さて、今日のうたコラムではそんな“Kitri”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回はその第1弾。綴っていただいたのは、今作の収録曲「未知階段」のお話です。Mona、Hina、それぞれの視点でこの曲に対する想いを明かしてくださいました。是非、歌詞と併せて受け取ってください。
~歌詞エッセイ第1弾:「未知階段」~
<Mona>
自分のこれまでの人生に点数をつけたら、何点くらいになるのだろうか。残念ながら、採点してくれる先生は見当たらない。どこを探しても解答がない。「あの時、ちがう道を選んでいたらどうなっていただろう」と、そんなことを思う瞬間もあるけれど、そればかりでも前に進めない。
人生は、複雑で難解なクイズの連続だ。例えばもし突然歌詞が浮かばなくなったら、私は誰かにアドバイスをもらった方がいいのだろうか、それとも自宅に篭って歌詞が浮かぶのを待つべきだろうか。いやもしくはしばらく作詞をやめるのがいいのだろうか。この1曲が自分の未来を変えるとしたら…。何本にも枝分かれした道の中から、自分なりに答えを選んで探さなければならない。そんな風に歩み進めていく今を「未知階段」と名付けてみた。
小学生の頃までは、まだ“未知階段”が目の前にあることさえ知らなかった。今の自分が遠い未来の自分に繋がっていくなんて考えたこともなく、明日の日課表と給食の献立がその時の人生だった。そしてピアノが好きだった私は、何も疑うことなく毎日ピアノを弾いていた。昨日弾けなかった部分が弾けるようになったり、家族に拍手をもらったり、それが何より嬉しかった。
しかしそんな日々は束の間、私は歳を重ねるにつれて“未知階段”を歩いていることを知る。ピアノを練習すればするほどレッスンも練習内容も本格化する。遊ぶよりピアノ、勉強するよりピアノだった。私はピアノ以外に何をしてきたんだろう。何を得て過ごしてきたんだろう。なんとなくピアノが好きで続けてきただけなのに、知らないうちに、気づけば引き返せないくらい狭くて長い一本道の途中にいることを実感した。
そんな“未知階段”の途中では、想定外なことも起こる。高校生の終わりの頃、ピアノを弾き続ける日々の息抜きに曲作りをはじめ、作曲の楽しさに魅了された。24時間あっても足りないほどピアノの宿題は山ほどあるのに、曲を作って歌詞を書き、こっそり歌を歌う時間があまりに楽しい。ただの趣味だと自分に言い聞かせながら、頭のどこかで、作った曲を多くの人に聴いてもらう将来の自分を想像してしまうようになった。それまで視野にも入れていなかった意外な場所に自分の新しい扉を見つけた感覚だった。
<だから今日を 信じてみるよ>
人生は本当に様々なできごとが起こる。遠回りをした上に引き返すこともある。思わぬ良いニュースが舞い込む。聞きたくない言葉を耳にする。めまぐるしく回る毎日の中で、時に無意識に、時に心を決めて自分の道を進んでいく。この人生の正解を知る人がいないのならば、自分の信じたものを正解にしてしまおうと思った。
これからも、失敗したり間違えたりすることもあるだろう。また時々、自分の選択した道について悩む日がくるかもしれない。Kitriになっていない人生を選び直すことはできないし、想像することも難しい。
それでも、Kitriを結成できて生まれた音楽があり、出会えた人たちがいるんだから。「Kitriの曲に救われました」そんな温かい言葉をかけてもらえるんだから。これもきっと正解なんだろう。
<Hina>
お気に入りの本を読み終え、なんとも言えない充足感に包まれた昨日。食後のチョコレート1粒に小さな幸せを感じる今日。明日はどんな出来事が待っているだろうか。
地球上の時間軸で考えた時、誰にも分からないのは明日のことだけである。分からないからこそ、未来は自由だ。自由だからこそ、希望も絶望も抱くことができる。その両者は結果を表しているのではなく、単なる人間の想像に過ぎない。何もかも上手くいかず人生のどん底にいた人も、明日になれば奇跡的なラッキーが待っている可能性だって大いにある。人生は未来が分からないからこそ面白いものだと思う。
私は、過ぎたことを後悔し、分からない明日を心配するより、今の自分を大切にしたいと考えるスタイルで生きている。好きなものに触れ、したいことをして、考えたいことを考える。今を楽しむという単純なことでも、明日に希望を見出すには十分だ。
<だから今日を 信じてみるよ>
こうした私の考えを、たった12文字で言い表してくれたのはMonaである。2月24日に配信リリースした「未知階段」という曲の歌詞の最後の一行でこの言葉が出てきてくれて、思わず感謝の気持ちが込み上げてきた程だ。人生をテーマにした壮大なこの曲は、今から遡ること約4年、あの日から始まっていた。
「この動画、すごく魅力的だから見てほしい」と、ある日、Monaから一つの動画を紹介された。それは「就活狂想曲」と題されたアニメーション映像だった。就職活動を通して急速に変わり始める周りと、その変化に戸惑いながらも必死で前に進もうと孤軍奮闘する主人公の姿が描かれている。絵の動きや表情、色合い、音楽、一つ一つの細かな芸術が集まり、個性豊かな作品となっている。世の中を少し斜めから見たエッジの効いたストーリーも多くの人の共感を呼んでおり、私もその一人としてこの動画に魅了された。
それから数ヶ月が経った頃、新しい曲を書いたと言われ、Monaから音を受け取った。それが正に「未知階段」である。前述の動画からインスピレーションを受けて書いたというこの曲は、ドラマチックな展開と、より奇抜で尖ったピアノと歌のメロディが心の奥を素手で掴んでくる。そんな曲だと私は感じた。
その時期、まだ私たちは“Kitriらしい音楽”というものを模索中だった。どんな音楽を届けたいのか、どんな音楽をKitriの代名詞にすれば良いのか、と。出来上がった「未知階段」のデモを何度も聴きながら、これはもしかすると、Kitriの第二章、いや第三章くらいを飾る一曲になるのではないかと考えた。
余談にはなるが、この曲があったからこそ「羅針鳥」という曲が生まれたのだと私は思っている。ある意味でKitriのデビューの第一歩はこの「未知階段」から始まっていたとも言えるかもしれない。そこから何度もブラッシュアップを重ね、温めて温めて温め続けて、ようやくリリースに至ることができる今、期待が私の胸を埋め尽くしている。
それにしても、この曲は私の中で、Kitri史上最も難しいと言える曲かもしれない。ピアノレコーディンクでは、数学の応用問題30問を5分で解きなさいと言われているような緊張感があった。初めて歌いながらピアノを弾いた時は、極小の歯車を噛み合わせなければならないような焦燥感があった。しかし今となっては、そういった難しさも楽しめるほど満足感を得られる曲になってくれている。
自分の人生には様々な人物が登場する。家族、親戚、友人、恩師、仕事仲間、応援してくれる人、見知らぬ誰か…。出会ってきた全ての人の行動が自分の人生に作用し、そしてまた自分も全ての人の人生に作用しているのかと思うと、何となく身の引き締まる思いがする。
私の目標は、人生という未知なる階段を楽しみながら登っていくことだ。そこですれ違う人々と言葉を交わし、縁を紡ぎながら、階段の先にある色々な扉を開けてみたい。希望ある未来を想像しながら、今日も今日の私を信じてみよう。
<Kitri>
◆紹介曲「未知階段」
作詞:Mona
作曲:Mona
◆セカンドフルアルバム『Kitrist II』
2021年4月21日発売
CD+Blu-ray COZB-1741-2 ¥5,000(税込)
<収録曲>
1.未知階段
2.人間プログラム
3.青い春 ※TBS系テレビ「ひるおび!」4月度エンディングテーマ
4.NEW ME
5.羅針鳥(S.A. Rework)
6.小さな決心
7.水とシンフォニア
8.赤い月
9.パルテノン銀座通り
10.Lily
11.君のアルバム