ただ、君だけは、君にだけはわかってもらいたい、ただそれだけだ。

 2017年5月24日に“HOWL BE QUIET”のフルアルバム『Mr.HOLIC』がリリースされました。そして、そのなかに収録されているラブフェチが今、動画投稿アプリ『TikTok』で若い世代を中心に支持を集めているんです。カップル自慢の動画から火が付き、その歌詞に共感したユーザーによる動画投稿が急増。同曲を使用しての振付動画も増加!

 Youtubeで公開したOffcial Audioも、公開から1ヶ月で50万回再生を突破、3年前にリリースした楽曲とは思えない勢いは今も加速度を増しております。さて、今日のうたコラムでは、そんなロングヒット曲を生み出した“HOWL BE QUIET”の竹縄航太による歌詞エッセイをお届け…!【前編】では、名曲ラブフェチの生い立ちをたっぷりと綴っていただきましたので、是非このエッセイを読んだうえで改めて、歌詞を楽しんでみてください…!

~歌詞エッセイ【前編】~

 「ラブフェチ」がTikTokで盛り上がってるらしい。そんな話を耳にしたのは2020年1月の終わりのことだった。ラブフェチをリリースして3年。とても遅咲きの桜だった(とは言えまだ咲ききれてはない)。

 あの頃、僕らはアルバム制作の真っ只中だった。『Mr.HOLIC』というアルバムタイトルも決まり、収録曲も曲順もほぼほぼFIXしていた。ジャケットはどうする? アー写(アーティスト写真)はどうする? MVはどうする? そんな話を矢継ぎ早に進めていく中で、僕はずっとモヤモヤしていた。漠然と何か足りないことをわかっていた。『Mr.HOLIC』、いわば『Mr.依存症』と銘打ったアルバムの表紙を飾ってくれるような曲がない。このもどかしさがすごく気持ち悪かった。メンバーとも話をする中で「このモヤモヤを持ったまま、リリースするのは良くない。チームに相談しよう」。そう結論付いた。即座にチームにもう1曲作らせてくれと嘆願し、少しの猶予をもらうことが出来た。

 その時に出来た曲が「R.O.A.L.」。そう、この曲がのちの「ラブフェチ」となる。今思うと「R.O.A.L.」って何だそれってタイトル。でも当時の僕は本気だった。何故、R.O.A.L.だったかは想像にお任せしたい。答えがわかった人には何かプレゼントします。当然、メンバー、スタッフにも「意味がわからない」と大不評を食らい、すぐに書き換えることになった。しかし、メロは良いとみんな絶賛してくれた。何はともあれ、取り掛かった「ラブフェチ」の制作。思い出せば、作ろうとパソコンに向かって、一番初めに書いた言葉はサビの歌詞だった。

 友達と恋バナなんかしてる時、笑いながら言われた。「偏った考え方してるね~」。そうなのか。みんなそうじゃないのか。その事実に驚いた。束縛がどうとか、重いとかなんとか。自分で色々歌っておきながら「随分な束縛をされる方もいるもんですな」と思うこともそれはあるが、でも、その気持ちは大いに理解出来る。だって好きな人なのだから。

 それは不安にもなるだろう。離したくないと思うだろう。でも、世間的には“束縛”という言葉でまとめられたり、ネガティブな印象を持たれることが多い。自分が偏ってるという評価を受けたのも、きっとそういうことなんだろう。愛情というのは、恐怖と表裏一体なんだと改めて痛感した瞬間でもある。だからだろうか。アルバムの顔となる曲を作ろうと思った時、すぐに出てきた言葉は<これもれっきとした愛情ってやつだろう>その一節だった。

 これは大衆的に歌っているように見えて、実はそうではない。何も世界的に「かくかくしかじか、こういうことを考えてしまう、この感情も愛情と呼んでくれませんか?」と言いたいわけでは決してない。何をどう思うかなんて人それぞれだ。誰がどう思おうと、個人の自由だ。ただ、君だけは、君にだけはわかってもらいたい、ただそれだけだ。

 世界中の人間がみな、NOと言おうと、君だけがYESと言ってくれたらそれでいい。恋愛なんて得てしてそういうものだろう。赤ちゃん言葉で話す恋愛があったっていい。お互いに浮気していい約束をしている恋愛があったっていい。その二人の中だけに定められた約束を破らなければ、外野は外野。最後に決めるのは本人たちでいいと僕は思う。僕個人だってそうだ。僕がそう思うのだから仕方がない。

 偏っている。ならば、偏ったまま、自分の愛情というやつを歌ってやろう。それがこの「ラブフェチ」という曲の根幹を占めている。偏愛の歌。

 話を戻すがまだ以前タイトルは「R.O.A.L」のままだ。このままではやばい。そこでその前に作ったギブアンドテイクという曲を一緒に取り組んでくれ、手応えを感じていたこともあり、今一度、いしわたり淳治さんに力を貸してもらった。いしわたりさんとの制作はとてもユニークだった。「君が記憶喪失になって、過去の人のことを全部忘れて、僕が全て初めての人になったらいいのに」なんてAメロを送った時に、大真面目に「なるほど。ちょっと怖いかも」と返してくれるような人だった。

 そんな中、サビ頭の歌詞で悩んでいた時に、この曲でどんなことを歌いたいかをありったけ吐露した。上に書いたようなことを、それはそれは長い時間をかけて。そこでいしわたりさんが「だったら、そのまま“偏愛”って歌っちゃおうよ。ラブフェチはどう?」と提案してくれたのだ。自分では絶対思いつかない。なんと清々しいのだろう、と当時、ものすごい衝撃を受けたのを覚えている。いしわたりさんがいなかったら、そのまま「R.O.A.L」とかいう訳のわからない曲になっていたかもしれない。いや、逆に通はラブフェチをR.O.A.L.と呼ぶのもアリかもしれない。一段踏み違えたら、全く別の結末になっていたかもしれない選択と奇跡の連続で「ラブフェチ」が今ここにいるんだと実感する。危ないところだった。

 ただ、リリースした当時は、HOWL BE QUIETを知ってくれている人にだけ、知ってもらう歌でもあった。特にMVを作ったりしたわけではないし、ただ、アルバムの1曲目という仕事を担ってくれているだけの曲だった。それが、3年経って、TikTokという場所で、一人歩きしていることを知った時は心底驚いた。

 何より嬉しかった。曲が届いてくれた、という喜びは勿論、歌詞にフォーカスを当ててくれていたからだ。どこか救われたような、そんな気持ちで一杯だった。それと同時に、あれだけ曝け出して良かったと思った。誰かの気持ちを代弁する、そんな大それたことをしようなんて思ってもいないが、結果的に同じように思う誰かの、誰にも言えない偏愛に、少しでも寄り添えていたのなら、本望だ。

 そして、「ラブフェチ」「偏愛」と歌った曲が、TikTokの中で「恋愛」に変わろうとしている。偏ってない。おれもだよ。そう言ってもらえているような。「ラブフェチ」を使った動画も見た。そこには幸せそうなカップルの日常が切り取られていた。美しかった。そう、それだけ美しいから怖いのだ。それがいつ無くなってしまうか、その幸せそうな景色の裏側に、いつもその怖さは孕んでいること、視覚的に見せてもらったような気がする。

 今、この原稿をこうやって書けているのはラブフェチのおかげである。ラブフェチのおかげで、ラブフェチという曲の生い立ちを綴ることが出来た。だから「ラブフェチ」を誇りに思う。そして、そんな風に思わせてくれた、そこまで連れてきてくれた全ての人に感謝したい。

 これは完全に余談だが、曲タイトルを決めた時、よくネットで検索をする。同じような曲名だったり、何か危ない言葉と繋がってしまわないかとか、心配性なりに気になるからだ。

 勿論、当時も検索した。「ラブフェチ」とGoogleで検索したら、何ともいかがわしい、いかにもHなことを提供してくれそうなお店がヒットした。検索された時、これと並ぶのか、という葛藤と戦った末、「いや、でもこの曲はラブフェチだろう!」とそのまま貫いた。そんな当時の我々の勇気にも乾杯したい今日この頃である。

おしまい

<HOWL BE QUIET・竹縄航太>

◆紹介曲「ラブフェチ
作詞:Kota Takenawa
作曲:Kota Takenawa

◆フルアルバム『Mr.HOLIC』
2017年5月24日発売
PCCA-04528 ¥2,800 +税

<収録曲>
1. ラブフェチ
2. MONSTER WORLD
3. ギブアンドテイク
4. にたものどうし
5. My name is...(ALBUM Ver.)
6. サネカズラ
7. PERFECT LOSER
8. Wake We Up
9. 矛盾のおれ様
10. Higher Climber
11. 208
12. ファーストレディー