このところ頭から離れなかった言葉がある。

 2022年5月25日に“柴田聡子”が、ニューアルバム『ぼちぼち銀河』をリリースしました。今年は、デビューアルバム『しばたさとこ島』リリースから10年のアニバーサリー・イヤー。演奏には“柴田聡子inFIRE”として共に活動するイトケン、かわいしのぶ、岡田拓郎を中心に、Kan Sano、谷口雄、須原杏、鈴木広志が参加。レコーディングとミックスは宮﨑洋一、マスタリングは風間萌が担当しております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“柴田聡子”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、このアルバムにも通ずる、最近ずっと頭から離れなかったとある言葉についてのお話。長年の悩みの先で出会った、その言葉とは…。


あと3日でニューアルバム『ぼちぼち銀河』がリリースされるというタイミングでこの文章を書いている。いきなりですが、このところ頭から離れなかった言葉がある。それは「不定愁訴」。
 
中学三年生、急に息苦しさに襲われ病院を受診したが特に原因が見当たらず、とりあえず気管を広げる薬をもらい苦しい苦しいと訴えながら過ごし、いつの間にか消えていったあの時から今まで、こういった自分だけにしか分からない症状があるけど体に異常は無いということがなんでだかとても多かった。
 
息苦しい、立っていると足が痺れてくる、突然微熱が出る、など症状はいろいろある。調べても調べても悪いところがないという経験から、きっとストレスや疲れが原因なんだろうな、しかし行き過ぎたストレスや疲れを感じるほど特段辛いことはしていない、むしろそれでいてストレスが原因なんて言われるとなんか情けねえ、と更に悩みを増やす毎日。
 
とはいえ適度なストレスが無いと人間やっていけない気もする。そうも聞く。そもそもストレスってなんじゃい、と身も蓋もない疑問に苛まれつつ、仕方がないからとりあえずストレスに全部背負わせて痛い苦しいなどをやり過ごしている中でさらなる追い討ちだったのが、めちゃくちゃ楽しい毎日なのに首と肩がめちゃくちゃ痛い、などの幸福の中の痛みや息苦しさだった。大好きな友人との食事や楽しい作業の後だっていうのになんなんだよ!
 
一体いつまでこうなのか。ストレスも猫背も巻き肩もパソコンも聞き飽きたよ。長いことこうしてきたから、回復するのに長い時間かかることも十分承知。だけど、その長い時間呪いのように唱えられる、目に入る言葉としてストレス・猫背・巻き肩・パソコンあたりは何故か自分には耐え難い。
 
そんなこんなで最近は、新たに首から背中へかけての意味不明かつ新種類のビキッとこわばるような痛みが頻発するようになり、こりゃもうどうにかしないといかん、とまずはインターネットでどこの病院に行こうかなと調べていたところ「不定愁訴」という言葉に出会った。
 
不定愁訴…。そこから、首を反らして痛む度に「不定愁訴…」、朝一番に「不定愁訴…」、冷蔵庫を開けたら「不定愁訴…」、電車を降りて「不定愁訴…」、という具合にあらゆる行動のふとした瞬間に「不定愁訴…」と心の中で呟くようになった。
 
とにかく「不定愁訴」という言葉が気になって仕方が無い。トトートート、というリズムのためなのか。ストレス・猫背・巻き肩・パソコンあたりの言葉に周りを取り囲まれ黒魔術の儀式を執り行われていた時とは違いすんなりと受け入れられる。受け入れてもらっている感覚もある。
 
そうしていたら、首と背中の痛みが段々と無くなってきた。ぴったりの名前を見つけて安心したのか。名付けようとしてくれる人の頑張りにはいつも救われる。すごく大変な道のりだと思う。言葉だけでこうも違うのかと驚き、自分の簡単さに呆れもする。もしかしたら、知人に勧められて飲み始めた養命酒のせいかもしれない。
 
今回のアルバムにも、こういった日々の出来事から出発したと思われる詞が歌われている曲が多く収録されています。日々と言っても日常とは違うものになっていると思います。メロディーやリズムも気持ち良く探りました。ニューアルバム、是非聴いて下さい!

<柴田聡子>


◆6th album『ぼちぼち銀河』
2022年5月25日発売
DDCB-12118 ¥3000+税
 
<収録曲>
01. ようこそ
02. 雑感
03. MSG
04. 旅行
05. サイレント・ホーリー・マッドネス・オールナイト
06. 南国調絨毯
07. ジャケット
08. 夕日
09. ぼちぼち銀河
10. 24秒
11. n,d,n,n,n