでした。そういえば彼らのMVに出て来ていた女の子も可愛かったなあ。彼らが宇宙服着てたのにも度肝抜かれました。あのMV好きです。

ちなみにー、最後にダメ押しのように短く静かなサビを繰り返すのですが。スマホ握りしめて“5分でもいいから会えないかな”と彼女を呼び出す。現れた彼女は今までで一番可愛い笑顔で笑ってくれた。というふうにシメて曲終わり。なんとなく希望的な匂いを漂わせるのみにとどめ、その先の結末は聴いてくれる人の想像にまかせたかったのでした。

そんな「100年初恋」。あなたはどんな結末を想像してくださるでしょうか。どうか機会があればご一聴くださいね。

<川村結花>

◆紹介曲「100年初恋
作詞:DEppa・川村結花
作曲:DEppa・川村結花

◆プロフィール

川村結花(シンガー・ソングライター)
大阪府生まれ。東京芸術大学作曲学科卒業。1995年、アルバム「ちょっと計算して泣いた」でシンガーソングライターとしてデビュー。同時に作詞家作曲家として楽曲提供を行い、主な提供楽曲は、夜空ノムコウ(作曲)をはじめ2019年現在までに100曲以上。2010年「あとひとつ」(作詞作曲共作)でレコード大賞作曲賞を受賞。2017年、アルバム「ハレルヤ」をリリース。ここ数年は、提供楽曲の作詞作曲も行いながら、ピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている。

オフィシャルサイト:https://www.kawamurayuka.com

◆歌詞エッセイバックナンバー
【第1回】
【第2回】