今回のアルバムは間違いなく、私の居場所になったよ。

 2022年9月21日に“植田真梨恵”がニューアルバム『Euphoria』をリリースしました。今作は2011年に構想が生まれ、ずっと温めてきた大切なアルバム。初めて楽曲提供を受けた前作から一転、全作詞作曲を手がけたのは植田真梨恵。アレンジは、弾き語り曲を除く全曲、森良太(Brian the Sun)と植田が共作。植田の頭の中になっている音をこれまでの作品よりいっそう忠実に再現した作品となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“植田真梨恵”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、自信も力もなかったあの頃を経て、アルバム『Euphoria』を届ける今の気持ちです。大切な<あなた>への想いを受け取ってください。


ねえ、アルバムができたよ。もう出会って10年を超えるね。あの頃に「こんな曲ができた」「でもまだこれは出せない」と言ってた曲たちよ。私たちはあの頃まだ全然お互いを知らなかったね。全然違う毎日を生きてきて、でも出会えたし、仲良くなれたね。
 
あれから私たちも色々変わったね。生活が変わって、住むとこも変わって、それでも今も大好きでいられるのはたぶん、考え方とか価値観が似ていたからなんだろうね。
 
当時できたての"シグナルはノー"を聴いてくれて、ライブハウスのフロアでギターを弾きながら歌ったね。私の歌でそんなふうに、誰かが一緒に大きな声で歌ってくれることなんて、それまで一度もなかったよ。両手を大きく振りながら。そんなふうな歌が初めてできたんだなって、静かに嬉しくてたまらなかったよ。
 
新しい曲ができればすぐに送って、聴いてもらってたね。いつからかそれもしなくなって、でも、しなくなったからこのアルバムの曲たちをまとめてあなたに聴いてもらうことができるよ。
 
あの頃の私にはまだこれを作り上げる力がなくて、いつの日か完成させられる日がくることにも、自信なかったよ。自分の思い通り作りたくとも、私は打ち込みで曲を作れないし、だいたいのことを気合いでしかやってこなかった。少しずつバンドメンバーともっと音楽を作りたいと思うようになって、みんなで向き合ってアレンジを始めたり、レコーディングのディレクションをなんとかかんとかやったり、でもずっと、いつも力不足で、これでいいのかなと思い続けてたよ。でも今となっては、そんな日々がずっと続いてきたから、このアルバムを作ることができたのかとも思うよ。
 
すごくつらいことがあるたび、会って話したね。誰かを信じたり、それでも期待したりするたび、人に期待してはいけないとか学びながら、それは確かにそうかもしれないと思うよ。でも最近は、期待したっていいとも思うよ。そうじゃなかったら、私がアルバムを、音楽を作って歌う意味がなくなってしまうよ。
 
私は子供の頃から歌手になりたかったし、その過程でたくさんの人たちと出会ってきたけど、友達と呼べる人なんてほんとになかなかできなくて、大人になって弱くなってく過程で出会えたから、わたしたちは友達になれたんだと思うよ。期待していいのが自分だけなんてのは、寂しすぎるよ。裏切られたとかってわざわざ泣いたりすることないけど、ほんの少しだけやっぱり期待しながら、私はこのアルバムをあなたに聴いてもらうんですよ。

ずっと自分の居場所を探していたね。私も。あなただって、今も探してるね。私のお母さんだって、お父さんだって、マネージャーの佐藤さんだってそうなのかもなと思うよ。ここはいてもいい場所なのかな、ここにいてもいいのかな、ここにいるべきなのかな、ここで何ができるのかな、って思いながら、生活をなんとか続けているよ。
 
私は歌の人になりたかったから、子供の頃から歌を追いかけてきたけど、子供の頃テレビで観てた世界はもうほとんどないよ。でも正直、歌の人であればなんでもいいし、歌は時代時代によっても常に在りつづけるし、私が死んでも歌は残っていくし、おんなじ時代を生きてる人に私の歌は少なからず届けられるから、どんな形かで、どんな形でもいいから届くならいいと思うよ。だから今はやっと、歌の中に私の居場所があるなと思うよ。今回のアルバムは間違いなく、私の居場所になったよ。
 
当時ユーフォリアって言葉をこのアルバムにつけたのは、なんとなくだったよ。でも、根拠のない過度な幸福感、とか陶酔感とか、意味合いとして今となってはぴったりのタイトルだったなと思うよ。世界はいつも大変だし、人生もいつも大変で、しあわせな瞬間なんて長くは続かないけど、間違いなくあるのはあるよ。いつもあったよ。そんなに大きなことじゃなくて、ガチャガチャしたうるさい世界の中で小さく、ほんのりと、目を凝らすと、意識して照準を合わせると、どうやらあったよ。
 
このアルバムのどんなとこに共鳴してくれるのかとか、どこを好きになってくれるかとか、そもそも好きになってもらえるかなんて全然わからないけど、10年前思い描き始めたイメージのまんまでちゃんとできあがったから、もしよかったら聴いてほしいな。たくさんまわりの人が助けてくれたよ。毎日を一生懸命生きてるあなたへ。今も居場所を探し続けてるあなたへ。綺麗なものが好きなあなたへ。いつも美しく生きようとしてるあなたへ。

植田真梨恵>


◆ニューアルバム『Euphoria』
2022年9月21日発売
 
<収録曲>
1.EUPHORIA
2.最果てへ
3.ダラダラ
4.“シグナルはノー”
5.プロペラを買ったんだ最近
6.HEDGEHOG SONG
7.BABY BABY BABY
8.モアザンミューズ
9.黎明
10.エニウェアエニタイム
11.ユートピア