半崎美子
私というフィルターを通して、誰かの想いを歌にしている気持ち。
 あなたほど立派な人はいない 
昼夜問わず働いて それでもいつも笑っていた 
自分のことで涙を見せない 
そんなあなたを 何度も泣かせてごめんね 
「母へ」/半崎美子  
 
 2019年5月8日に“半崎美子”がニューシングル「母へ」をリリース。今作のタイトル曲は、コンサートで歌うたびに会場が涙に包まれる歌であり、彼女が大切に温めてきた“母賛歌”となっております。歌ネットでは5月の特集にてその新作についてのインタビューを敢行し、ご自身のお母さんのお話をはじめ、様々な想いを語っていただきました。 
  
 是非、歌詞と併せてチェックしてみてください!さらに今日のうたコラムでは、そんな“半崎美子”の作詞論もお届けいたします。彼女は、全国のショッピングモールを回り、歌を届け続けている“ショッピングモールの歌姫”としても有名なんです。そんな半崎美子だからこそ生み出すことができる音楽についてのお話、じっくりとご堪能あれ…! 
 
― ショッピングモールで歌を届けていくなかで、反響の大きい曲と言うと? 
 
 半崎:歌う時期やリリース時期にもよりますが、一番みなさんが立ち止まってくださるのは「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」と「サクラ~卒業できなかった君へ~」ですかね。ときには、その曲を聴くために来てくださったという方もいらっしゃいます。 
 
赤・緑(あお)・黄色の彩りと 
栄養たっぷりのバランスと 
にんじん・ピーマン・セロリ 
あの手この手で入れてます 
毎朝渡すお弁当は あなたへのお手紙 
「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」/半崎美子 
 
桜 花びらが舞う 
一緒に見ていた夢を 
ふわり空にのぼった 
あなたに送りたい 
「サクラ~卒業できなかった君へ~」/半崎美子 
  
― 思わず立ち止まってしまうのは、“会いたい”とか“好き”とかではない、J-POPであまり聴きなれないワードがまず心にとまるからというのもあるかもしれませんね。 
 
 半崎:あ、たしかにそうですね!なかなか<お弁当>ってね(笑)。だからこそ、まさに毎日お弁当作りをなさっている方だったり、これからお弁当作りをする方だったりが、ふと聴き入ってくださるのかもしれません。もうお弁当作りを卒業した方でも「当時のことを思い出しました」って。 
 
新曲の「母へ」もそうなんですけど、きっと年齢や自分の人生によって、感じ方が変わってくる歌詞が多い気がします。聴くタイミングのその時々で。たとえば、自分自身が母のことを思い出して聴くこともあれば、自分が母になって子供にお弁当を作る立場で聴くこともあったり。いろんな世代の方に、いろんな形で届けば良いなと思いますね。 
 
あなたが生まれた日 空が笑っていた 
予定より早くに 歓びの声あげて 
あらゆる壁や困難も 乗り越えられると選ばれた 
「歓びのうた」/半崎美子 
  
― 最新作のカップリングである“母目線”の「歓びのうた」といい、代表曲「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」といい、どうして美子さんはこんなにお母さんの気持ちがわかるのでしょうか…。 
 
 半崎:あはは!多分、自分の母をモデルにしている部分と、ファンの方々のお話から影響を受けている部分と、どちらもあると思います。とくにサイン会やお手紙から、あらゆるお母さんたちの想いや言葉をたくさんいただいているので。そういうものは確実に自分のなかで流れずに残っていくというか、降り積もっていくんですよね。だから自分で書いているんですけど、そんな気がしないというか、書かせてもらっている感覚なんです。私というフィルターを通して、誰かの想いを歌にしている気持ちがいつもありますね。 
  
― 普段、曲作りはどのようになさっているのですか? 
 
 半崎:あまり作為的に「こういうふうにAメロを持ってきて、サビではこうして…」と曲を書くことはなくて。先ほど言った、自分のなかに降り積もっていったものが、ブワーッと溢れてくるんです。メロディーと歌詞が一緒に。それをボイスメモに録って、あとでライターさんのように文字起こしをする感じなんですね。溢れてきた瞬間は何を歌ったかよくわからないんですけど、ボイスメモを聴いて初めて「あ、こんなこと歌っていたんだ」って気づくことも多いです。  
 
― 降りてくるというより、溢れてくるのですね。 
 
 半崎:そうそう。なので、普段もとくにフレーズを書き溜めたり、ということもしないんですよ。自分が日々を生きているなかであったいろんなことと、出逢ったひとから受け取ったいろんなことが、降り積もっていって、そういうものが表面化するときにメロディーを伴ってくるという現象…みたいな感じなんですよね。  
 
― 曲を書き始めた当時からずっとそのような歌の生まれ方なのでしょうか。 
 
 半崎:いや、最初はそれこそフレーズメモとかしていましたし、今のような溢れる感覚はなかったですね。上京した当時って、どちらかというと、誰かの想いというより、ただ自分の想いを伝えたいだけだったんですよ。発信することしか考えていませんでしたし。だけど今は逆に「私はこうです!」って歌がほとんどない気がします。多くが“誰かの歌”なんですよね。 
  
― ショッピングモールで歌い続け、サイン会で多くの方と出逢い続けてきたからこそ、生まれた歌の形ですね。 
 
 半崎:本当にそうだと思います。ショッピングモールで歌うようになってから“受信する”という力が芽生えたように感じていますね。ずっと主観で物事を見ていたけれど、客観性も身についたというか。たとえば、モールで歌を届けるにしても、どういうふうにイスを並べたらいいか、どういうふうにポスターを貼ったらいいか、まずそういうところから相手の立場になって考えられるようになったり。少しずついろんなことが俯瞰で見られるようになっていきました。 
 
そして、やっぱりサイン会というのもすごく私にとって大切で。楽しくお喋りをする“会話”というより、心と心を通わせる“対話”の時間なんですよね。ときにはお互いに涙を流しながら話したり。言葉を介さなくても伝わるものがあったり。こう…その方の番になると、もう目が逢っただけで一緒に泣いていて、それだけで分かり合えるような不思議な瞬間もあるんですよ。そういう方たちの思いを汲み取り、言葉の裏にある感情を受け取ってきたことで、私なりの“受信力”が芽生えていき、自分の曲も大きく変わっていったんだと思うんですよね。 
  
― 歌詞を書くときに意識していることはありますか? 
 
 半崎:う~ん、唯一あまりやらないことは、たとえば1番、2番、3番ってサビがあるとしたら、同じフレーズを繰り返すということはしない。それによって曲をキャッチーにしたりということは、私の場合ないですね。1曲を通して、想いやストーリーを描きたいと思っているので。だから、どの曲も1コーラスで非常に切りづらくなっています(笑)。 
  
― 美子さんが歌詞面で影響を受けたアーティストを教えてください。 
 
 半崎:さだまさしさんですね。とくに「案山子」という曲が好きです。父がこの歌をカラオケで歌って、私はすごく泣いたのを覚えています。 
 
お前も都会の雪景色の中で 丁度あの案山子の様に 
寂しい思いしてはいないか 体をこわしてはいないか 
「案山子」/さだまさし 
 
半崎:さださんは、人間の心の機敏をすごく繊細に表現されるじゃないですか。そういうところは、聴いていて影響を受けている気がしますね。あと中島みゆきさんの歌詞も、素敵だなぁと思うものがたくさんあります。 
  
― ありがとうございました!では、最後に美子さんがこれから挑戦してみたい歌詞とはどんなものでしょうか。 
 
 半崎:こういう歌を書いてくださいと言っていただくことは結構ありますね。たとえば「介護にすごく疲れているので、そういう方たちを応援するような歌を作ってください」という声だったり。「障害のある子供たちが、ひとりの人間としてもっと尊重されるような自由の歌を作ってください」という声だったり。 
 
あと、学校にもよく歌いに行っていたので、子供たちに歌う曲はあるんですけれど、その子供たちの先生方からお手紙をいただくことも多々あって「子どもたちを見守る先生側の歌も作ってくれたら嬉しいです」という声も印象的でした。 
 
そういう方たちの言葉って、やっぱり絶対に私の心のどこかに残っているから、ニューシングルの「心の活路」や「歓びのうた」を作るときにも、どこか意識していたようなところがありますね。これからもそうやって新しい歌詞が自然と生まれていくんじゃないかなと思います。みなさんの声が、私の音楽の一番の源です。 
  
◆4th シングル「母へ」 
2019年5月8日発売 
通常盤(CD) CRCP-10426  ¥1,111+税   
特別盤(CD+LIVE DVD) CRCP-10425 ¥3,889+税