そんな鈴木まなかさんが、歌詞エッセイの第1弾、第2弾に続く、最終回で綴ってくださったのは女性アイドルグループ“わーすた”に提供した楽曲「いまはむかし」にまつわる、彼女の実体験。第2弾エッセイの「つづく」の先のお話です。是非、最後までご熟読くださいませ。
~歌詞エッセイ最終回「いまはむかし」10年後のもう1つの物語。~
以前プロデュースしていたアイドル“わーすた”に提供した「いまはむかし」という楽曲は、大好きなお祖父ちゃんが亡くなってしまう物語。歌詞は淡々と書いて、仮歌は泣きながら録音したのを今でも覚えています。実はこの曲はノンフィクションです。
幼少期、祖父と祖母に育てられた私にとって、とても思い入れの強い楽曲となりました。そして、リリース後しばらくの間、自らこの曲を聞くことはありませんでした。私が久しぶりにこの楽曲を聴いた、意外なきっかけをお話させてください
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「ねぇ、おばあちゃんは知りたい?」
私は何も知らずに微笑んでるおばあちゃんに問いかけた。察したのか、それとも元々勘付いていたのか、すぐにこう答えた。
「知りたいよ。もうここまで生きれて幸せな人生だったから、何も悔いはないよ。」
そう言い放ったおばあちゃんに、肺ガンから骨転移している末期癌の事、ずっと嘘をついていた事、全てを打ち明けた。おばあちゃんは一筋の涙を流しながら、無理に作った笑顔で、俯く私に話しかけた。
「おじいちゃんと同じ肺ガンだ、嬉しいね」
それからも希望が小さくなっていく日々は続いたが、おばあちゃんは常に希望を失わなかった。奇跡が起こる。そんな予感すらした。
「いつか、トイレに一人で行けるようにリハビリを頑張るね。」
「いつか、寝返りが打てるようになるといいなぁ。」
「いつか、また大声で笑いたいな。」
そんなおばあちゃんが突然私の名前を呼んで、話を始めた。
「早くおじいちゃんに会いたいな。まなかちゃんも、おじいちゃんみたいな人と結婚したらおばあちゃんみたいに幸せになれるからね。」
そう言いながら、おばあちゃんは初めて号泣していた。慰めるために握った手が、気付いたら私の涙で濡れていた。時間を忘れて2人でずっと泣いていた。
「ありがとう、ありがとう」と伝え合いながら。
その晩、おじいちゃんがお迎えに来ておばあちゃんはゆっくりと人生の卒業式を迎えた。
それから1年経った頃、おばあちゃんが大切にしていた一軒家の片付けやリノベーションをすることにした。色んなものが無造作に詰め込まれている棚がある。片付けようと思い、一番手前にあるCDプレイヤーを手にとった。
よく見ると、CDが入ったままになっている。美空ひばりさんが大好きだったおばあちゃんは、どんな曲を聞いていたのか気になって開けてみたら、CDに印刷されていたのは「The world Standard/わーすた」の文字だった。
私が全曲サウンドプロデュースを手掛けたアルバム。胸が熱くなりながらも、片付けを再開したらすぐにわーすたのCDのケースが出てきた。プレイヤーに入りっぱなしだったCDをしまうために開けてみると、歌詞カードが「いまはむかし」のページで裏返しになったまま、しまってある。
久しぶりに歌詞を読んでみたら、滲んでいて読めない部分があった。おばあちゃんは少女のようにいつも笑っていたけど、実はこっそり泣いている事もあったのだろう。
私はCDプレイヤーの電源をいれて、久しぶりに「いまはむかし」を聞いた。おじいちゃんとおばあちゃんの写真が並ぶ仏壇に手を合わせながら。
<鈴木まなか>
◆紹介曲「いまはむかし」
作詞:鈴木まなか
作曲:鈴木まなか・宇佐美宏
★鈴木まなか
『言葉の達人』登場回