石崎ひゅーい

大きな欲求が4つ。食欲、睡眠欲、性欲、そして…

 2021年5月7日に“石崎ひゅーい”が新曲「アヤメ」を配信リリースしました。テレビ朝日系 木曜ミステリー『警視庁・捜査一課長season5』の主題歌として書き下ろされた同曲。石崎ひゅーいは、同曲について「大切なモノを失くした分、もっと大切なモノを見つけていける、そんな願いを歌にしました」とコメントしております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“石崎ひゅーい”による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは「どうして歌詞を書くのか」という問いに対する、ひとつの答えについてです。音楽を始めた中学3年生の頃まで遡って、彼の歌詞の軌跡を明かしてくださいました。是非、このエッセイを読んだ上で改めて、新曲「アヤメ」の歌詞をじっくりと味わってみてください。

~歌詞エッセイ:4番目の欲~

僕はなぜ歌詞を書くんだろう。果たして、今までそんな疑問を自分自身に投げかけた事があっただろうか。きっと無い。似ている質問で、あなたはなぜ歌を歌っているんですか? そんな質問をされる事が多々ある。僕はいつも「わからない」と答える。そう答えた後に少しだけ間を置いて「わからないからこそ、、、歌ってるんじゃないですかねぇ」的な事を言うんだけど、これは本音でもあるし、言い逃れでもある。そして文字に起こしてみると絶妙にダサい、、、。妙な間を使わずに、濁点で濁さずに素敵な解答ができたら良いなと思うけれど、きっと今の僕にはまだ早い。ボブディランと同じ80歳くらいになったら名解答が生まれるんだろうか。答えは風の中。

今日は、あなたはなぜ歌詞を書くんですか? そんな質問をされていると仮定してこの文章を書いていこうと思う。

僕は中3から音楽を始めた。バンドだ。その頃に初めて書いた歌詞は酷かった。「ヒストリーオブガンジー」というタイトルだった。そう、非暴力の、あのガンジー。教科書通りという言葉があるが、本当に教科書に書いてある通り、ガンジーの歴史を羅列しただけだった。ガンジーに対する僕の想いみたいなものは一言も描かれていなかった。きっとガンジーに対する思い入れが無かったんだろう。文部科学省頼りの駄作だった。

高校生になってバンドは本格的に動き始めた。オリジナルの楽曲を作り、デモテープを販売しようという話になった。1本500円。沢山売れたらエレキギターを買おう。そんな欲があった。一応歌詞も書いていた。しかし、売り物として出せるレベルの歌詞ではない。そこで辿り着いた答えは英語だった。どんなに稚拙な日本語でも英詞にしてしまえば様になるだろうと、今考えてみると卑怯くさい考えだ。でもそうやって僕は歌詞を書いて、人前で歌った。

あの頃からライブは僕の戦場で、英語という鎧を纏った歌詞は僕を最強の兵にさせた。けれど「母さんからもらった小遣い5000円でスケボー買ったぜ!Yeah!」みたいな歌詞でも熱狂してくれるお客さんに対して申し訳無さがあったし、そんな歌詞しか書けない自分に対する虚しさを抱えていた。鎧を脱がされた途端、僕は最弱の兵に成り下がった。薄々僕は気付いていたんだ。自分に歌詞を書く才能が無いことを。そんな事を察したのか、自然と僕じゃないメンバーが歌詞を担当するようになっていった。

バンドはその後も順調に活動を続けた。高校を卒業し、メンバー全員で上京した。CDも作った。お客さんは少ないが、東京のライブハウスで毎晩喉が千切れるまで歌った。幸せな生活だった。でも圧倒的になにか足りなかった。ステージ上でふと我に返る瞬間が増えた。上手から下手まで、なんなら楽屋やフロアまで縦横無尽に走り回って、何に対してこんなに必死でいるんだろうか? なんの為に歌い、叫んでいるんだろうか? そんな疑問が僕を窮屈にさせた。僕は気付いてしまった。人が書いた歌詞では無く、自分が書いた歌詞で歌いたいという、承認欲求に限りなく近い表現欲求が自分の中にあることに。

メンバーにそんな自分の心情を打ち明かしたのは20歳くらいの頃だった。どんなリアクションだったかあまり覚えていないが、きっと不安だったと思う。こいつ「ヒストリーオブガンジー2」みたいなものを書いてくるんじゃないかって、、、。

そこから僕は正式に歌詞と向き合うことになった。苦手意識はまだ存在していた。でもそれに勝る欲があった。好きなバンドの歌詞を熟読し、研究した。ネタになるような刺激があるなら構わずどこでも飛び込んだ。町中を駆け巡り、路上で寝転んだ。星や月が綺麗だった。溜まっていたものが溢れ出すように沢山の歌詞が生まれた。それは僕が音楽家になる為に避けては通れない大切なプロセスだった。

僕はそれまで以上に音楽に没頭していった。音源も何枚か制作した。小さなライブハウスに人を埋められる程度にもなった。でも音楽だけで生活をする事はできなかった。悔しかった。夕方から早朝までバイトをして朝焼けを見ながら電車に揺られた。窓に映る自分の顔が情けなかった。ボロボロの体でスタジオに行き、先行きの見えない音を鳴らすことが苦痛だった。このままじゃいけないと思った。成功したいという欲がまた僕を動かした。

バンドを辞めたい。そうメンバーに伝えたのは26の時。当時、僕の歌詞の書き方は母親が亡くなったこともあり、とてもパーソナルなものに変わっていく段階でもあった。個人的な内容の歌をバンドに背負わせるのにも違和感を感じていた。一人で歌ってみたい。正直な気持ちだった。歌をより強いものにする為に必要不可欠な決断だったし、決別だった。

28歳の時にシンガーソングライターとしてデビューをした。そこから9年。歌詞を書き続けている。正直未だに歌詞を書くことは苦手だ。タイアップ書き下ろしやアーティストへの楽曲提供。毎回悪戦苦闘を続けている。でも、それでいい。簡単じゃないから続けられるんだ。

僕には欲がある。ぜんぜん書けない時もある。惰性で書いてしまう時もある。でも人間の深い場所に届けたい。そんな欲がある。「ヒストリーオブガンジー」くらい変な歌詞を書くこともある。妄想で宇宙に飛ぶこともある。でも置いてけぼりにしたくはない。そんな欲がある。世話になった人達がいる。傷つけた人達がいる。離れた仲間や恋人や家族がいる。後悔や懺悔では無い。幸せでいてほしい、そんな欲がある。

手応えはいつも無い。みんなの顔を見てからじゃないとわからない。自分で満足しちゃいけない。誰かの心のひだが揺れる度、その姿を見て喜びたい。そんな欲がある。大きな欲求が4つ。食欲、睡眠欲、性欲、そして表現欲。4番目の欲求が僕に歌詞を書かせている。

<石崎ひゅーい>

◆新曲「アヤメ
2021年5月7日リリース
作詞:石崎ひゅーい
作曲:石崎ひゅーい
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