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amazarashi ライヴレポート

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【amazarashi ライヴレポート】 『amazarashi Live Tour 2020 「ボイコット」追加公演』 2021年11月17日 at LINE CUBE SHIBUYA

2021年11月17日@

取材:田山雄士

2021.12.06

“私は、私の法律ではない。”“私は、私の奴隷ではない。”“私は、私のジャンルではない。”――開演10分前になると、秋田ひろむ(Vo&Gu)の肉声、そして風音や重低音とともに、自身の存在意義を訴えるようなメッセージの数々がステージにかかった透過スクリーンへ次々に投映され、そのモノローグはやがて切迫したものとなり、ライヴ本編に向けて緊張感がじわじわと高まっていく。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で度重なる延期を経たamazarashiのライヴツアー『amazarashi Live Tour 2020「ボイコット」』。その追加公演が11月16日(火)と17日(水)に東京・LINE CUBE SHIBUYAで行なわれた。本稿では17日(水)公演の模様をレポートする。

先述したモノローグの積み重ねから《応答せよ、応答せよ》という呼びかけにシームレスにつなげ、透過スクリーンの奥に秋田と豊川真奈美(Key)をはじめ、サポートを務める井手上誠(Gu)、中村武文(Ba)、橋谷田真(Dr)がすでに板付く中、アルバム『ボイコット』のオープニングを飾る「拒否オロジー」でライヴが鮮やかにスタートした。鬼気迫るテンションでの朗読、ど迫力のタイポグラフィーと映像を用いた演出が早くも素晴らしく、アウトロでは“青森からやって来ました。amazarashiです!”と秋田が声高らかに叫ぶ。今までの彼らのライヴを振り返っても、こんなに気迫十分なオープニングは初めてだ。

ステージを網目模様で覆ったり、“KEEP OUT”の文字が入ったバリケードテープや夕日の光が立ち現れたり、会場の天井と壁面に丸いボール状の照明を灯したりと、「ヒガシズム」以降はグラフィックムービーや歌詞のカットアップなどの演出がより洗練され、バンドサウンドもどんどんパワフルに。この日シングルがリリースとなったばかりの新曲「境界線」も序盤に飛び出し、《存在意義はいつだって自分以外》《存在価値はいつだって自分の中》というラインが胸に響いてくる。やはり、いつにも増して秋田が発する言葉のエネルギーがものすごいと感じさせられた。

楽曲の合間には時折、語りを入れる秋田。“酷かったこの一年も、ようやく始まったこのライヴも、例外なく終わりはある”などと、まるでストーリーテラーのように場を彩りながら時間が進む。豊川が奏でる凛々しいエレピの音色が存在感を放った「帰ってこいよ」、大粒の雪が降るドラマチックな演出(タイポグラフィーは雪の結晶を象ったデザイン)と秋田のファルセットが本当に美しかった「真っ白な世界」、カットアップされた文字がゆっくりと無造作に落下する中でセンチメンタルに届けた「少年少女」、浮かぶ水泡や轟音へ移り変わるアンサンブルに思わず見惚れてしまった「水槽」、バンドサウンドが一段とタイトに激しく鳴り響いた「抒情死」。amazarashiならではのアプローチでただひたすらに没入させてくれる展開が堪らない。

ドラムンベース調のビートに乗せて、思わず本音を押し殺してしまう後ろめたさを嘆く「マスクチルドレン」。さらに「馬鹿騒ぎはもう終わり」「世界の解像度」とミニアルバム『令和二年、雨天決行』(2020年12月発表)の収録曲も続けざまに披露し、マスク姿のオーディエンスをリアルタイムでスクリーンに映し出す演出を含め、コロナ禍における日々の葛藤や憂鬱をも繊細に表現してみせた。自分たちが生きている世界と重ね合わせられるその芸術的なパフォーマンスは見事で、曲ごとにどんどん拍手が大きくなっていくのも頷ける。

叩きつけるような音塊とともに現実の無慈悲を歌った「独白」までを演奏し終えると、再び温かみのあるアンサンブルが顔を出す。陰と陽どちらの側面も覗かせた本公演だが、どちらかと言うとこの日は陽の印象が強く残ったというファンも多いのではないだろうか。《暗い歌ばかり歌いやがってと人は言うが ぜってぇまけねぇって 気持ちだけで 今まで ここまで やってきたんだ》と歌う「ライフイズビューティフル」などは、メジャーデビュー10周年を超えた今こそ、以前にも増してグッときてしまう。《大事なものは二度と離さないよ》《人生は美しい》といったフレーズひとつ取っても、その響きにはリリース当時以上の逞しさが宿っている。

ピアノの鍵盤映像を差し込みながら、ストリングスの同期も加えてしっとりと鳴らした「そういう人になりたいぜ」。憧れの人を想って《自分らしさ見失わず 人の事もちゃんと思いやる 人前で泣き言は言わないぜ》と精悍な声で歌うこのバラードを聴いていると、“弱者の立場を武器にすることはやめた”“自分のためだけにやっていた音楽が、徐々に自分以外のために頑張ることに喜びを見出せるようになった”“自分にも価値があることを確信できた”とインタビューで語っていた秋田の言葉を思い出す。そして、冒頭のモノローグは彼のそうした心境の変化が反映されたものだったのだと気づく。

“ツアーも後半でもうそろそろ終わりで、今は本当にホッとしています。各地でたくさん観に来てくれてどうもありがとうございました。amazarashiも10年続くとね、最近知ってくれた人とか、ずっと聴いてくれてる人とか、昔は聴いてたけど今は聴いてないとか、いろんな方がいると思うんです。でも、わいたちはずっと続けていきます。amazarashiまだやってるんだなと思い出してもらえた時、また再会できれば嬉しいし、いつでも待っていますので”

そう話す秋田の口調は実に穏やかで、これからのamazarashiの行く先を照らす光のような清々しさに満ちていた。温かい拍手に包まれる場内。クライマックスはギターのディストーションノイズ+流れ星や雨のムービーを交えて解き放った「未来になれなかったあの夜に」、雨の当たる列車の車窓をバックに秋田がアコギを弾きながら心地良く歌った「夕立旅立ち」と、別れの歌を重ねてエモーショナルにライヴを締め括った。

全ての曲を演奏したあと、もう一度“ありがとうございました!”と力強い声で感謝を伝えた秋田。より器の大きい表現に変わりつつあるamazarashiが、今後どうなっていくのか。ここに来て、また楽しみにさせられるパフォーマンスだった。次の10年の歩みにも期待したい。

取材:田山雄士

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アマザラシ: 青森県在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出がないながらも、絶望の中から希望を見出すズバ抜けて強烈な詩世界が口コミで広まり、瞬く間にリリースされたアルバム全てがロングセールスを続けている。ライヴではステージの前にスクリーンが貼られタイポグラフィーなどを使用した映像が投影されて行なわれるスタイルで独自の世界観を演出し、3DCGアニメーションを使ったMVは文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。

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