予測不能な人生に常に翻弄されながら必死に生きている女。

 2022年4月20日に“黒木渚”が、デビュー10周年を記念したベストアルバム『予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる』をリリースしました。「あたしの心臓あげる」「虎視眈々と淡々と」「ふざけんな世界、ふざけろよ」など、これまでにリリースされた作品の表題曲や人気曲、さらに「予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる」「ロマン」など新録3曲を含む全23曲が収録。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“黒木渚”による歌詞エッセイを2週連続でお届け。今回は【後編】です。ベストアルバムのタイトルでもある、表題曲「予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる」に通ずるお話。周りからのイメージとはかけ離れている、自身の生き方、人生の進み方とは…。歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



「あ、日本にいるの」
 
久しぶりに連絡を寄越した友人からよく言われる言葉。
 
私がいつ海外に行くと言っただろう?
海外に住んだ経験もなければ、旅行で数回行ったことがある程度なのに。
 
友人に言わせれば「渚が同じ場所にいる方がびっくり」なのだそうで、とにかく私の人生というのは予測不能らしい。
 
例えば私が電話越しに「今、エジプトのラクダの上にいるよ」とか「画家になって無人島で暮らしてるよ」と言ったってちっとも驚かないらしい。
いや、私が驚くわそんなもん。
 
このように、世間様が見る私のイメージと実像というのは結構かけ離れている。
 
周囲の人からすれば、私は人生の手綱を縦横無尽に操って行きたい場所へ旅を続けているような超元気な人間に見えているのかもしれない。
 
だが、正しくは「予測不能な人生に常に翻弄されながら必死に生きている女」だ。暴れ馬の背中にしがみついて、どうにか振り落とされないように頑張っているという感じ。
 
運命を自分でコントロールできた試しはなく(常に抗ってはいます)、いつもなされるがまま。予想通りの結果が出たこともない。
 
暴力的な振り幅の人生を諦めずにやってこられたのは、私に多少のカオス耐性があったことと、後はある種の「なんでもいいですよ」感。
 
濁流に飲まれて知らない場所へ流されていたとして、泳ぐこともままならないし水はいっぱい飲んじゃうしああやばいやばい、と思っていたところに一枚の板が浮かんでいたとする。
 
運良くそれに捕まってよじ登り、筏のように乗ることができたその瞬間「ふう~良かったあ」と安堵するタイプの人間なのだ。
 
ピンチなのは変わりないし、問題は何も解決していないくせに、その一瞬のほっこりをマジでほっこりできるというのが、私の特性なのだと思う。要するに少しアホなのだ。
 
そういう風にしか暮らせないし、そんな状態だから10年も音楽家や小説家をやってこられたのかもしれない。
 
私が面白いのではなく、世界が面白いのだ。めちゃくちゃじゃなかったことなんて一度もない。一瞬の凪のようなもの以外は全部混沌としている。私はそんな渦巻きをホゲーっと眺めては歌にしたり小説にしたりしてきた。
 
先のことはあまり考えたことがない。ただ漠然と「良い感じ」の印象を未来に抱いているだけだ。
 
恐怖心は人並み、いやそれ以上にあるかもしれない。結構臆病な性格だと思う。けれど、いつも余裕がないので深く考える前に運命に押し出されてしまうのだ。おっとっとっとと足を着いて、またおっとっとっと、と言う感じで前に進む。
 
危なっかしいけれど、前進していればそれで良いか。
 
明日には何が起こるかわからないけど、それでも私はありがたく黒木渚をやらせてもらおうと思う。またね。

<黒木渚>



◆紹介曲「予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる
作詞:黒木渚
作曲:黒木渚

◆ベストアルバム
『予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる』
2022年4月20日発売

<収録曲>
DISC 1
1. 予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる
2. あたしの心臓あげる
3. カルデラ
4. 骨
5. はさみ
6. 革命
7. 虎視眈々と淡々と
8. 君が私をダメにする
9. 大予言
10. アーモンド
11. 原点怪奇
12. ふざけんな世界、ふざけろよ
13. 灯台
 
DISC 2
1. 解放区への旅
2. 火の鳥
3. 美しい滅びかた
4. 檸檬の棘
5. ダ・カーポ
6. 竹
7. 死に損ないのパレード
8. 心がイエスと言ったなら
9. ロマン
10. V.I.P.