「ナンセンス」という騙し絵。

感覚ピエロ
「ナンセンス」という騙し絵。
2024年4月25日に“感覚ピエロ”が3rd FULL ALBUM『NULL』(ヨミ:ヌル)をデジタルリリースしました。感覚ピエロの約2年ぶりとなる今作は、昨年公開された宮藤官九郎脚本、映画『ゆとりですがなにか イン ターナショナル』主題歌や、大人気ゲーム『テイルズオブ』シリーズ最新作『Tales of ARISE - Beyond the Dawn』テーマソング、映画『ブラッククローバー 魔法帝の剣』挿入歌など新旧含む全12曲を収録。 さて、今日のうたではそんな“感覚ピエロ”による歌詞エッセイを3週連続でお届け! 最終回は横山直弘(Vo.&Gt.)が執筆。綴っていただいたのは今作『NULL』について、そして収録曲「ナンセンス」にまつわるお話です。コロナ禍に出会った一冊の本。その時に生まれた新しい価値観の根は、どのように今作に影響を及ぼしているのか…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。 僕はあまりにも個人的で自己完結的な人生を歩んできました。 友達ってなんなのか今でもよくわからないし、先輩後輩としての関わり合い方みたいなものも希薄でした。 それで割を食ったことも沢山ありましたし、隣の芝を眺めては「青いなあ、青はいい色だなあ」と思ったこともしばしばです。 新型コロナウィルスで自粛を余儀なくされた2020年、僕は本を買い集めて読み耽っていました。 あまりにも個人的な僕は、あの時に感じた圧倒的な不安を、自力で噛み砕くしかなかったのです。 その中で僕はフロイトの『精神分析学入門』という一冊に出会いました。 単行本サイズに細かい字が敷き詰められた全764頁。 その一冊の為に丸々3日間を注ぎ込めるだけの時間が僕にはありました。 この本との出会いは僕にとってかなりエポックメイキングな出来事でした。 無意識とは、深層心理とは、トラウマとは、寝ている時に見ている夢の正体とは、そんなことが764頁に渡って書かれていました。 見える世界の在り方がガラッと変わり、自分自身のことはより一層よくわからなくなりました。 しかしながら、日頃の所作、表情、服装、そして取捨選択する言葉の一つ一つが、その人自身が演出する自分以上に、雄弁にその人そのものを強く物語っているという価値観を、僕は心に強く持つようになりました。 この度リリースになります感覚ピエロの3rd Album『NULL』は、その時に生まれた新しい価値観の根が、より自分の奥底まで侵食した作品である様に感じています。 僕は歌詞を作る際、サビに配置したい単語一つや短い文節を始めに考えます。 それが決まってから、その言葉を頂点に置いて一本の木を作っていくように、あるいは、その言葉を因数分解していくかのように全体の言葉を選んでいきます。 自分が選んだ言葉に意味やストーリーを肉付けしていく。または一つの単語を分析していく。歌詞を書く行為はそんな感覚でした。 それが通例だったのですが、今作の「ナンセンス」に関しては、歌いながら即興で歌詞を作ることにトライしました。 言葉を取捨選択し推敲するという行為がその人間の潜在意識に帰属しているのだとすれば、いっそ取捨選択や推敲というプロセスを捨てて、自然に掴んだ言葉をそのまま並べた方がむしろ強い肉体性を伴うんじゃないか、そう考えたからです。 本質的に生々しいものを作りたい。そういった思いがありました。 「ナンセンス」はトラックを流しながらメロディに合わせて歌い、自然と口から出た言葉を並べました。 ただ思いつくままに並べていきました。 一つ一つの言葉が出て来た理由は分かりません。 トラックの雰囲気や、日常に纏わりついているニオイが影響してるのかもしれませんが、ハッキリとしたことは分かりません。 僕の肉体から出てきた言葉である以上、何かの意味を多分に含んでいるに違いありません。 ただ、その正体が何であるかの判断を挟まずにそれを文章とした為に、それが何であるか僕は言語化ができません。 僕の言葉を並べた以上、それは意味を成してメッセージとして届きます。 しかしながら僕の意志として「何を伝えたいの?」と問われれば、なにもないです。 要するに「ナンセンス」は騙し絵みたいなものです。 僕は今この瞬間も「なにもない」ということについて、如何に文字数を割いて書けるかというゲームに興じています。 それはとてもナンセンスな行為です。 一方で「ナンセンス」は僕の純度100%の言葉を並べたからこそ生じる強い意味があります。 トリックアートみたいなものです。 「ナンセンス」という騙し絵です。ですから分析すらナンセンスだと思います。感じてください。 「ナンセンス」は映像を撮影しました。ミュージックビデオが公開されます。 どこか歪さのある映像です。その歪さの正体を知りたくて監督と話をしました。その内容がとても面白かった。 「『ナンセンス』というタイトルだから、普通はナンセンスな人物を主人公に置いて描いたりする。 だけど今回は違う。 主人公は苦しんで自殺する。 だけどその彼女がナンセンスなのではなく、そういった出来事を生み出す遠因の中にいて、それをただ観測している、外側の人間たちがナンセンスなのだ。 それを描きたかった。」 これには非常にグッときました。その話を聞いて初めて理解したことが沢山ありました。 ですので、是非ともミュージックビデオも併せてご鑑賞頂けたら幸せです。 3rd Full Album『NULL』には「ナンセンス」以外にも沢山の曲があります。 例えば「LOVELESS」という曲は、僕が以前に一度楽曲を書かせていただいた、とあるアーティストさんに書き下ろしていた1曲です。 デモでは初音ミクに歌わせていました。イメージの先にあるのはそのアーティストさんですが、その方と初音ミクが僕の中で融合して、「いかにドギツイ言葉で歌わせられるか」というゲームを楽しんでいました。 思えば「ナンセンス」のNONE、「LOVELESS」のLESS、両者とも欠落を含んでいます。 僕が今作『NULL』で表現したのは、「NONE」「LESS」「NULL」といった空虚さや欠乏だったのかもしれません。 でも分かりません。 だってナンセンスですので。 3rd Album『NULL』是非ともお楽しみください。 <感覚ピエロ・横山直弘(Vo.&Gt.)> ◆3rd FULL ALBUM『NULL』 2024年4月25日発売 <収録曲> 01 名無大行進曲 02 壊れたハートに火をつけろ 03 咲き乱れ Boys&Girls 04 Can You Secret 05 the light 06 KARASAWAGI(feat. 小野武正 from KEYTALK) 07 スラムジャパン 08 ナンセンス 09 Break Together 10 LOVELESS 11 ノンフィクションの僕らよ 12 We Still