あなたの目に今年の「春」はどう映って見えるだろう。

 2022年3月23日に“erica”がデジタルEP『告白日和~白と赤の真ん中~』をリリースしました。今作には、春の訪れ×恋愛をメインに楽曲を収録。新曲「卒業ソング」を新たに書き下ろし。そして、ファンからの恋愛に関するお悩みへのアンサーを自身のYouTubeチャンネルにアップしていた『Mlogシリーズ』(Music×Blog)より「春は来ない」「桜フラペチーノ」「桜、輝け」「笑っていてよ」を収録しております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“erica”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第1弾。綴っていただいたのは、様々な春の歌が収録されている今作に通ずるお話です。みなさんには、忘れられない春の記憶はありますか? ericaの心に今も鮮明に残っている、ある春の出来事とは…。


春の歌はごまんとある。
同様に、季節にちなんだ歌も沢山あるがなぜだろう。
春の歌が少し特別に思えるのは私だけだろうか。
 
長い冬を越え、蕾は花を咲かせ、動物は冬眠から目覚め、人間は別れと出会いの時を迎える。街は桜が満開に咲き、パステル色に染まるショップの洋服たち。
これがおとぎ話だったら、きっと妖精が空を舞い花が歌っている。
それがこの地球の「春」だ。
 
あなたの目に今年の「春」はどう映って見えるだろう。
まだ暗いトンネルの中を歩き、光を探している人もいるだろう。
新しい出会いに期待している人もいるだろう。
私にもこれまでにいろんな「春」があった。
 
あれは小学校の卒業式。
もう随分昔の話になるが、今でも鮮明に覚えている出来事がある。
担任の先生に何かサプライズがしたくて考えていた時、たまたまテレビで見た番組がきっかけで、とある企画を思いつきクラスのみんなに提案をした所、みんなも心よく賛成してくれた。
 
その企画というのは、一人一輪ずつバラの花を机の中に隠して置いて卒業式が終わり、教室に戻った時「せーの」の合図でバラの花を掲げ、先生にお礼の言葉を全員で言う。といった内容だ。
 
今思えば大したことのない企画かもしれない。
でも当時の私たちにとってはとんでもなく大事だった。
強いて言うなら全国ツアー並みのプロジェクトだ。
まずは先生にバレないようにすることはもちろん、クラスの全員から花代のお金をもらわないといけない。
一人たった250円。ではない。250円も出さないといけないのだ。
小学生にとっては大金である。
 
私は発案者だったこともあり、集金係としてお金を集め、お花屋さんに電話し、卒業式の日にバラを取りに行き、みんなに配り、掛け声の練習もする。
そんな全てのことをやらなくてはいけなかった。
払えない人はどうすれば良いか。
お金をもらうということの責任を初めて考えた。
学級便りみたいにそれぞれの親に向け手紙を書いて渡してもらう。
それでも払えない人は払える人が20円ずつ多く払ってなんとか賄った。
全ては順調だった。あとは当日を迎えるだけだった。
 
そんな時事件が起こったのだ。
 
卒業式の3日前、集めたお金が無くなった。
どこを探してもない。
学校中みんなで探した。それでもなかった。
誰も疑いたくない。でも誰かが盗んだとしか思えなかった。
もうどうしようもなかった。
 
卒業式の前日、私はクラスのみんなに言った。
本当に申し訳なかった。全て私のせいだと謝った。
何度も何度も謝った。みんな泣いていた。
とっくにみんな許してくれていたけどやっぱりどうしてもちゃんともう一度言いたかった。
 
そしてこんなことも言った。
「最後にお願いがある。もしこの中に出来心で盗んでしまった人がいるなら決して怒らない。絶対に責めないし犯人も捜さない。だからどうかまだそのお金があるのなら何も言わず私のロッカーに返してほしい。」
そう言って私は泣きながら頭を下げてお願いをした。
 
当日の朝、私は誰より早く学校に行った。
恐る恐るロッカーを開ける。
あった。
巾着袋に入った見覚えのある集金袋が確かにそこにあった。
卒業式の当日、戻ってきた。
奇跡が起こったのだ。
 
そこからのことはもう何がなんだか、今思えば小学生の私によくできたなと感心する。
急いで学校の近くの花屋に行く。
開店を待っていたら卒業式に遅れる。
張り紙にある電話番号に公衆電話から電話をかける。
留守番電話にメッセージを残す。
時間と場所を指定する。
学校に戻り、時間になったらトイレに行くと嘘をついて教室を出る。
初めて今でいう“代引き”というやつを小学校の門でした。
花を受け取って隠す。
卒業式が終わったタイミングで先生にバレないように数名で机に花を入れる。
こうしてようやく私のミッションは終わった。
 
「せーの」
「先生今日までありがとう。」
 
教室にバラが咲いた瞬間だった。
泣きながら喜ぶ先生の顔を、みんなで泣きながら抱きしめ合ったあの日を私は今でも忘れない。
 
人は間違いを起こす。
完璧な人なんて一人もいない。
大切なのは信じる気持ち。
悔い改め反省できる心。
そして、支えてくれる仲間の大切さだと思う。
皆違くて皆それでいい。
 
今年もきっと数えきれない物語があっただろう。
あなたの心に咲く桜は今年もあの頃と変わらず咲いているだろうか。
出会えた友 出会えた夢 過ごした宝物の日々を
この胸にずっといつまでもずっとお守りにして
私たちは今日もそれぞれの道を歩いていく。

<erica>


◆デジタルEP『告白日和~白と赤の真ん中~』
2022年3月23日発売
 
<収録曲>
M1 卒業ソング
M2 春は来ない
M3 桜フラペチーノ
M4 桜、輝け
M5 笑っていてよ