表現者という立場にありながら私はいつも分からない。

 2020年4月22日に“緑黄色社会”がニューアルバム『SINGALONG』をリリースしました。今作は、映画『初恋ロスタイム』主題歌「想い人」やドラマ『G線上のあなたと私』主題歌「sabotage」といった話題作に加え、新曲も多数収録した充実の内容。彼らの武器である“歌”と、楽曲ごとに異なった彩りを放つバンドサウンドの融合が凝縮された渾身の1枚です。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った緑黄色社会のボーカル・長屋晴子による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回はその第1弾。0を1にするのが難しく、0が0でしかないという彼女が、なぜ“表現者”という道を選んだのか。そして今作『SINGALONG』に込めた想いとは。ニューアルバムと併せて、是非このエッセイもじっくりとご堪能ください。

~歌詞エッセイ第1弾~

さて、何を書こうかしら。


何をするにも0から1にする工程が一番難しい、と思っている。真っ白でまっさらな画用紙に一番はじめに何色を使って、どんな線を描いてやろうか、私はそれが永遠に決められなくて、どんどん彩られていくクラス中の画用紙を見渡しながら、ヒントをかき集めてアイデアを絞り出すようなタイプだった。

私は私が分からない。何がしたいのか、分からない。何を伝えたいのか、分からない。表現者という立場にありながら私はいつも分からない。

それはきっと0が本当に0だから。

何も考えていないわけじゃない。ただ毎分毎秒頭のどこかに信念のようなものがビシッと聳(そび)え立っているようなタイプではないから、急に「かきたいものをかいてください」、「あなたのモットーはなんですか」、「今の気持ちを教えてください」なんてことを言われてしまうと大変困ってしまう。


じゃあ何故そんな私が、自分で曲をかいて歌を歌っているのかというとそれは、0が0でない瞬間が私にもふと訪れるから。そしてその訪れた瞬間が何故そんな私が、自分で曲をかいて歌を歌っているのかというととてつもなく愛おしく感じるから。


なんだかモヤモヤすることがあると、私はそれについてじっくりじっくり考える。「なんだかモヤモヤするな」「モヤモヤの原因はなんだろう」「なるほど私はここに引っかかっていたのか」自問自答を繰り返して、たくさん時間をかけてようやく0(いわゆるテーマのようなもの)が生まれる。見えてくる。そして私がだんだん分かってくる。


0が生まれただけで自分的には心のモヤモヤが解決した気持ちだし、そこで留めておいても良いのだけれど、私は歌を歌うことが心底好きで、その歌を誰かに聴いてもらいたいと思っている。そしてその歌が自分の気持ちであったらもっと素敵だなと思っている。さらに言えば同じような気持ちの人に届いて、染み渡って、何か少しでも感じてもらえたら最高だなと思っている。

そんな妄想が膨らんでしまって、0を1にしてみたくなるんだよな。


0を1にしたくなる瞬間というのは本当に衝動的で、クラス中の画用紙を盗み見ていたことがまるで嘘だったかのように、言葉やメロディ、コードや景色がぶわっと一気に溢れ出す。

0が本当に空っぽな0のとき、頑張って頑張ってひねり出したアイデアはやっぱり最後までどこか納得がいかない。

だけど0が0でないときに生まれたアイデアは輝いていて愛おしくて自信をまとっている。


真っ白だった頭の中で、ふわっと生まれた0の欠片がたまりたまって大きくなったら衝動的に吐き出して、また真っ白に戻す。そしてまたため込んで吐き出す。

私はそんなことをいつもしている。



そんな衝動的な気持ちが集まって生まれたのが、そう、『SINGALONG』なのである。

衝動的な気持ちの詰まった作品だから、きっとそれを聴いてくれるあなたにも、衝動的な何かが訪れるのではないかなと思っています。

何かを始めてみたくなったり、モヤモヤしていた気持ちが晴れたり、誰かに会いたくなったり、誰かに悩みを打ち明けてみてもいいかなと思えたり、つい歌って踊ってみたくなったり。


まあ、『SINGALONG』を聴いてあなたがどう感じるかなんて結局のところ自由だし私には分からないことなのだけれどね。

それでも、そうであったら最高だな、とまた妄想が膨らんでしまうのです。



おしまい。



さて、次は何を書こうかな。
また真っ白になってしまった。

<緑黄色社会・長屋晴子>

◆ニューアルバム『SINGALONG』
2020年4月22日配信リリース

<収録曲>
01. SINGALONG
02. sabotage
03. Mela!
04. 想い人
05. inori
06. Shout Baby
07. スカーレット
08. 一歩
09. 愛のかたち
10. 幸せ
11. Brand New World
12. あのころ見た光
13. 冬の朝