めちゃくちゃ逃げたいタイミングランキング1位。

 2023年6月28日に“空白ごっこ”が新曲「ファジー」を配信リリースしました。同曲はドラマ『スイートモラトリアム』の台本を読んで書き下ろされた楽曲。恋愛や生き方に不器用な主人公たちの心情が揺れ動く様子やその曖昧さを、浮遊感のあるサウンドで表現したエモーショナルなミディアムナンバー。ドラマに寄り添って書かれたセツコの歌詞は、人間関係や選択に迷う多くの人にも共感できる仕上がりとなっているので注目を…!
 
 さて、今日のうたコラムでは“空白ごっこ”のセツコによる歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、新曲「ファジー」にまつわるお話です。決断を迫られたとき、どうしても優柔不断になってしまう。大事なものの前で怯えてしまう。そんなあなたへ。この歌詞とエッセイを受け取ってください。



めちゃくちゃ逃げたいタイミングランキング1位って「決断を迫られたとき」ではないでしょうか…。
 
私は強気にものを言うことが多く、決断もテンポ良くスパスパできると思われがちです。間違いではないのですが冷静かと問われるとそれは別で。人生において大事な何かを決めた後は決まって胃痛で立てなくなりますし、トチ狂って全てを間違えます。思い出したくないことがたくさんある。
 
時間はよく「過去・現在・未来」で三等分されて順に並べられますが、タイムトラベルができない私たちにはどう頑張っても輪切りの断面しか見えなくて、その現在が延々と連続されているとすらも認識できません。
 
そんな体なのに、世は目の前に対する一つ一つの選択で何手か先の景色が勝手に構築されていく仕組みで、理不尽だなーとよく思います。将棋じゃないんだからさぁ…。
 
待って、ってしてる間に決断すらさせてもらえなくなるなんてざらにあるし、時間はタイムトラベルさせてくれないくせにケツを蹴り続けてくる。あたふたしてる間に周りの人の顔がどんどん曇ってきて、その度にもっと焦る。
 
誰しもそうだと思うのですが、折角なら最善を選択したいしなんなら全てを得たい。スーパーマリオでいうと行き道に転がってるアイテムとコインを全部ゲットしたくなるし、その上で優雅にピーチ姫を助けるスマートな結末でいてほしくて、取りこぼすものはなくあって欲しい。
 
そうやって一瞬一瞬の全てを何度も抱き抱えようとして気づいたのは、私はそこまで器用じゃないということでした。
 
容量オーバーのものは必ずあぶれてしまう。腕から溢れてしまった瞬間のモヤっとした痛みは何を溢しても感じてしまいますし、悲しそうな顔を向けられた時には耐え難い激痛が走ります。
 
もうこんな思いしたくないからと全部の行動が不安定になって、余計に選択も絞れなくなって、取りこぼしては激痛を食らって。
器用ではないのに鈍感でもないというこの曖昧さに縛られては、また苦い思いをすることになるという最悪ループを何度やったことか。
 
ちょっとダラダラ書きすぎなので無理やり締めますが、「ファジー」の歌詞にはこういう自分の優柔不断な部分を素直に言語として残すことで、同じような苦しみを繰り返さないようにという自戒を込めています。
 
といっても否定するようなものではありません。
ここまでくるとこういう痛みはもう付き物なんでしょうし、自分の弱さや甘さを生真面目に責めてきたからこそ、正直な言い訳に目を背け続けて自分を過信したって意味がないと気づきました。
 
また大事なものの前で同じように怯えてしまった時、この羅列された言い訳の歌を「分かる~」と気休めに使ったあと、ちゃんと「ダサ~」と思えるようになりたいのです。
歌詞の最後の<分かりきった最後>というのは、私にとっては何度も繰り返している心底嫌な結末のことで、意思表示で詞を終わらせています。
 
作詞者の特権を使って拙い長文をめちゃくちゃ書きましたが、歌詞とかはそういうものなので、皆さんも都合良いように乗っかってください。
 
<空白ごっこ・セツコ>



◆紹介曲「ファジー
作詞:セツコ
作曲:空白ごっこ