知らずにずっと あなただけを追いかけ続けた私は
生きる世界が違う王子様(ひと)に
憧れてしまった人魚姫です
夢から醒めたら 行き場をなくして…
抱きしめてください 波にさらわれるように
痛みを 感じてみたいわ
せめてひとつだけ 真実欲しいの
泡になってしまう前に 抱きしめて
私のナミダは 海へと滲むの あなた…さようなら
「人魚姫」/Flower
先日、うたコラムで“Flower”のニューシングル「他の誰かより悲しい恋をしただけ」をご紹介しました。表題曲は<禁断の恋>がテーマのラブソング。切なさと同時に、自らその恋に終止符を打つ女性の強さや美しさも描かれている楽曲でしたね。そして、本日は冒頭で、そのカップリング曲「人魚姫」のフレーズもご紹介いたしました!こちらもまさに“他の誰かより悲しい恋”の物語…。絶対に実らない、愛してはもらえない、どんなに求めても決して結ばれない…。そんな現状をこの歌の主人公は、<幼い頃に読んでいた 哀しい結末(おわり)の人魚姫です>と歌います。
みなさん“人魚姫”のお話はご存知ですか? 海で溺死状態だった王子を人魚姫が助け、恋をしてしまうところから物語は始まります。しかし人魚は人間に姿を見せてはいけません。そのため人魚姫は魔女にお願いして自分の声と引き換えに、尾ひれを足に変えてもらったのです。ただその魔術には「二度と人魚にはもどれない。そして、王子がほかの女性と結婚したら自分は海の泡になって消えてしまう」という条件付き。それなのに人魚姫は、人間になって彼の近くで過ごしても「王子を救ったのは自分だ」と声を出すことができず、結局、王子は他の女性と結婚することに…。
それでも最後に、人魚姫の姉たちが現れ「朝日が差し込む前に王子の胸にこのナイフを突き刺せば、また人魚姫に戻れる!」と希望を託すのですが、王子を愛している人魚姫にそんなことができるはずがありません。彼女はナイフを放り投げ、海へ飛び込み、朝の光と共に泡となって消えてしまったのです…。そんな人魚姫は哀れですが、自分の命を犠牲にしてまで誰かを愛し抜くというのは、そう容易いことではありませんよね…。そういう意味では“Flower”の「人魚姫」もただ哀しいだけでなく、痛々しいほどに人を愛する強さ・美しさが溢れた楽曲。表題曲の「他の誰かより悲しい恋をしただけ」に通じるものを感じます。
海に揺れてる 月夜の中で
小さな泡になって消えてしまいたい
いっそあたしが 人魚姫なら
泡になって消えてしまえるのにね
傷ついた顔 見せないために
偽りの笑顔 振りまいていたけれど
もっと私が嘘をつければいいのに
「人魚姫」/倖田來未
愛されなくちゃ 愛さなくちゃ
人魚も私も消えちゃうの
これ以上 泳げない 冷たい海で
悲しくて もう動けないよ
せめて ねえ 気づいてよ
いつもと違うって
泡に消えてく 前に
「人魚の声」/柴田淳
時は過ぎる 眠ったまま 気づかぬうちに
そばにいても 他人の夢には入り込めない
声を失くす 人魚姫が 残した恋の唄は
なんて 淋しさは果てしなく 私をひとりにする
あなたを待ち続けるために
明日 やさしいうでの中で 私は泣いてるのよ
哀しい夢だったと
おしえて おしえて あとどれくらいか
私が目醒めるときまで
「人魚姫の夢」/松任谷由実
他にも“人魚”がタイトルに含まれる楽曲を検索すると70曲ほどヒット。やはり哀しい恋の歌がほとんどです。しかし、人魚姫をどのように見つめるかは歌詞によってそれぞれ違いますね。倖田來未「人魚姫」の主人公は、愛を貫き通して泡になって消えた人魚姫にはなれず、<どうすればいい?>と悲しみの海でユラユラと漂っています。一方、柴田淳「人魚の声」の主人公は人魚姫と自分を重ね合わせ<あんなふうに消えるのは嫌だ、愛して、気づいて>と声にならない声で伝えているのです。そして、松任谷由実「人魚姫の夢」は、童話を思い出し、人間の姿でしばらくの間だけそばにいることができた人魚姫の“儚く脆い幸せ”に焦点をあてているのではないでしょうか。
では、人魚姫のように“好きになった人にすでにお相手がいた場合”あなたならどうしますか?人魚姫のように身を引いて、自分の恋が海の泡のように消えてしまう道を選びますか?それとも…。