これは今の自分に向けた言葉なのだと気付いた

 2019年12月4日、北海道発の3人組バンド“The Floor”がニューアルバム『nest』をリリース!タイトルに【巣】という意味を持つ今作。ここを原点に、三人で新しいものを産み落とし、さらに飛び立っていこうという意志と、聴いたひとにとってこのアルバムが居心地のいい場所になるようにという願いが込められております。

 さて、今日のうたコラムではそんな彼らのスペシャル歌詞エッセイを3週に渡りお届けいたします。ササキハヤト(V0.)、ミヤシタヨウジ(Ba.)、コウタロウ(Dr.)が各週で執筆。ササキハヤトが担当した第1弾に続く、第2弾は“コウタロウ”による歌詞エッセイです!彼の歌詞に対する向き合い方と、今作収録曲砂の山への想いをご熟読ください…!

~ニューアルバム『nest』歌詞エッセイ第2弾~

 The Floorのドラムのコウタロウです。今回歌詞についてのエッセイを書く機会をいただいたので、改めて自分が歌詞に対してどのように向き合っているのかを思い返してみた。

 まずはじめに、私は初めて聴く曲の歌詞を聴くことがほとんどない。かなり極端な言い方かもしれないし、曲がりなりにも歌詞を書くことで表現をしている人間が言うような言葉ではないかもしれないが、事実なのだから仕方がない。

 歌が持つ情報が沢山ある中で、私は昔から歌を聴くとき、メロディラインや言葉のリズムなどに集中して聴く癖がある。それはある種、歌と楽器を楽曲を構成する一要素として同列でくくっており、歌が持つたくさんの情報の中から“言葉が持っている意味”を汲み取ることが後回しになっているのだ。
 
 もちろん例外はあって、初めて聴いて意識せずとも言葉の方が勝手に突き刺さってくる曲もある。そしてそんな曲には強く魅了されているのも事実である。もしかするとそういった感覚が自分が歌詞を書くときの導になっているのかもしれない。

 私が歌詞を書くときはいつも、先に曲のメロディがあってその上に言葉を乗せていく。メロディから連想して浮かぶ“感情”や“色”のような抽象的なイメージと、普段自分が生きていて、世間や社会、関わる人たちに対して感じたり思ったりする具体的なこと。その抽象的なイメージと具体的な物事に、何かしらの共通項を探すところから始まりその曲のテーマを決める。そのテーマに基づいた言葉を思いつく限りひたすら紙に書き出していき、メロディに対してパズルのピースをはめていくように言葉をはめていく。

 そうしていく中で、その曲の持っているサウンド感やメロディに対してハマりの良い言葉、そして引っかかりのある言葉がふと出た瞬間、一気に曲の持つ世界観が広がり、それこそパズルのピースが埋まって一枚の絵が完成したときのような感覚になる。歌詞を書いていて一番気持ちのいい瞬間だ。

 今作『nest』に収録されている砂の山という曲の歌詞を書いたときもその瞬間があった。サビの最後に出てくる<眺めていることをやめて 砂の山を駆け登っていく>というフレーズがこの曲にとっての重要なピースとなった。

 私はどちらかといえば感覚的な人間なので、自分が普段感じている想いを言語化するのが非常に苦手なのだが、歌詞を書いていく中でそういう漠然とした感覚が具体的な言葉を纏い、形を持って浮かび上がり、自分が何をどう思っているのか、感じているのかを改めて気付かされることが多くある。そういう意味では私の中で作詞とは己との向き合いなのだと言えるだろう。

 「砂の山」のサビの最後の歌詞がハマった瞬間、曲が持つイメージと自分が抱えている感覚的なイメージが繋がった感覚があった。己の理想とは程遠い現状の自分。世間や友人知人との価値観の食い違い、それによって投げかけられる言葉。自信を失くし、私は打ちのめされていた。しかしそれにも気付かず漠然と日々を生きていた。「砂の山」の歌詞が書けたとき、これは今の自分に向けた言葉なのだと気付いた。

 重力に従い、ただ下流へと流れていく川の水のように、他人の言葉に流され、意志を持たず楽な方へと流れていく私に対しての戒めであり、自信を失い打ちのめされうずくまっている私に対しての鼓舞の言葉なのだと。一度歌詞が書けると、それまで宙に浮いていた感情が地に足をつけ、視界が開ける。
 
 もし私と同じような気持ちになっている人がいるのであれば、この曲がその人にとっての導になってくれたら嬉しい。周りに惑わされず、ただ自分が価値を感じる事を信じて積み重ねて行けば、いつか辿り着けると信じて。私はまた少しずつ砂の山を積み上げてゆく。

<コウタロウ>

◆紹介曲「砂の山
作詞:コウタロウ
作曲:コウタロウ

◆2nd album『nest』
2019月12月4日発売
生産限定盤 VIZL-1675 ¥3,500+税
通常盤 VICL-65278 ¥1,900+税

<収録曲>
1.Candy
2.雨夜の月
3.Shadow
4.砂の山
5.ナイトフォール
6.To Be Continued
7.群青について
8.I Don't Know