手も足も目も口も、明日へ向けて生まれてきたのだ。

2021年10月21日に“saji”がニューシングル「ハヅキ」をリリースしました。失恋を歌った歌詞が共感できるとティーンを中心に話題沸騰中の彼らの最新作「ハヅキ」は、TVアニメ『SHAMAN KING』の第3弾エンディングテーマ。失って初めて気付く、大切な人への想いを歌った壮大なバラードナンバーに仕上がっております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“saji”のヨシダタクミによる歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、新曲「ハヅキ」に通ずるような故郷にまつわるエピソードです。みなさんは“故郷”といえば、どのような景色、匂い、感情、記憶を思い出しますか…? 是非、歌詞と併せてエッセイをお楽しみください。

~歌詞エッセイ:落葉樹~

子どもの頃は、並木道なんてものに気を回して考えた事もなかったが、大人になるとその土地土地にまさに根付いた樹木が色々と存在するのだと気付く。

僕が生まれた北海道の十勝地方は、冬は厳しく夏はカラッとした暑さの大陸性気候で、年間の冬と夏の温度差が最大で60度に達するらしい。なるほど。確かに冬は平気で-20℃を超えたりしていた。東京に移り住んで約7年。もはや故郷の冬を過ごせる気がしない。

そんな十勝では白樺やマツといった針葉樹が多い。僕はサウナが大好きなのだが、本場フィンランドを意識したサウナ施設なんかに行くと、ヴィヒタ(白樺の枝葉を束ねたもの。サウナ室内に吊るして香りを楽しんだり、マッサージ用いたりする)が置いてあったりして、そう言えば東京では白樺を見かけることがないなと望郷の念に駆られることもある。

故郷と言えばもう一つエピソードを。

僕がやっているsajiというバンドの新曲「ハヅキ」のリリースに先立ち、新しいアーティスト写真の撮影があった。リリースが10月だったのでそれに因んで秋らしいものにしようという事になり、イチョウの葉を床に敷き詰めた上にメンバー三人で並び立ち、葉が舞い落ちる中の1シーンを切り取ったような作品になっている。

学生時代、僕の家からユタニの実家へ向かう道すがらイチョウが並び立つ通りがあって、イチョウの葉を見るとあの頃を思い出して少し胸がくすぐったいような、キュッと切なくなるような気持ちになるのだ。

当時好きだったあの子と一緒に、門限ギリギリで急いで帰ってパンクした自転車。ユタニの家の近くのフードコートで食べた山盛りポテト。

匂いや景色は時に僕らを郷愁的な夢へと連れて行ってくれる。過去と云うのは常に倖せだった事だけを輝かせているから、あの頃に帰りたい。などと、叶うことのない想いと現実との狭間で僕らの胸は苦しくなる。

然して僕らは前にしか進めない。手も足も目も口も、明日へ向けて生まれてきたのだ。

どんな過去や後悔を持ってしても、それを変えることはできないのであれば、いずれ来る未来のために明日こそは変えてみせようと、僕は日々思いながらハヅキという曲を書き、いつかの涙たちの追福を祈っている。未だ、落葉の道の中。

<saji・ヨシダタクミ>

◆紹介曲「ハヅキ
作詞:ヨシダタクミ
作曲:ヨシダタクミ