さて、今日のうたコラムではそんなニューシングルをリリースしたばかりの“ほのかりん”本人による歌詞エッセイを2日連続でお届け!まず第1弾は、クリスマスならではのスペシャルな内容となっております。綴られているのは、とある“可愛くない女”の恋物語と心模様…。新曲「君を魅る」を聴きながら、是非、ご堪能ください!
~クリスマスSP歌詞エッセイ~
2017.12.23 PM18:00
ー明日はもう会えないかなー
絞り出した素直な台詞は、大人になってしまった私の理性が掻き消した。明日はクリスマスイブだから、貴方はきっとあの子に会いに行く。答えなんて分かってるのに、期待してしまう。夢見がちな部分は大人になっても変わらないままで、そんなことを訊いたところで残酷な言葉を聞くだけなのに。
「リコは明日何するの?」
「それなりに誘いはあるから適当に遊んでるかな。フリー満喫ってことで」
あんたが気まぐれであってくれるかもしれないから予定を入れずに待ってるの、なんて言うのはプライドが許さないので、冗談交じりに他の男の影を匂わす。そうすると拗ねて見せるのを知っているのだ。隆はそういう男で、私はそういう可愛くない女だった。
隆とは半年前に出会い、年上の彼女がいる。私の想いを知っていて、ずるくてそこも好きだった。こんな関係を続けてきた私もずるい女と言われるんだろう。でも一度、どうして彼女がいるのに私と会い続けてくれるのか訊いたことがある。「僕がいないと、彼女は生きていけないと思うから」。その答えに私は適当に相槌を打ち、その後の沈黙が怖くて煙草に火をつけたのだった。
日が沈み、冷たい風が吹き付けると気忙しかった街は静かに夜の闇に溶ける。私達は月の光から隠れるように、ベッドの中にもぐった。私で彼女を塗り替えるように激しく、私が彼女より包みこめるように優しく、隆の形を確かめる。何度愛してると言ったら、隆は私で満たされてくれるのだろう。何度愛してると言ったら、隆は私を選んでくれるのだろう。
シャワーを浴びた隆は、大きい体を小さいタオルで適当に拭きながら浴室から出てきて、背中が水滴でキラキラしていて綺麗だなと思った。(お、今のaikoっぽい。aikoでもそう思ってくれるかなぁ)と、そんなことを火照る体でボーッと考えていた。
言葉通り“水に流した”隆は、ちょっとそこまでコンビニに行くだけだよ、とでも言うようにあっけらかんと「そろそろ帰るね」とTシャツを着ながら言った。薄いTシャツが背中の水滴を吸って丸模様がいくつか出来て消えていった。
楽しかったはずの二人の時間も、さよならの言葉で目の前がぐちゃぐちゃになった。余裕を気取りながら玄関まで送ると、ドアの前で抱き締められる。行かないでって言えない分、きつく抱きしめると、むせるくらいにきつく抱き返され、咳き込みながら笑った。
「…じゃあね、愛してるよ」
「うん、俺も愛してる」
ドアを閉めながら隆は、私の泣きそうになった顔を見て眉尻を下げる。早く閉まってと願う。マンションの重たいドアがいつもよりゆっくり閉まっているように感じたのだ。やっと冷たい音が部屋に響くと、頬にぬるい一本の線が引かれた。大きくため息をつく。困らせたくない。好きだから。好きだから、困らせたい。隆と出会ってからずっと、矛盾が戦っていた。どうしたら良いのかわからなくなってしまうのだ。
「女の子って、面倒くさい」小さく呟く。考えることに疲れた私は、都合のいい女に徹してる方が楽だと知っていた。
「明日何しよう…」
2017.12.24 AM3:00
ソファに深く腰をかけて考えているうちに、知らぬ間に眠ってしまっていたらしい。ぼんやりと携帯を見ると、もうすでに日付が変わりクリスマスイブになっていた。「喉乾いたな」冷蔵庫に水があったかどうか確認しようとキッチンの方まで歩いていくと、急にインターフォンがなった。
おかしい。深夜3時にインターフォンが鳴るなんて、誰かのいだずらだろうか。恐る恐る、モニターを覗くとカメラに手を振っている隆がいた。びっくりして口をパクパクさせていると、早く開けろと言うようにインターフォンが続けて鳴った。
『はい!はい!今開ける!』
『早くしてー寒いんだからー』
オートロックを開けると、しばらくして隆が部屋に入ってきた。
「どうしたの、隆。びっくりした」
「でしょうー。サプライズサンタです。リコ、本当にどっか出かけちゃったかなぁとも思ったんだけどね」
そう言いながらバラの花束と、小さいクリスマスケーキを机に並べると
「じゃーーん!リコ!メリークリスマス!」
ニコニコしながら隆が、嬉しいでしょという目でこちらを見てくる。
「メリークリスマス!てか、サンタさんならプレゼントくらい持ってきてよね」
隣に座りながら茶化すと、返事がなかった。
「シカトすんなしー。・・・・・・・隆?」
「リコ、大事な話ある」
ーあ、ついに結婚しちゃったのかなー
頭で考えたというより、誰かが脳内でささやいたように、答えが出て身構えた。
「ずっとリコに待たせてたでしょ、僕彼女いてさ」
「うん」
「僕今日別れてきたよ」
「え、うん。え?」
「半年間待たせてごめんね」
「リコ、僕と付き合って」
声にならない声でもちろん、と涙と一緒にこぼした。
2019.12.24 PM19:00
「メリークリスマス!」
バラの花束と小さなクリスマスケーキを机に並べ満足そうな隆が叫んだ。バラとちっさいケーキが恒例になっていた。
「メリークリスマス。今年は何をプレゼントしてくれるんですか、サンタさん」
隆は勿体ぶるようにゆっくりこちらを振り返ると、大きな手の中に箱入りの小さな指輪を輝かせていた。
「リコ、僕と結婚して」
声にならない声でもちろん、と涙と一緒にこぼした。
<ほのかりん>
◆ニューシングル「君を魅る」
2019年12月4日リリース
作詞:ほのかりん
作曲:ほのかりん