最後かもしれない。というか、最後なんです。

 2020年6月3日に“大比良瑞希”がニューアルバム『IN ANY WAY』をリリース。彼女は、tofubeats、LUCKY TAPES、Alfred Beach Sandal×STUTS、Awesome City Club等の作品やライブへの参加でも知られるように様々なアーティストから愛される次世代型シンガーソングライター。今作にはその個性的な歌声を堪能できる全12曲が収録されております。

 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放つ“大比良瑞希”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回はその第1弾。綴っていただいたのは、彼女にとっての「音楽を作る作業、歌詞を書く作業」とは、どんなものなのかというお話。大比良瑞希の楽曲に通じている想いを是非、受け取ってください。

~歌詞エッセイ第1弾~

ふと、本棚に手を伸ばして、昔のノートを見返す。部屋の本棚には、今まで書いてきた手帳やノートやスクラップブックが、いろんなサイズでバラバラと並んでいる。

手書きしたい派と、打ちたい派がいるとしたら、私は手書きしたい派。の前に、書き出したい派と、頭の中でこねる派がいるというけど、私はちょっとしたことでも、紙に書くのが好きだなぁ。心に留めておきたい雑誌の切り抜きや文章をコレクションするのも、心が落ち着く作業の一つです。そんなことないですか?

ところで最近は、毎日お家にいますね。唯一の遠出は、車でいつもと違うスーパーに行ってみることくらいで。遠出したい。お店で洋服とかコスメとか、買いたい。なんて、STAY HOMEも少し飽きてきちゃったけれど、この景色もリズムも変わらない今日だって、今日自体はもう一生来ないんですよね。記念日でもなんでもないけど、2020年5月19日のこの瞬間はみるみる終わっていく。

少し蒸し暑くなってきた窓の外からは、緊急事態宣言の町内放送が聞こえ、隣の部屋ではNetflixの映画の音、私の机の上には、2013年ごろにスクラップした長谷部千彩さんのエッセイの切り抜きが開いてあり、やっぱりこのエッセイ好きだなと思いながら、今、歌ネットの文章を書いている自分がいる。

当たり前だけど、毎日が実は“ラストダンス”。そう思えると、自然と、姿勢がシュッとするような気がする。と同時に、少し悲しく、こわくなる。

もしかしたら、この前田中さんに会ったのは、あれが最後だったのかもしれないし、あなたと二人で作るアジフライを味見しながらハフハフするのも、最後かもしれない。というか、最後なんです。

日常には、スペシャルなことをしなくても、意外と愛くるしい場面が潜んでいて、それを見つけたいし、逃したくないし、大事にしたいし、育てたいし、信じたいし、何より忘れたくない感覚。

素敵な映画とかを見ても、思うなぁ。こういうことを思うのは、意外と日本映画の方が思うかもしれない。『湯を沸かすほどの熱い愛』とか、『蜜のあはれ』『そこのみにて光輝く』『海よりもまだ深く』『ふきげんな過去』、、、あたりの映画を見た後は、日常の光も当たらない一見どうでも良さそうなことが、とても美しく見えてくる。人間って、人生って、面白いじゃんって。

でもこの感覚はそっけなくて、日常に戻ると、案外すぐに消えてしまう。だからそれを封じ込めるために、探し続けるために、もっとこういう感覚を広げていくために、心が揺れたことをノートに記録したり、その続きを想像してみたり、小説や映画の好きな瞬間は残しておきたい。

私にとって音楽を作る作業、歌詞を書く作業というのは、これなのかもしれません。その場で聞かれてパッと答えるのはどうも苦手だけど、こうしてゆっくり整理されて自分でもストンとしたり。

書くって、やっぱり楽しいです。

<大比良瑞希>

◆2ndアルバム『IN ANY WAY』
2020年6月3日発売
UXCL-241 ¥2,500(本体)+税

<収録曲>
01.Eternal My Room
02.甘い涙
03.無重力
04.SAIHATE
05.RESCUE
06.In a small lake
07.ムーンライトfeat.七尾旅人
08.いかれたBABY
09.ミントアイス
10.からまる feat. 大比良瑞希/KERENMI
11.Somewhere
12.Real Love -熊井吾郎Remix-