あったかい水をください

 シンガーソングライター“ヒグチアイ”がこの夏、ラブソング三部作を立て続けにリリースしました。第一弾は2023年7月26日にドラマ『初恋、ざらり』エンディングテーマ「恋の色」を。第二弾は8月9日に映画『その恋、自販機で買えますか?』主題歌「自販機の恋」を。そして第三弾は8月30日に映画『女子大小路の名探偵』主題歌「この退屈な日々を」をリリース。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“ヒグチアイ”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾。綴っていただいたのは、新曲「自販機の恋」にも通ずるお話です。ある日、ヒグチアイが“自販機”で出会った探し求めていたものは…。ぜひ、歌詞と併せてエッセイをお楽しみください。



外出先で、コーヒーでもなく紅茶でもお茶でもなく、白湯が飲みたい時がある。いきなり美容オタクみたいなことを言ってしまった。違うんです。本当なんです。信じてください。
 
口の中にプラスしたくない時ってありませんか。マイナスが歯磨きだとしたら、という話ですが。夏は水を飲めばいいけど、冬はどうしても寒い。なのでプラスでもマイナスでもないあったかい水、つまり白湯を飲みたいと思うんです。
 
そういう時はマクドナルドに行ってホットの紅茶を頼む。そうするとお湯とティーパックを別々でもらえるので、そのティーパックを持ち帰り、お湯を飲む。周りの男からは「無駄だ!無駄遣いだ!」と言われる。大体男はこういうことを言う(大偏見)。でもそれ以外であったかい水を飲める場所って本当にない。
 
ある日、駅のホームを歩いていると自販機があった。そこをパッと見ると、あったか~いのところに見かけないラベルが。「白湯」。白湯!?! わたしが探し求めてたものが!? 出たの!? 歓喜。歓喜で写真を撮る。友達に“白湯が自販機で売ってたんだけど!”と報告。“やばい”。一言返ってくる。さすがわたしの友達だ。そして笑顔のまま通り過ぎた。
 
え? なぜ買わなかったかって? ええと、それは、白湯を飲みたいタイミングっていうのはそれぞれにあってだな…。つまり飲みたい時に飲みたくて、飲みたくない時には飲みたくない、それが白湯なんです。しかも冷めたらただの水だからね。水は寒いから飲みたくないんだもん。
 
どこでも手に入る白湯、そうです、それを求めているんです。そのためには、美容オタクの投稿を鵜呑みにするわたしみたいなズボラ人間が、何本でも何十本でも買い漁らなきゃいけないんです。だって美容オタクは絶対水筒に白湯入れてるでしょ。いつか楽するために、辛く我慢しなきゃいけないことがある。それが今だ。
 
蛇口から白湯でないかなあ。

<ヒグチアイ>



◆紹介曲「自販機の恋
作詞:ヒグチアイ
作曲:ヒグチアイ