しずかちゃんの牛乳風呂に入りたい

 『THE FIRST TAKE』に初登場し、ロングヒット曲「悪魔の子」を披露した“ヒグチアイ”が2ヶ月連続で新曲をリリース。11月23日には、ABEMAの人気恋愛番組『恋愛ドラマな恋がしたい in NEW YORK』に書き下ろしの新曲「ネオンライトに呼ばれて」を。12月9日には、NHKみんなのうた 2022年12月-2023年1月に書き下ろしの新曲「小さな夢」をリリースしました。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな“ヒグチアイ”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回が最終回。綴っていただいたのは、新曲「小さな夢」にまつわるお話です。あなたが今、やりたいことは何ですか? 小さな夢は何ですか…? ぜひ、歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



ドラえもんの声優が変わってからドラえもんを見ていない。だからスラムダンクの映画を見ても、ジャイアンが頭をよぎることがない。映画、最高だったよね。
 
樋口家のルールには、テレビは1日1時間まで、という子どもながらに「なかなか厳しいんじゃねえかい?」と思わされていたルールがあった。その中に、30分番組であるドラえもんが入ってしまうと残りの30分の使い所が難しくなってしまい、泣く泣くドラえもんを見ることを諦めていた。その代わり、学校の図書館に置いてある数少ない漫画の中にあったドラえもんに、微かに聞いたことのあるあの嗄れ声を当てはめながら、歯抜けになっていて続編としては読めない巻を何度も何度も読み返していた。
 
その中の描写の一つに、スモールライトで小さくなったしずかちゃんがドールハウスのお風呂に牛乳を入れて、牛乳風呂に入るシーンがある。その牛乳風呂に入ると、肌がつるつるになる、というものだった。とにかくそれがやりたかった。お風呂いっぱいに牛乳を入れて、そこにどぷーんと入り、お肌をつるつるにしたかった。小学生のわたしは。あれから25年…。今ならやれる。やろうと思えばやれる。でも、少しも、ほんの少しもやりたいと思わないのだ。牛乳は何本買わなきゃいけないんだろうか。追い焚きでなんとかなるだろうか。詰まったりしないだろうか。あの牛乳の上に張る膜の処理はどうしたらいいだろうか。そもそも環境にも牛にも申し訳ない…。そんなことを考え出すと、少しも牛乳風呂に入りたくなくなるのだ。
 
叶えたいと思った夢はずっと叶えたいものでいてくれる保証はない。やりたいと思ったことは明日やりたくなくなってるかもしれない。
 
今すぐにできることはやろう。それが叶えられるうちに。

<ヒグチアイ>


◆紹介曲「小さな夢
作詞:ヒグチアイ
作曲:ヒグチアイ