ほんの少しの支えで花咲く夢があるとすれば。

 2021年7月21日に“saji”がニューシングル「星のオーケストラ」をリリース。タイトル曲は、7月から放送開始のTVアニメ『かげきしょうじょ!!』オープニングテーマです。ヨシダタクミ(Vo.)は「僕も夢を持って音楽の門戸を叩いた人間なので、さらさたちと同じ目線に立ち、全力でOP曲書かせて頂きました。sajiは皆さんの夢を全力で応援します。かがやけ青春。」とコメントしております。眩しい青春ポップロックをご堪能あれ!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“saji”のヨシダタクミによる歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、新曲「星のオーケストラ」に通ずるお話です。ご自身の“夢のはじまり”である中学3年生の頃まで遡り、今に至るまでの軌跡を明かしてくださいました。彼だからこそ紡ぐことができた「星のオーケストラ」の歌詞と併せ、エッセイもお楽しみください。

~歌詞エッセイ:喩芽 -ゆめ-~

僕の生まれた北海道帯広市という街は
雪の深いとても静かな街で、
夏になると祭囃子が聴こえ始めるとか、
冬が来れば観光客が溢れかえるとか
そういう世界とは無縁の、
しんしんと と云う言葉が
まさにぴったりと当てはまる場所。

街には小さなライブハウスが2つだけあり、
プロを目指すとかそんなんじゃなく、
普通に働いている音楽好き達が
土日だけ非日常を奏でている空間であって、
「芸能人になる!」と宣言する人は皆無で、
ましてや同級生にアイドルなんて居なかったし
友達のお父さんが有名な歌手なんて事もない
いわゆるどこにでもある古き良き田舎。

僕が音楽でプロになりたいと
最初に思ったのは中学3年生の時。

当時は父の影響でバスケをやっていて、
運動は好きだが上手くはない。
試合には出るがレギュラーではない。
中途半端な存在だった。

そんな僕が唯一目立てる瞬間が休み時間。
地元の学校では、1教室に1台
必ずオルガンが置いてあって、休み時間になると
偶にクラシックの曲を弾いたりした。
(渚のセレナーデやモーツァルトのトルコ行進曲)

すると友達や普段は親しくないクラスメートたちが
集まり出して、興味深そうに僕の演奏を見つめる。

見られる事は恥ずかしかったが、
他の人が僕の存在を肯定してくれる気がして、
そこには自分の居場所があった。

得意気になった僕は
弾けもしない中古のアコースティックギターや
MTR(マルチトラックレコーダー)やらをお年玉で買って
作曲の真似事をやり出した。

そんな時にたまたま某レコード会社の
デモテープ募集の記事を見つけて、
自作のオリジナル曲を集めて焼いたMDと
履歴書を詰めた茶封筒に封をした。

結局これを送る事はなかったのだが、
それから数年後、
縁あってsajiの前身である
phatmans after schoolというバンドの一員として
某レコード会社からデビューする事になる。
そして初顔合わせの時にこのエピソードを
レコード会社の社長に話したらとても喜んでくれた。

話は戻るが、そんな中学時代を過ごした後、
僕は家から徒歩10分ほどの高校へ進学する。
そこでsajiのギターであるユタニと出会った。

軽音楽部(バンドやりたい人たちが集まる部活)で
一つ上の先輩だったユタニくんとは
音楽の趣味も女性の趣味も合わなかったが
妙に気が合って毎日一緒に居た。
授業が終われば部活に行き、
部活が終われば僕の家でだらだら過ごす日々。
先輩後輩というよりは仲の良い友達みたいな関係。

先述の通り音楽の趣味がまるで違ったので
それぞれ別のバンドを組んでいたのだが、
ある時、某テレビ番組主催の
バンドオーディションがあると知り合い伝てに聞く。
しかも一次予選は帯広でも行われると言うのだ。
(この手のオーディションは北海道だと
だいたい地区予選会場が札幌だったりして、
高校生の僕らに交通費が捻出できるわけがなかった)

しかし困った。
当時僕が組んでいたバンドのギターは他校かつ進学校で
オーディションの為に平日に集まれる訳もない。
でも出たい。
「そうだ。ユタニくんに聞いてみよう。」

オーディション当日、
僕の家で初めて曲を聴いたユタニとそのまま初の共演。
ちなみにそれが僕らの地上波デビュー。
なんとそんなバンドが予選通過してしまった。
てぇへんだ。

そんなこんなで二次予選に進んだ僕らは
札幌プチ旅行よろしくTV局が手配したホテルに泊まり、
テレビカメラが沢山向けられた
ステージで演奏することになる。

結果として僕らの冒険はここで終わってしまうのだが、
この時の経験が僕たちをプロの世界へと誘ってくれた。

気の合う仲間と好きなことをやってタダで旅行できる。
こんな事が続くならプロになれたら最高じゃないか。
これが二度目の夢のハジマリ。

そんな邪な気持ちが
純粋な世界を結びつけてくれたのだから、
どこに夢の芽生えが転がっているか
分かったもんじゃない。
人間、一生に関わる出逢いは
ふとした偶然の先にあるものだ。

だいぶ前置きが長くなってしまったが
今回僕らが紡いだ
「星のオーケストラ」と云う曲は
そんな誰かの夢の傍に居続けてくれるような
存在になることを目指して書いた。

本楽曲がオープニングテーマを担当する
TVアニメ『かげきしょうじょ!!』という作品は
まさにその夢の門扉を叩いたばかりの少女達の物語で、
それは僕らsajiの三人が
かつて歩いてきた道程でもある。

夢というのは誰かが建てた建造物ではなく、
喩えるならばそれは
心の中でふとした瞬間に
芽生える花のようなもので、
咲くか枯れるかは自分次第。

雨の日もあれば風の日もある。
誰かが叶えてくれる訳もないが、
ほんの少し支えてあげることは
出来るのかもしれない。

そのほんの少しの支えで花咲く夢があるとすれば、
僕はそのきっかけになりたいと思うし
その想いの先にあるのが
この「星のオーケストラ」という曲。

物語の主人公はいつだって君たちであり、
冒険の始まりは突然やってくるのかもしれない。

その“いつか”の時に
皆さんの側に僕らの曲が
居てくれる事を願って
今日も唄を歌ってみたりして。

<saji>

◆紹介曲「星のオーケストラ
作詞:ヨシダタクミ
作曲:ヨシダタクミ

◆ニュー・シングル
『星のオーケストラ』
2021年7月21日発売
KICM-2095 ¥1,320(税込)

<収録曲>
M1:星のオーケストラ
M2:アンチロックミー
M3:ネモフィラ