人や物事に対する“愛”と自分を戒めるための“毒”を握りしめて…。

 2019年12月4日、北海道発の3人組バンド“The Floor”がニューアルバム『nest』をリリース!タイトルに【巣】という意味を持つ今作。ここを原点に、三人で新しいものを産み落とし、さらに飛び立っていこうという意志と、聴いたひとにとってこのアルバムが居心地のいい場所になるようにという願いが込められております。

 さて、今日のうたコラムではそんな彼らのスペシャル歌詞エッセイを3週に渡りお届けいたします。ササキハヤト(V0.)、ミヤシタヨウジ(Ba.)、コウタロウ(Dr.)が各週で執筆を担当。ササキハヤトが担当した第1弾、コウタロウが担当した第2弾に続く、最終回はミヤシタヨウジによる歌詞エッセイです!過去のとあるエピソードと共に収録曲Shadowにまつわる想いを綴ってくださいました。是非、最後までご堪能ください。

~ニューアルバム『nest』歌詞エッセイ最終回~

 学生時代、某レンタルビデオショップでアルバイトをしていた。表情筋が硬いことに定評があるせいか、アルバイトの面接に落ちまくっていた時期にふらっと立ち寄ったお店で募集の張り紙を見つけた。たくさんCDに触れられると思ったのと、家からそう遠くないという理由でなかばやけくそに応募してしまったのだが、それが僕の人生を少し狂わせることになる。

 『十二人の怒れる男』という映画がある。もともとはテレビドラマだった本作を、1957年にシドニー・ルメット監督がリメイクして映画化した作品。僕は従業員という特権をフル活用した割引を使ってこの映画を鑑賞したおかげで、隙を見つけては映画館に足を運び、頻繁にFilmarksをチェックし、夜な夜なNetflixを貪るという日々を送っている。

 父親殺しの罪に問われたスラム街に住む少年の裁判で十二人の陪審員たちが評決を議論していく、というのが大まかなあらすじ。民主主義のあり方を問う法廷サスペンスというのが本質の映画。しかし、この映画で強く僕の印象に残ったのは思い込みや固定概念を疑うことの大切さと難しさだった。

 スラム街に住んでいるから悪人だと決めつける陪審員や、喧嘩が原因で仲違いしてしまった自分の息子と被告人の少年を重ねることで有罪を疑わない陪審員がいた。様々な証拠や証言が再検討される中、彼らは自分の考えを疑うこともせず、思い込みが邪魔をして冷静に話し合うことが出来なかった。しかし、その思い込みは事実なのか? 自分の今までの思考や経験を否定されるような気がして認めたくない、自分が変化することを恐れているんだと思った。結末には触れないので、もし興味を持った方がいたら是非観て頂きたい。

 2019年6月末、僕が所属しているThe Floorというバンドからメインソングライターでもあったギタリストが脱退した。9年近く彼と共にバンドを組んでいた自分にとっては大きな固定概念がドサドサと崩れ落ちていくのを感じた。それからというもの僕たちはサポートギターの力を借りてのライブ、慣れないながらもがむしゃらに制作をする日々。もちろんなかなか上手くいかないときの方が多かった。しかし、この日々は散らばっていた過去の固定概念の破片をダイソンの掃除機で吸い込み、口うるさい姑も認めるくらい埃一つない脳になったような気分だった。

 「この人とは合わなそうだから少し距離置いて関わろう」って思った経験は誰しもあると思う。もちろんその通りのこともあれば、時間が経つにつれて誤解していたと気付くこともある。何かにカテゴライズすることは決して悪いことだとは思わない。自分に与えられる危害を未然に防ぐことが出来るという側面があるから。でも北海道民がみんな寒さに強い訳じゃないし、ブラジル人がみんなサッカーが上手い訳じゃない。良い人もいれば悪い人もいるだろう。大事なのは頭でカテゴライズした“集団”ではなく、まぎれもない“個人”として考えることだと思う。

 人や物事に対する“愛”と自分を戒めるための“毒”を握りしめて歩いていこう。思い込みや固定概念は時として蜃気楼だ。そんなもの取っ払って自由になろう。恐れずにどんどん変化していこう。Shadowにはそんな思いを込めました。
 
 12月4日発売『nest』、元バイト先にも置かれますように。

<ミヤシタヨウジ>

◆2nd album『nest』
2019月12月4日発売
生産限定盤 VIZL-1675 ¥3,500+税
通常盤 VICL-65278 ¥1,900+税

<収録曲>
1.Candy
2.雨夜の月
3.Shadow
4.砂の山
5.ナイトフォール
6.To Be Continued
7.群青について
8.I Don't Know