大家さんと私のブルース~困った時はお互い様~

 2023年8月2日に“半崎美子”が4thミニアルバム『うた弁4 you』をリリース。ショッピングモールでのライブでこれまで多くのお手紙をもらってきた半崎美子からのお返事のような今作。「うた弁」シリーズ“第4弾”となる今作には『for』という意味も込められており、1通目という表現で、全8曲中7曲が書き下ろしのお便りのような仕上がりになっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“半崎美子”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、今作の収録曲「大家さんと私のブルース~困った時はお互い様~」にまつわるお話です。自身の活動にとって大切な出会いの集積。そのかけがえないひとつである、大家さんとの出会いとは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



都会の人は冷たいと聞いていた私は北海道から20歳で上京する時、覚悟した。
いざ東京へ上京すると「都会の人」ではなく、「全国から都会に集った人」がほとんどで、むしろ同志であった。
 
文京区にあるパン屋さんの住み込みからスタートした音楽活動は、お店がある一階と自分の部屋がある二階の往復だけで一日が過ぎていった。週に一度の休みの日に、タウンページ片手にレコード会社や事務所にデモテープを持ち込むという、直談判スタイルで歌手としての道を切り拓こうとしていた。
 
自分という原石を発見してくれる人をこちらが発掘する!という当時の前のめりな姿勢は、今もさほど変わっていない。クラブ、ライブハウス、そしてショッピングモールと歌える場所が広がっていったのは、そんな開拓精神と、何よりかけがのない出会いに恵まれたことにある。
 
ショッピングモールのライブで当時、ほとんどの人が通り過ぎていくなか、たった一人足を止め、涙しながらCDを買いに来てくれた人がいたこと。そんな出会いの集積が活動の原動力になっていた。
 
都会では毎日数え切れない人達とすれ違う。
たくさんの人達が行き交うなかで、歌を介してそんなたった一人と出会ったということ。私はその人と見えない何かで繋がっているような気がしてならなかった。
 
夢を抱き都会で奔走する一人として感じたことは、人の波にのまれたり、あえて流されたりしながら孤独を深める人達は、深いところで繋がっているという温かな感触だった。
 
「大家さんと私のブルース~困った時はお互い様~」は、8年間お世話になったマンションの大家さんへ宛てたお手紙のような1曲。
 
個人で音楽活動していた当時、収入が底をついて家賃を払うのが難しくなってきたことを相談したところ、大家さんがマンション掃除の仕事を与えてくれた。週に一度、自分の住むマンションの掃除を任せていただいたことで、私はその家で一人暮らしを続けることができた。2017年にメジャーデビューした時も、歌手活動をしている私のことを応援してくれていた大家さんは自分ごとのように喜んでくれた。
 
2018年、その家とお別れする日、空っぽになった部屋で鍵を返す瞬間、大家さんを前に感謝の言葉を伝えようとしたが、とめどななく溢れる涙で声が出ない。嗚咽のような声を漏らす私に「困った時はお互い様」という言葉をかけてくれたあの大家さんの優しさが忘れられず、そのまま歌にした。
 
親でも親戚でも友達でもない人が家族のように力になってくれた「困った時はお互い様」を、私も誰かに伝えていきたい。
 
<半崎美子>



◆紹介曲「大家さんと私のブルース~困った時はお互い様~
作詞:半崎美子
作曲:半崎美子


◆4thミニアルバム『うた弁4 you』
2023年8月2日発売

<収録曲>
1通目. 途
2通目. 雪の消印
3通目. この文字が乾く前に
4通目. 大家さんと私のブルース~困った時はお互い様~
5通目. リンドウ
6通目. 涙の記憶
7通目. 星を伝って
追伸. 地球へ with Anointed mass choir