10年後の自分が聴いたときを想像してみる。

 2023年10月25日に“コアラモード.”が約5年ぶりのオリジナル・アルバム『COALAMODE.3 ~Blue Moment~』をリリース! 今作には、TVアニメ『俺だけ入れる隠しダンジョン』エンディングテーマ「ネモフィラ」をはじめとしたアニメタイアップ曲や、TVCMソングなど多数タイアップ曲が収録。彼らの多面的でバラエティに富んだ楽曲たちを楽しめる一枚となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“コアラモード.”による歌詞エッセイを4週連続でお届け! 今回が最終回。執筆を担当したのは小幡康裕です。綴っていただいたのは、収録曲「I'LL BE」にまつわるお話。ずいぶん前から温めていたこの曲を、改めて聴き返してみたとき思うことは…。ぜひ楽曲と併せて、エッセイをお楽しみください。



自分たちの「音楽性」とは、どういったものだろうか? 今でこそリリースしてきた作品群そのものが説明になるが、今から10年ほど前、コアラモード.結成当初―ほとんど持ち曲がなかった我々は、自分たちが生み出す音楽がどういった特徴をもつのか、その作品で世の中にどうアプローチしていくのか、客観的に捉えるための材料を持ち得なかった。
 
というわけで、グループを結成こそしたものの、まずは一にも二にも曲作りをしなければ始まらない!ということで、自分たちに「1週間に1人7曲ずつ作ってくる」というノルマを課すことにした。すなわち、単純計算で1曲/1日のペースで作らなければならないわけだが、こんな作り方を始めると、曲作りが毎日書き留める「日記」のようになってくる。
 
日記のような作品を素のままに人に見られる(音楽として聴かれる)状態にする……というのは、心の深層を開けっ広げにするかのような痛い恥ずかしさを伴うことなので、そこから格好がつく作品にするために、ある時はどこか他人事っぽく角度を変えてみたり、ある時は直接的な表現を避けて回り道をしてみたりする。
 
そういう「表現の奥行き」を探す行程もクリエイティブな行為で、往々にして時間がかかるものなのだが……いざ「1日1曲」のペースで制作をしていると、何はともあれ時間がない。取り急ぎは肝要な部分を端的に表現するゼロイチの行程に全力を注ぐことになるのだ。つまり「カッコつけてる余裕がない」とも言える…。
 
じゃあ、そんなノルマを課すのは止めたら? とお思いになるかもしれないが、こんな具合に、1曲作ったらまた次の曲……そんなペースで千本ノックを繰り返す中で生み出された曲の断片たちは、今振り返るとどこか日記的で、赤裸々で、無垢だ。その開けっ広げな無垢さというものは、時として、ストレートの速球のような説得力を持つ。
 
今回紹介する「I'LL BE」という楽曲も、日記のように楽曲を作っていた2014年頃にデモの第一稿が仕上がっていた、ずいぶん前から温めていた楽曲だ。
 
<愛されたいと願っていて でも 傷つくのが怖くって ぎこちない笑顔 振りまいて ここまで来たけど 本音をどっかで偽って 小さな居場所 守ったって どうしても 虚しさは募った>
 
この楽曲の冒頭に記されたこの一連の文は、自分が物心ついた頃からずっと抱えているコンプレックスそのもの。普段生きるコミュニティの中の小さな居場所を守るために、本音を偽り作り笑いを続ける自分が嫌で仕方なかった……という、ある種のモノローグのような章である。
 
これはまさに赤裸々な内省で、日記のようにしたためた直球の心の深層だ。本来であれば、もっとカッコつけようと努めたであろうものを、見てくれを繕っているほど余裕のないこの頃の歌詞作りが、かえってこの無垢な作風を助長したのだと思う。
 
そして、デモの第一稿の作成からおよそ9年経った現段階で、いくつかのブラッシュアップを経て正式にレコーディングしなおしたこの曲をあらためて聴きかえすと、嘘偽りない「自分自身」が純度高く表現できてしまっているからなのか、妙な説得力であったり、ぱっと曲を聞いた時に飛び込んでくるメッセージのパワーが高いな、と驚くのであった。
 
今作『COALAMODE.3 ~Blue Moment~』は、5年ぶりのオリジナル・アルバムであると同時に、メジャーデビュー以前から温存していた楽曲群も多く収録されている。
 
ある程度活動を続けてきて、テクニックや経験値をベースにした安定した曲作りは出来るようになったし、最新こそが最善でありたい、と常々思っている。けれども、過去の曲作りを見返して、自分の作品の無垢さに驚きつつも、その説得力や、悔しいけれど今では持ち得ない角度の表現に学ばせられる部分が多くあった。それこそ、まるで日記を見返すような感覚かもしれない。
 
そして、今回の自分たちの最新作を、10年後の自分が聴いたときを想像してみる。今の自分のクオリティをゆうに飛び越えていてほしいなという気持ちと、「あの頃の俺たちも、イイな」と思わせてやりたい、というふたつの願いが同居している。
 
このエッセイを10年後の自分が読んだとき何を思うのだろう? そんな想像を膨らませながら、さらには向こう10年のコアラモード.の展望にもわくわくしながら、この文を結ばせていただく。
 
<コアラモード.小幡康裕>


 
◆オリジナル・アルバム『COALAMODE.3 ~Blue Moment~』
2023年10月25日発売
 
<収録曲>
1.ネモフィラ
2.ラッタッタラッタ
3.アンダンテ
4.わたしの願いごと
5.思い出コレクション
6.雨上りには好きだといって
7.ユラユラリカ
8.ビデオテープ
9.ビューティフルデイズ
10.I‘LL BE
11.カンパイ!
12.あなたに会えて
13.はるつげどり