今でもまだ憶えてるよ、僕らがどうだったって

 聴けば、きっと囚われる。大阪出身の4人組ピアノロックバンド“SHE’S”が2019年2月6日にニューアルバム『Now & Then』をリリースしました。タイトルどおり、今(Now)とあのとき(Then)が詰まっている今作。今日のうたコラムでは、まさにNowとThenを気持ちが行き来する、新たなラブソング「Used To Be」をご紹介いたします。

車窓にオレンジの太陽
昔と相変わらず
河川敷で響く少年野球団の声

石段の上を歩いて
雨が止んでしまうと
何度も二人して傘を忘れていたっけ

互いに言葉が出てこない
一緒にまだ居たいのに
今でもまだ憶えてるよ
僕らがどうだったって
「Used To Be」/SHE'S

 「Used To Be」とは【以前は…だった】という“過去”を意味する言葉。つまりこの歌は離れてしまった<僕ら>が、かつては<どうだった>かを描いた回想曲となっているんです。今日、その記憶の再生スイッチとなったのが、車窓に差し込む<オレンジの太陽>でした。オレンジ色は、暖かさや楽しさ、懐かしさを連想させる色でもあります。

 そのためか、脳内に流れ込むのは温かな思い出のシーンばかり。かつて一緒に<河川敷で響く少年野球団>の快活な声を耳にした時間。また<雨が止んでしまう>まで話し込み<何度も二人して傘を忘れて>しまうほど、楽しくて夢中だった時間。そして、お互いに<一緒にまだ居たい>からこそ、好きだからこそ、言葉に詰まってしまった時間。

鞄は何色にするか
髪は巻いていこうか
悩んでは僕に尋ねたお出掛け前

「好きな曲を弾きたい」と
プレゼントしたギターで
不器用に でも嬉しそうにつまびいていたっけ

互いに何処に行きたいか
訊き合い 少し困り顔
今でもまだ憶えてるよ
僕らがどうだったって
「Used To Be」/SHE'S

 続く歌詞でも幸せなシーンが綴られてゆくのですが、どうやら二人はいろんなものを“共有”しながら過ごしていたであろうことが伝わってきますね。先ほどの<少年野球団の声>も<傘を忘れて>しまう癖も然り。<鞄>の色や<髪>型を選ぶことも。「好きな曲を弾きたい」と言ったのも<僕>の趣味を共有したかったからなのかもしれません。
 
 さらに<互いに言葉が出てこな>かったり、<互いに何処に行きたいか>訊き合ったりという言動も一緒。だからこそ<僕>は、あんなに“お揃い”を重ねてきたから<今でもまだ憶えてるよ>と想うと同時に、あんなに“お揃い”を重ねてきたのに、どこですれ違ってしまったのだろう…という想いにも揺られているのではないでしょうか。

How we used to be?
臆病な君を支えきれずに
How we used to believe?
恥ずかしいくらいに若かった
春風を聞くと思い出すんだ

傷つきたくない 傷つけたくない
その想いが 隙間が僕らを遠ざけてく
「Used To Be」/SHE'S

 もしかしたら、二人の関係が崩れてしまった原因も、哀しいことに“お揃いであったから”なのかもしれません。そのお揃いは<傷つきたくない 傷つけたくない>という想いです。<臆病な君>とそんな<君>を支えきれなかった若すぎた<僕>。どちらにも“愛を信じ切れない”という共通の想いが生じてしまっていたのだと思います。

How we used to be?
君の中にもう居なくても
How we used to believe?
忘れられそうもないんだ
How we used to be?
どれだけ短い時間でも
How we used to believe?
忘れられそうもないんだ
秋の風が思い出させるんだ
「Used To Be」/SHE'S


 僕らはどうだった?どう信じ合えていた? そうやって、あのとき(Then)の自分に問いかけるたび、今(Now)の自分だったらどうすることができるだろうと、手遅れな“たられば”を考えてしまいそうですよね。また、今日は<オレンジの太陽>が再生スイッチになりましたが、他にも<秋の風>やちょっとした“お揃い”の景色がきっかけになって、何度でも失ったものを<思い出させ>るのでしょう…。
 
 淋しい歌詞ですが、それでもなんとか前に進もうとしているかのような明るさを帯びたサウンドも印象的なこの曲。胸の内に<忘れられそうもない>記憶がある方は、是非<君>の顔を思い浮かべながら、SHE'S「Used To Be」を聴いてみてください。

◆紹介曲「Used To Be
作詞:井上竜馬
作曲:井上竜馬

◆3rd Album『Now & Then』
2019年2月6日発売
【初回限定盤】 TYCT-69138 ¥3,500+税
【通常盤】 TYCT-60134 ¥2,800+税

<収録曲>
1. The Everglow
2. Dance With Me
3. Used To Be
4. Clock
5. 歓びの陽
6. Set a Fire
7. ミッドナイトワゴン
8. Upside Down
9. 月は美しく(Album ver.)
10. Sweet Sweet Magic
11. Stand By Me