音楽を聴いたなら、私はちょっと変な気持ちになりたい。

 2021年10月6日に“柴田聡子”がBlu-ray『柴田聡子のひとりぼっち’20 in 大手町三井ホール』とニューシングル「雑感」をリリース!2020年、コロナ禍でツアーの延期が決まる中、いち早く自宅から、独力でライブストリーミングを行い、予定されていた全公演を予定日時通りにフリー配信で開催した彼女。また、文芸誌への寄稿や連載も多く、歌詞にとどまらない独特な言葉の力が注目を集めております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“柴田聡子”による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、歌詞を書くとき、何を考えているかというお話です。「音楽を聴いたなら、ちょっと変な気持ちになりたい」彼女が自身の作詞の際に意識すること、大切にすることとは…? 是非、今作の歌詞と併せてお楽しみください!

~歌詞エッセイ:歌詞を考える時~

 音楽を聴いたなら、私はちょっと変な気持ちになりたい。だから自分もそうなりそうな言葉や流れを選んで歌詞を書いて、そうなりそうなメロディーを選んで曲を作りたい。今日の歌詞についてということで、歌詞を書く時、何を考えているかを挙げてみようと思う。

 まず、歌なのに変だけれど、字面に注目する時間が長い。ぱっとみて、シリアスな字面よりもぽんぽん跳ね回るような字面がいい。私はユーモアに憧れているから、たとえ出来なくてもそれを目指したい。すっきりしていてほしい時も多い。風通しが良くて、気持ちのいいところに居るような字面がいい。真面目にはやりたい。大真面目にやりたい。

 だれかと命運をともにする、道連れとか、心中っぽいような言葉に、私はまだ踏ん切りがつかない。だから共感にもすごく注意してしまう。でも誰かの心には残りたいというわがままを構えたまま、なんとかやれないかなと考えている。できないかな。

 素敵な思い出といっしょに、輝いて見えない思い出をいっぱい大事にしておくと、いいところにぴょんと飛び込んでくれて、歌詞が決まることがたくさんある。なるべくたくさん覚えておきたい。日記やメモもとるけれど、なかなか見返さないので、もしかしたら、いっぱい種が転がっているかもしれない。今度やってみよう。

 誰かのことを想うと、誰かが歌ってくれることを想うと、普段は使えないような言葉が使えたりするので面白い。急に共感にも寛容になってしまう。自分の場合だけなんだかうまく使えない。この境目を、どんどん越えてもいきたいけど、いつまでもこのままでいた方がいい気もする。

 実は、心や気持ちではあまり考えていないんじゃないだろうか。かなり多くを、目で考えていると思う。目を強めに開いて、目玉とまぶたの接するところを、目玉でごろごろする。そのごろごろ触っているところで考える。文字にするとなんとなく怖いけれど、これが、歌詞を考えている時のよくある状態として、一番正確な表現だと思う。そして、壁を見てる。考えついたら、紙でもパソコンの画面でもなんでも、字面に目をもどす。考えつかないと、ずっと壁をみていることになる。

 たまには、劇画くらい熱く強い字面も欲しくなる。そういう時は、顔で考える。自分の顔を、熱い顔にして書いてみる。言葉より先に顔が出る。漫画家さんが、眉間に皺を寄せる顔を描く時、自分も眉間にぐっとシワを寄せて描く、しゃくれた顔を描く時、自分もしゃくれあげて描いてみる、いつのまにかそうなっている、あれです。あれを、歌詞でもやっている。みんなもやっているんじゃないかなと思う。歌詞を顔からひねり出すというか。目と顔、このふたつは私の歌詞には大きく関りがあるように思う。

 最近は、歌詞に立体感が欲しい。どうやってやるのか、あんまり思いついていないけれど、それを標語にして自分の中の掲示板に貼っておいて、毎日見つめていたら、いつのまにかできるんじゃないかとお気楽な希望を抱いている。

 歌詞についての自信はどんどん無くなっている。毎回、迷いや悩みが多い。この状態、滅入るけど、私にとっては、これが人生~!と、なぜかしみじみ実感できる出来事のひとつ。落ち込むけど!

 歌詞は迷う。悩む。でも、リズムとメロディーがあるから、私はある意味安心している。どんなに迷ったって、悩んだって、きっと一緒に、いちばんいいものを決めてくれる。意外なほうにも連れていってくれる。面白く、心強い。お互い引っ張り合っていると思う。

 いろいろ書いてみたけれど、最終的にはちゃんとした情熱だけが大切なのかもしれない。情熱のある歌詞からは、わけがわかろうがわからなかろうが、母国語だろうか異国語だろうが、なにか伝わってくるものがあって、なんだろうこれは、とちょっと変な気持ちが湧く。すごく不思議です。でもわけがわかるように丁寧に書くというのも重要だと思う。情熱に多くを背負わせすぎないようにしたい。

 こうして書いてみたこと、とてもよかった。これからも「ちょっと変な気持ちになりたい」の旗印の元、情熱を持って、迷いながら悩みながらも歌詞を考えていきたいと、身が引き締まりました。

<柴田聡子>