I am a motherミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | この頃 酸っぱい果物 やたら食べる 気づけば食べている オレンジ グレープフルーツ 喫茶店では もちろんレモンスカッシュ もしかして これってアレじゃないのかな そういえば心当たりはあるぞ 近所の産婦人科のドアを勇んで 私は開けて保険証を出し ベンチで文庫本開いた 名前を呼ばれて中に入り 私は予想通りの言葉を聞いた そうか そうか ついに I am a mother 帰りにデパートへ寄って おもちゃ売り場 子供服売り場を ぼんやり眺めて歩いた 何もかもがキラキラ輝いてた あの人は喜んでくれるかしら どうだろう 仕事人間だから 夕食の支度を終わらせて 一息つこうとソファーに横になって 時計見たらもう7時だ あの人今日も残業かしら この頃残業続きだから心配 体壊さないといいけど あの人が帰って来た いつものように疲れた顔で 私は何気ない風を装って 背広を脱がせてあげながら言った 「へぇ そうなんだ 良かったじゃんか」 あの人は私のお腹に手を当てて 照れ臭そうに笑った 私もつられて 笑いながら 嬉しくて ありがたくて 涙が出たの 頑張らなきゃ そうよ I am a mother |
I am not a motherミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 心当たりは確かにあって できても当然な暮らしな訳で 育てていく自信は無いけど おろすなんてありえない 彼はどうせ逃げるだろうし どうしよう どうしよう こない こない アレがこない 誰かに相談できる訳ない 私一人で抱え込むしかない 気付けばお腹 擦ってる自分 検査薬は買ったけど 怖くて まだ開けてもいない どうしよう どうしよう こない こない アレがこない 説明書を何度も読み返す 私はどうやらmotherじゃないらしい 安堵のため息が漏れ同時にどうしようもない寂しさが私を襲った ほんの少し幸せだったから いつもと同じ朝 揺れるバスの中 無理に軽い調子で彼に打ち明けた 「何だよ早く言えば良かったのに」そう彼は笑うけど 絶対ウソ 絶対逃げるくせに 女って孤独だ 校門の前で彼と 手を振って別れる 遠ざかる彼の背中 いなかったね二人のbaby 一時限目は英語だな |
あけましてミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | やだよ おみくじやらんって やっておいでよホラ ここで待ってるからさ 君は ひらひら駆け出す 僕は空を見る なんなんだこの時間 先月僕はフラれたんだ それなのにまた呼び出された 断れば良かったんだろうけど まあ そんな事できませんよ 待ってるよ いつまでも 君じゃなきゃダメなのよ 誰よりも君を好きなのは僕さ 待ってるよ いつまでも 苦しいが仕方ない こんなに近くにいるのにな あーあ なによ なになになんです? 小吉 はあそう つうか近いって近い 昔の歌の世界みたい ダサすぎるのは承知の上 嫌いになれるもんならなりたい まあ そんな事できませんよ 待ってるよ とはいえね つまみ食いはあるだろう そりゃそうさ 僕も健全なヤング 待ってるよ いつまでも 奴隷でもなんでもいいさ こんなに好きなのに 好きなのに! 待ってるよ いつまでも 君じゃなきゃダメなのよ 誰よりも君を好きなのは僕さ いきましょか どこいこか? 帰ります? なんだよもう NO! こんなに近くにいるのにな あーあ 今年もヨロシクお願いします |
熱海ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 君は蜜柑の皮をむき 丸ごと一つ俺に手渡した 窓の外は山と 空汽車は走る 体震わせて 車内アナウンス そろそろ着く頃か バッグを肩にかけて 君が立ち上がる 全部何もかも忘れよう やり直せるさ 誰も俺たちを 知らないこの街なら 全部何もかも忘れよう 俺がついてる 何よりも温泉がある 君は海へ行こうと言う いいね 俺もそのつもりだぜ 10分くらい歩いたら 波の音と潮の香りが 沈んでゆく陽は 俺らを赤く染め バッグを海に投げて 君がしゃがみこむ 全部何もかも忘れよう 波に流そう 好きなだけ泣きなよ 俺はここにいるさ この世で一番美しい 君が死ぬなんて 断じて間違ってる そうさ何もかも忘れよう やり直せるさ 誰も俺たちを 知らないこの街なら 全部何もかも忘れよう 俺がついてる 何よりも温泉がある 湯あたりには気をつけろ 俺の愛にはのぼせろよ |
今はまだ恋愛がわからずミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 誰かを好きになるという感情が わからない 親しみじゃなくて いわゆる恋というやつが もう少し大人になればわかるんだろうか つっても私 23歳 華の新入社員です 彼氏がいた事も なんか流れでね まああったけどさ どれもすぐに ああ 終わった このまま独りで生きていくのかなあと ぼんやり ぼんやり思うけど なんだか 全然 寂しくはないんだよなあ 私は多趣味で 美人ですものね 調べたら 私みたいな人間って 多いみたい ほらこんなにもよ 案外コレが普通かも 「好き」がわからない 人だらけになって 各々の子孫は途絶えて マジ人類滅亡っすか? でも近い将来 人間なんてさ もっと簡単に 作れるでしょう そうなるでしょう このまま独りで死んでいくのかなあと ぼんやり ぼんやり思うけど それが何?何なの? 別にどうって事ないじゃん 私は一生 猫と暮らします あん お猫様 このまま独りで生きていくのかなあと ぼんやり ぼんやり思うけど なんだか 全然 寂しくはないんだよなあ さあ 休憩 終わりです 午後からもひとつ がんばりましょう |
居るんだミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | 松浦晃久 | 君が居なくなってから この部屋も随分汚くなった 煙草の煙が部屋いっぱいに広がっている 君が居なくなってから ビールがなんだか不味くなった この苦い酒が一人の僕のいい薬だ 仕事から帰って来たって 誰も待ってない ネクタイほどいてテレビをつけた 戻りたい 僕が馬鹿だった やり直したい もう一度君を抱きしめていたい 今でも君が僕の中に 居るんだ 居るんだ 居るんだ 君が居なくなってから あいつの電話も急に途絶えた 僕のほうからも電話は最近してないんだ アルバムの中の二人 恋する二人 二つの枕は今もそのまま 殴りたい あの時の僕を 忘れられないあの時の君の大粒の涙 今でも君が僕の中で 笑って 怒って 目を瞑っている 戻りたい 僕が馬鹿だった やり直したい もう一度君を抱きしめていたい 今でも君が僕の中に 居るんだ 居るんだ 居るんだ |
エッチばっかミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 会ったらエッチばっかりするの 遠距離恋愛ってこんなものなのかしら だってさ だってだってだってだって 離ればなれなんだもん しょーがないじゃない 私本来は こんなにお盛んな女じゃない 彼のせいだわ 彼がどスケベだからなの といってもカラダ目当てでは無いはず だって初めての時 彼できなかったもの 私 チョー落ち込んだもの 会ったらエッチばかりするの 猿じゃあるまいしって我ながら呆れてる まったく 若くないんだからさ 腰がもたんわよ えへへのへ 一緒になっても こんなにかまってくれるかしら まあ大丈夫よ 彼はどスケベ野郎だもの といってもカラダ目当てでは無いはず だって初めての時 彼できなかったもの 私 チョー落ち込んだもの 死ぬまで言ってやる 勃たなかったもの ふざけんな お前 勃たなかっただろ |
雄と雌の日々ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | 伊藤ミキオ | 目の前の白い壁を ずっと見ていた 忙しそうに小走りで 行き交う看護婦さん 俺が長椅子に座り 待ってるあいだに 命を消す手術を あいつは受けてた 若すぎる俺たちには まだ 親になる勇気がなかった もしも俺たちが ガキじゃなくて 自立していたなら 幻じゃなくて 今 俺のそばに子供がいたのかな その日の何日か前 あいつの親父と 話をした 少しだけ あいつの家で 無口な男二人は お互い俯いて 親父さんは一言 「まぁ しょうがねぇな」 俺に似た人だと思った もの凄く怒ってたんだろうな 何故か あの頃の俺たちには 罪の意識なんか全く無く それからも懲りもせずに 雄と雌の日々は続いた 若さって 今思うと もの凄く残酷なんだよな あいつとは別れたけど ひでぇ女だった 七人とやってた 俺の子供じゃ なかったかもなぁ 俺 騙されてたのかも しんないなぁ 俺の子供じゃ なかったかもなぁ 俺 騙されてたのかも しんないなぁ Oh oh oh Ah ah Ah ah ah... |
OH! Gメンミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | じゃあ お母さん 住所教えて あとご主人の連絡先と… あ、ご主人いないの? そっか亡くなったのね それは失礼 じゃあ お母さん 誰でもいいわ 迎えに来れる人いないかな? そっか じゃあ警察の人に来てもらわないとね 当たり前じゃん だってこれ 立派な犯罪だよ 泣いても駄目よ 何?ご主人いるの? どうして嘘つくの!! 犯人は54歳の主婦 豆腐とティーバッグと白髪染めと キャットフードを万引きして店を出たところ Gメンに捕らえられた Oh! Gメン Oh! Gメン じゃあ お嬢さん 住所教えて あと生徒手帳持ってたりする? 持ってるの 偉いね 一応学校のほうにも 連絡しなきゃ じゃあ お嬢さん お家の誰か 迎えに来れる人いないかな? そっかじゃあ お母さんに来てもらいましょうね それにしても さっきからあなた落ち着いてるわ 普通だったら そんなに涼しい顔でいられないものだけど 犯人は16歳の娘 これで28回目の犯行 コスメグッズを万引きして店を出たところ Gメンに捕らえられた Oh! Gメン Oh! Gメン 犯人は心の深い闇を 晴らすべく今日もGメンは行く たとえどんなに熟練された巧妙な手口も Gメンは見逃さない Oh! Gメン Oh! Gメン |
母さんミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 母さん あなたは僕を今でも本当に愛してくれていますか 母さん あなたを僕は苦しめ悩ませたくさん泣かせたんだろう 母さん とうとう来週の水曜日だよ 母さん とうとう法律に僕消される 母さん あの日はとても頭が痛くて仕方が無かったんだよ だから 母さん あの日の事は何にも覚えてないんだ ほんとに本当 母さん 親戚のみんなは何て言ってるの 母さん 近所の人にいじめられてないかい 母さん こうして手紙を書くのって初めてだよね 最初で最後の手紙になっちゃったけど 母さん あの日に僕がやった事は僕の意思じゃない 誰かが僕の脳ミソいじくったんだ 母さん あなたは僕を産んだ事 後悔してませんか 後悔してないのなら嬉しいです 母さん あなたの息子に生まれて僕は幸せでした この僕を産んでくれて本当にありがとう 母さん さよなら お元気で 向こうでいつも見てるから 母さん 母さん 母さん |
顔2005ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | 山下隆通 | 変わりたい どうして私は こんな顔なんだろう ママに全然 似てないんだもん 悲しい 好きな人は 私のことなんか 見向きもしないし 友達には みんな彼氏がいる 悲しい アイドルみたいに チヤホヤされたい 鏡を見てると 涙が いつも溢れ出る 明日こそは ママに打ち明けよう 私 整形手術がしたいの 私もう こんな顔 嫌なの 恋がしたい 恋がしたい 恋がしたいの ママが言うことだって 私も理解しているわ だけど ママは綺麗だから 絶対わからないわ 女になりたい 男を感じたい もう耐えられない 助けて ねぇ お願いママ パパには まだ 言わないでおいてね 明日 私が自分で言うから そんなに悲しい顔しないで ママって泣き顔も綺麗だよね それに比べて 私の顔は… いや もう言わない もう言わないわ 私もママに負けない程の 恋がしたい 恋がしたい 恋をしてやる パパには まだ 言わないでおいてね 明日 私が自分で言うから そんなに悲しい顔しないで ママって泣き顔も綺麗だよね それに比べて 私の顔は… いや もう言わない もう言わないわ 私もママに負けない程の 恋がしたい 恋がしたい 恋をしてやる |
片想われミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | アーケードの入り口 いつもの通学路 今朝も彼女は立っていた 恥ずかしそうに立っていた 目が合うとぶるっと震えてた ひとつ年下で バレー部の彼女 いったい帰宅部の俺のどこに惚れたというのだろう すれ違う時なんか言ってたが 聞こえないフリをした やりたいときに好きなだけ やれる関係でいいなら 考えたっていいけど 付き合ってもいいけど やりたいときに好きなだけ やれる関係がいいけど… そんな都合のいい話 ある訳ないよな わかってる 手紙もメールも ずっと全部無視 かれこれもう一年だな よくもまあ懲りないもんで 修行かな さてはドMかな 乳は結構あると思われる 平凡なルックスだけど なんか可愛く見えてくる それでもやはり 俺はどうしても 好きにはなれないのだよ やりたいときに好きなだけ やれる関係でいいなら 考えたっていいけど 付き合ってもいいけど やりたいときに好きなだけ やれる関係がいいけど… そんな都合のいい話 ある訳ないよな わかってる もうすぐ卒業だから こいつらともおさらばだ 昼休みの喧騒 抜け出して廊下に出ると 彼女が立ってたんだ 思い詰めた表情 図書室に連れて行かれて 面と向かって言われた 彼女の告白に俺は 慌ててつい口が滑った 「やりたいときに、好きなだけやれる関係でいいなら、 考えたっていいけど、付き合ってもいいけど」 「それでも私構いません。先輩のそばにいたいです」 彼女はそう答えたのだ なんて最低なんだろ俺 彼女がホッとしたように 微笑んだ とりあえず放課後うちに来てもらう約束をした |
彼は昔の彼ならずミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | 頑母堂 | 夕べはちょいと飲みすぎた 目を覚ますともう夕暮れ時 仕事場があるマンションへ 俺はのろのろ出かけるぜ ドアを開けるとアシスタントの 小僧どもがカリカリやっている 俺は自分のデスクに座り とりあえずまずは一服だ 灰皿の横に手紙が一通 送り主を見ると見覚えある名前 どっかのホステスだろうか 首をかしげて封を切る -手紙- ミドリカワさんお久しぶりです。 いやもう先生と呼ぶべきですね。 お姿いつもテレビや雑誌で拝見させていただいてます。 私のこと覚えてますか? 昔となりに住んでたガールです。 住所が変わったようなので、こちらにお手紙書いてます。 あの頃はまさか先生がこんな偉い漫画家さんに なってしまうなんて… しゃらくせえ なんなんだこの女は 俺を誰だと思ってんだ 「諸君あとは頼んだ 俺は出かけるぞ しっかり働けよ サボると承知しねえぞ」 アシスタント達に俺は叫んで 夜の街へと繰り出した |
観覧車ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | ゆっくりと空に近づく 街が遠ざかる 缶ビールもどき開けて 一気に半分飲んだ 広がるパノラマ あくびをしたら 涙で視界がゆらゆら はーあ 明日の朝には俺は空港 故郷に帰る飛行機へ 明日の朝には俺は空港 山と雪のあの街へ 「今の時代どこにいたって一緒だよ」なんて そんなの本心じゃない そりゃここがいい ビールがないよ ビール飲みたいよ 惨めだ ったくよー 消えたい はーあ 明日の朝には俺は空港 故郷に帰る飛行機へ 明日の朝には俺は空港 最期を待つあの街へ 明日の朝には俺は空港 故郷に帰る飛行機へ 明日の朝には俺は空港 山と雪のあの街へ ゆっくりと地上に近づく なんだもう終わりか 最後まで俺の片思いだったね はーあ じゃあね |
昨日ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 昨日 俺は夜の海へと車飛ばした 独りになりたかった 昨日 俺は千葉の女に海で誘われ そのままホテルに行った 俺の隣にはいつも 女の匂いがしてる 毎日違う女が近づいてきやがる 俺はいつまでこんなこと続けて行くんだろう 花に 草に 生まれたかった 愚かな人類よ 己の欲望の炎で自滅すればいい 俺の身体を貪る 女の顔を見てると 悲しくて悲しすぎて とてもやりきれない だけど俺は女たちが仕掛ける誘惑の 言葉 視線 無視なんかできない 俺にはそんな度胸 生まれつき無いよ 最低だ 地獄だ もういやだ 俺はいつまでこんなこと続けて行くんだろう 花に 草に 生まれたかった 愚かな人類よ 己の欲望の炎で自滅すればいい 滅亡すればいいんだ 今日も俺はキューバの女と酒を飲んでる この後 女の家に行く |
君は僕のものだったミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 小倉しんこう | | 髪を短く切ったばかりの 君が笑う 天ぷらそばを啜りながら 眼鏡が曇って真っ白け 強い日差しの下で水着の 君が笑う 子供のような体つきが 海へ走って行く いくつもの君を閉じ込めた このビデオカメラ 死ぬまで僕は 君を撮り続けるつもりだったのに 真っ暗な部屋 膝を抱えて テレビの中の君を観てる 梅酒のグラス 君が持ち上げ 缶ビールで僕も乾杯する 井の頭公園 池の畔 君が笑う ボートには乗らなかったのに 何でだよ神様 いくつもの君を閉じ込めた つもりでいたけど 本物の君は 僕を捨てて消えてしまったんだなあ 真っ暗な部屋 膝を抱えて テレビの中の君を観てる 結婚式の 真似事をした このシーンで僕は毎回泣く いくつもの君を閉じ込めた このビデオカメラ 死ぬまで僕は 君を撮り続けるつもりだったのに 真っ暗な部屋 膝を抱えて テレビの中の君を観てる 裸の君が恥ずかしそうに 僕を見上げて 舌を出した 君が揺れてる 揺さぶられてる 僕は今夜もズボン下ろす 君が叫んだ 僕の名前を 確かに君は僕のものだったんだ |
旧江戸川ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 学校をさぼった いつもの道を左にそれて なんとなくここまでやって来た 土手を降りてみると 犬の散歩をしてるジジイ いぶかしげにこっちを見てるけど 知るか 傾斜に寝転ぶ 空が青い 草の匂い 水の音 ウケる ウケる あーあ この年で現実叩きつけられるかね しかし 舌打ち混じり 「クズが」とつぶやく 何度も何度も クズが クズが 親父のリストラで うちん中がおかしくなった お袋がパートに出はじめた 引っ越しするようだ 昨日そんな話をしてた マンションのローンが払えなくなったらしい 何処へ行くにも お先真っ暗 この川ともさよならか ウケる ウケる あーあ この年で現実叩きつけられるかね しかし 舌打ち混じり 「クズが」とつぶやく 何度も何度も クズが クズが 立ち上がり 歩き出す あてもなく 俺はお前らとは違う 俺は俺の道を行く 俺はお前らとは違う あーあ この年で現実叩きつけられるかね しかし 舌打ち混じり 「クズが」とつぶやく 何度も何度も クズが クズが |
帰路ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 東銀座駅に向かう地下道 地べたにうなだれてるの寝てるの 死んでるようにしか見えない人もいて そんな人らを僕らは極当たり前に やり過ごす やり過ごす 全く見えてないという風に すたすた歩く そうさ 見ず知らずの他人の命なんかより 出来るだけ早く地下鉄に乗る事の方が大事 そうやって生きてきた そうやって生きている 明日も仕事だ 早く風呂に入って ビールが飲みたい なんか ムカつくあの野郎の顔が頭の中から消えないよ 消えてくれ オンオフ上手くなりたい ガラスに映る俺の顔 案外悪くない 明日も仕事だ あと2日で休み なんで俺はここにいるんだろうか なんで君らはここにいるんだろね まあ色々あるさね なんとなく生きている なんとなく生きていこう 明日も仕事だ 早く風呂に入って ビールが飲みたい |
グッドモーニングミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 同じ制服 同じような背格好 バスの中 私だけ誰とも喋らない いじめられてる訳じゃないんだけど 友達はほぼいない みんな馬鹿だから お日様が脳天直撃 今日も暑くなりそうだ バス停で最後に降りると 先生がいた 私の恋人 背中に体当たり よろける先生 怖い顔で私を睨む 眼鏡がずれてるよ スカート翻し 私は小走り 先生!先生!先生! 今日も大好き 同じ制服 同じような背格好 教室で 私だけ明らかに浮いてる 孤立しないよう みんな必死なんだ こんな狭い世界なのに ご苦労な事です 窓際でひとり考え事 早く卒業したいなあ いつの間にチャイム鳴ったんだろ 先生が来た 私の恋人 あんな不細工の どこがいいんだろ? 私基本面食いなんだよ それなのに何なの? 名前を呼ばれて 元気にお返事 先生!先生!先生! 今日も大好き 一緒に暮らすんだ 来年の春に パパやママに反対されても 私は負けません 若気の至りなんて 絶対言わせない 先生!先生!先生!ずっと大好き |
恋に生きる人ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 恋に生きる人にはなれない 子供の僕は恋に生きていた 恋が僕の全てだった 今思えばそんな気がする 恋に生きる人にはなれない なりたくもないんだね不思議と 今はそれどころじゃねぇのよ 女の子は大好きだけどね 恋に生きる人を知ってる その人は高校生 背の小さい女の子 とっても可愛い女の子 金髪が似合う十七歳 恋に生きる人にはなれない そもそも男なんてものは 恋に生きる資格なんかない 資格というか権利がないんだ この高校生と話すとなんだか知らないけど いい気分になれるのは僕がこの子を好きだからか? 狂わない程度に好きだからか? 恋に生きる人にはなれない 子供の僕は恋に生きていた 恋が僕の全てだった 今思えばそんな気がする 恋に生きる人は綺麗だ なんせ恋にしか生きてないんだから 恋に生きる人にはなれない 恋に生きる人にはなれない |
恋の都営新宿線ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 彼女はいつも菊川から乗ってくる 水色のイヤホンをして あまりにも真っ直ぐな前髪 見た目は学生さん なるべく近くにいれる位置を僕は陣取る 運が良い時は隣にいれる事もあって その時の幸せな気分と言ったらない そうして彼女は市ヶ谷で降りて行く 帰りは流石に一緒にはなれない だけど今日はなんと! 飲み会か何かの帰りらしい彼女に遭遇した いつもの水色のイヤホンはしていなくて 軽くうなだれて 前髪がそよそよと揺れて 泣いてるの?泣いてるのかい? うーん どうなんだろ…… そうして彼女は菊川で降りてった 彼女の夢はあんまり見ない 見たとしてもいつもそこは地下鉄の中 そこでも僕はそっと彼女の事を 盗み見るだけ 彼女はいつも菊川から乗ってくる あれあれ? どうした? あれ? 水色のイヤホンはそのままだったけど 金髪だ! 化粧も濃い! まっすぐ前を見る眼差しはとても鋭く この世の全て呪うとでも言いたげなオーラ どうしたの? どうしたのさ? 一体どうしたのさ…… 訊きたい訊きたい でも 訊けない訊けない どうした?どうした?おい君!どうしたのさ!? |
恍惚の人ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | そろそろ朝刊が来たかな? ポストの中に手を伸ばした いつもと同じ 気分が暗くなる ニュースばかりだ そろそろ朝餉の時間だな ヨウコさんがやっと起きてきた マサシも寝ぼけ顔 ネクタイを締めてる 早く座りなさい 腹が減った ばあさんは まだ寝てるのですか ヨウコさん ヨウコさん まあいいか お先にいただきましょう ほら ケンちゃん ジジと一緒に食べよう そろそろ朝刊が来たかな? ポストの中に手を伸ばした ポストの中は何故かしら空っぽ 今日は休刊日か そろそろ朝餉の時間だな ヨウコさん腹が減りましたよ 「さっき食べたでしょ お腹を壊すわよ」とヨウコさん知らん振り 腹が減った ばあさんは まだ起きないですか ヨウコさん ヨウコさん この仏壇の写真の人は誰ですか ばあさんですか そうですか やめなさい 離しなさい 会社に遅刻するじゃないか 馬鹿なことを言うな 私の息子はまだ6歳なんだぞ お寺の鐘が鳴ってる 黒い猫が走って逃げた 私の手を引く この人は誰だろう 泣いているみたいだ 腹が減った お上がりなさい お客さんだよ ヨウコさん ヨウコさん なんだ2人は知り合いですか まさしさん? ウチの息子もまさしです さっきからここに座ってる この子は一体どこの子だろう ヨウコさん ちょっと この子は誰ですか? ケンちゃんですか はじめまして |
心ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 私が整形手術をしたのは5年前の夏 それからというもの私の人生は 大きく変わった 現金な男たちは急に私の元へやって来て 見え透いた愛の言葉を恥ずかしげもなく 囁いた 誰一人 私に愛の意味を教えてくれなかった だらしのないあいつらを 私はボロボロにして捨ててやった 幸せとは何でございましょう 私にはもうわからないの この美貌を手に入れても 私の心は昔より寒いわ 幸せとは何でございましょう 私にはもうわからないの どなたかどうか教えてくださいませんか お願い 昔の友達にはあの夏以来ずっと会ってない 会いたいけどどうしても会いに行けない みんな元気かしら? 両親の 私を見る目は未だになんかよそよそしい 「ごめんなさい」 と言いたいけど 何かが邪魔して 言えないの 何故でしょう 全てがうまく行くと思っていたのに こんな事になるなら 前の顔のままでいたほうが良かった 幸せとは何でございましょう 私にはもうわからないの この美貌が邪魔をして 私の心を誰も見てくれない 幸せとは何でございましょう 私にはもうわからないの どなたかどうか助けてくださいませんか お願い 幸せとは何でございましょう 私にはもうわからないの この美貌を手に入れても 私の心は昔より寒いわ 幸せとは何でございましょう 私にはもうわからないの どなたかどうか教えてくださいませんか お願い 幸せとは何でございましょう 私にはもうわからないの どなたかどうか助けてくださいませんか (お願い) |
こちょばしっこミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 同じたんぽぽ組のノッポで 目が細い明るい女の子だった 僕は彼女といつも2人で こちょばし こちょばされ キャーキャー遊んだ たまにお尻や太ももに触れてしまうときがあり そんな時はいつも甘い目眩が 彼女は顔を真っ赤にして笑っていた 子供には似つかわしくない淫靡な笑いだった 僕も同じような顔をしていた事だろう 疲れた僕らは遊戯室の隅 並んで座ってみんなを眺めた しばらくすると彼女は復活 こちょばし こちょばされ ゴロゴロ転がった エスカレートして気がつくと彼女の白いタイツの 中に僕はいつも手を入れていた 彼女は顔を真っ赤にして笑っていた 子供には似つかわしくない淫靡な笑いだった 僕も同じような顔をしていた事だろう 今考えると何故先生が 止めに来なかったのか 不思議でしょうがない 彼女は顔を真っ赤にして笑っていた 子供には似つかわしくない淫靡な笑いだった 僕も同じような顔をしていた あの時から 僕の好色な人生の道筋は決まってた 3度の離婚を繰り返し えらく貧乏だ 隣で20も下の俺の女が眠ってる |
ごろごろ物思いゆるめるモ! | ゆるめるモ! | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 悲しい事 悔しい事 特に無かった 今日も1日 嬉しい事 楽しい事 なんも無かった 今日も今日とて そんなはずは無いんだろうけど 今パッと出てこない つかなんか おなか減ったよね でも おふとん出るのおっくうだ 歯みがいちゃったし はーあ 寝れるかな 寝れるかな 寝れるかな 明日もお仕事だもの 早く寝たい 早く寝たい 早く寝たい だりーな お仕事行きたくねー 孤独だなあ この世界で 私ひとりが生存者かね いやいやいや 私も実は 死んでるのかも はは なんてね 寝返りとため息のループが 永遠に続きそう つかやっぱ おなか減ったよね でも もうこんな時間じゃないの ブタになっちゃう はーあ 寝れないな 寝れないな 寝れないな 明日もお仕事なのに 早く寝たい 早く寝たい 早く寝たい どうしよ 明日マジどうしましょ もう あきらめた ダメだこりゃ 腹へった カップ麺 たしかあったはず おや 邪念きた 邪念です なんだこりゃ 落ち着け 深呼吸しましょ テレビつけ 眩しさに 目を細め どうしよ 明日マジどうしましょ 私は恋をしてるのかしら |
上京十年目 神にすがるミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | どうして俺は ここにいるんだろう 一日中 電話の前 雑居ビルの3階 田舎の家族 元気でいるかな 今の俺の姿を 見たら泣くだろうな 知らない人達に 電話をかけまくる 「もしもし母さん? 俺だよ俺 実はさぁ…」 罪悪感 胸の奥 押し潰して 嘘八百並べ立てるのさ こんなことするためにわざわざ 東京に出てきたわけじゃないのに どうして俺は まだ生きてるんだろう 神様は俺のこと 怒ってないのかな 俺みたいな奴は 生きてても仕方ない 周りの人達を 悲しませるだけだもの 残酷なお方です あなたは 早く俺を殺してください 駄目ですか そんな暇ないですか 神様 あなただけは 俺のこと 見捨てないで 見捨てないで 罪悪感 胸の奥 押し潰して 嘘八百並べ立てるのさ こんなことするためにわざわざ 東京に出てきたわけじゃないのに 残酷なお方です あなたは 早く俺を殺してください 駄目ですか そんな暇ないですか 神様 あなただけは 俺のこと 見捨てないで 見捨てないで |
スカイツリーミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 毎日大きな橋を渡って 駅まで十分歩きます 呆れる程に見晴らしが良くて 正直田舎くさいです スカイツリーが見えるのは少し いやだいぶ嬉しかった 二人で一緒に見に行ったのは 九月の暑い日でした たくさんの人を裏切って たくさんの人を失望させて 流れ流れて この街に来ました 全てを一から やり直すために 今は一人だけど いつか いつか いつか あなたと一緒になりたいです なりたい 電車はいつも空いてます 読書と昼寝がすすみます どこへ行くにしても大体 一時間くらいかかるんで スカイツリーは近いはずです 路線図で見てもなんとなく そりゃそうだ こっから見えるんだもん 今日も真っ直ぐに立ってます たくさんの物を失って たくさんの傷を心に負って どうにかこうにか この街に来ました 一からあなたとやり直すために 泣いてみたいけど 出ない 涙 出ない でっかい川の流れ 日は沈む 晩メシは何にしよう 今は一人だけど いつか いつか いつか あなたと一緒になりたいです なりたい 幸せになりたい |
すごいきらいミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | ムカつくとか 死んでほしいとか いつも思う いつもいつも バカにすんな 何様のつもり? いつも思う いつもいつも あいつのデカい手 右だけ長い爪 あいつのクセっ毛 こびりついて消えてくれない きらいきらい すごいきらい なんであんな男なんか きらいきらい もうこりごり さよならしたい 早く もう若くない 遊んでられない いつもつらい 夜になると そんな余裕 ある訳ないじゃない 今夜も飲む 飲むよ 飲むの それでもやっぱり 喋ると笑っちゃう 甘えているのは もしかして私なのかな きらいきらい すごいきらい なんであんなクソガキと きらいきらい もううんざり さよならさせてお願い ケータイ見ちゃったから 知らんぷりはできない いやだいやだ もう無理です 私の中から早く消えて いやだいやだ こんな現実 もうたえられない きらいきらい すごいきらい ホントだもん ホントだもん きらいきらい ウソじゃないもん これ以上泣かせないで きらいきらい すごいきらい なんであんな男なんか きらいきらい もう限界 さよならできるのかな 私 |
銭湯の思い出ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | 湯船で僕らが騒いでいると いつもおじさんに怒鳴られた 「うるせーなガキども!」坊主頭でプロレスラーみたいだったおじさん おじさんのでっかい背中には綺麗なカッコいい絵が書いてあって それはお尻にまで届く程の 大きな大きなものだったんだ ある時「おじさんの背中綺麗だね」と言ったら 「バカヤロー綺麗なもんか」と照れるように背中を隠した それが刺青というものだったという事を 知るのはだいぶ後になって おじさんには娘さんがいて いつも一人外で待っていた 僕らは湯上がりの体を冷ましつつ 女の子の様子を観察した おじさんが出て来ると女の子は コーラを一気に飲み干して おじさんのぶっとい腕に掴った 母子家庭の僕は羨むばかり あんなお父さんがいたらなあ 二人を見ながらいつも思った 女の子の手を引きながらダミ声で歌ってた歌が 「人生を語らず」という歌だったという事を 知るのはだいぶ後になって 中学生になって僕らは 銭湯に行かなくなってしまった そしてあの女の子と同じ学校になるとは まさか思ってなかった そもそも同い年だったとは 何だか大人っぽく見えたから テレビに出て来る女優さんのような 彼女に僕は夢中になった 僕は想いを打ち明けて 運よく付き合う事が出来た 「あんなお父さんがいたらなあ」というあの頃の夢が 23になる春に叶うんだっていう事を 知るのはだいぶ後になって 今でもお義父さんとはたまに 銭湯に行く事がある 背中の絵は少し萎んでしまったが やさしい笑顔とダミ声ははあの頃のまま |
それぞれに真実がある(Single Version)ミドリカワ書房 | ミドリカワ書房 | 緑川伸一 | 緑川伸一 | | パパはママと別れることになった もう二人の間に愛はない パパには好きな人が居るし お前だって知ってるだろう この前紹介した人だよ あの時は友達って言ったけど ママとは正反対の大人しい内気な人なんだ 今まで嘘ついてきてゴメンな ママがパパのこと 何て言ってるか知らないけど パパはママと 離れていたほうが お前と仲良くなれると思うんだ 何を言ったって無駄かもしれないけど お前には俺の血が流れてんだ ママと別れたって俺たちは親子だから 一生俺はお前のパパだからな ママの言っている事は全部嘘じゃないけど パパはおまえのことが本当に大好きなんだよ 笑っちゃうかい?だけどね これがパパの真実だから 何で泣くんだよ? 初めてお前に手をあげた時でも泣かなかったじゃん パパみたいのと付き合っちゃダメだよ お前は綺麗だから心配だなぁ 何を言ったって無駄かもしれないけど お前には俺の血が流れてんだ ママと別れたって俺たちは親子だから 一生俺はお前のパパだからな |