坂本冬美 スペシャルインタビュー!

坂本冬美、スペシャルインタビュー! 男性歌手のロックやポップスをカバーした最新アルバム『想いびと』が 2024年 6月26日に発売! 最新シングル『ほろ酔い満月』は、耳に残る昭和歌謡曲風のポップス!「私の中ではコンプレックスだったんです…」歌手デビューまでの驚きのヒストリーに、休養後、復活までのエピソードも!

 


インタビューの最後に、直筆サイン色紙 の 読者プレゼントあり!

 



Sakamoto  Fuyumi
坂本 冬美

Album『 想いびと
Single『 ほろ酔い満月 』



★ 1987年、19歳の時、シングル『あばれ太鼓』で歌手デビュー!
★ 唯一無二の特徴的な歌声と、独特のコブシで、ヒット曲多数!
★ 王道演歌から、歌謡曲、ポップス、ロック調まで、幅広いジャンルの持ち歌!
★「NHK 紅白歌合戦」出場数は、紅組歌手として歴代3位となる通算35回!

★ 最新シングル『ほろ酔い満月』は、耳に残る昭和歌謡曲風のポップス!
★ 男性歌手のロックやポップスをカバーした最新アルバム『想いびと』が発売!

★ 歌手デビューまでの驚きのヒストリーに、休養後、復活までのエピソードも!
★「私の中ではコンプレックスだったんです…」 

 

 

 

坂本冬美 『恋の予感』 (2024年 6月26日 発売 アルバム『想いびと』収録)
 
 
 
坂本冬美 『ほろ酔い満月』(2024年 2月21日 発売 最新シングル)
 
 
 
 
 

■ アルバム リリース情報
 
 
 
 
坂本冬美『想いびと』
アルバム CD / Digital
2024年 6月26日 発売
UPCY-7979
¥3,500
Lighthouse Music / Universal Music
 
<収録曲>

01  ひまわりの約束 (作詞・作曲:秦 基博 / 編曲:城戸紘志)
          【秦 基博、2014年】

02  恋の予感      (作詞:井上陽水/ 作曲:玉置浩二/ 編曲:佐々木博史)
          【安全地帯、1984年】

03  サクラ、散ル… (作詞・作曲:GACKT、YOHIO/ 編曲:城戸紘志)
          【GACKT、2013年】

04  月         (作詞・作曲:桑田佳祐 / 編曲:宮野幸子 )
          【桑田佳祐、1994年】

05  千の風になって (日本語詞・作曲:新井 満 / 編曲:新倉一梓)
          【新井満、2003年 / 秋川雅史、2006年】

06  身も心も       (作詞:阿木燿子 / 作曲:宇崎竜童 / 編曲:野村陽一郎)
          【ダウン・タウン・ブギウギ・バンド、1977年】

07  One more time, One more chance  (作詞・作曲:山崎将義 / 編曲:萩田光雄)
                                        【山崎まさよし、1996年】

08  Oh! クラウディア (作詞・作曲:桑田佳祐 / 編曲:萩田光雄)
            【サザンオールスターズ、1982年】

09  心 はなれて   (作詞・作曲:小田和正 / 編曲:佐々木博史)
          【オフコース、1981年】

10  花瓶の花     (作詞・作曲:石崎ひゅーい / 編曲:宮野幸子)
          【石崎ひゅーい、2016年】

 

 
 
 
 
 
 
 
■ シングル リリース情報
 
 
 
 
坂本冬美『ほろ酔い満月』
シングル CD / Digital
2024年 2月21日 発売
UPCY-5119
¥1,400
Lighthouse Music / Universal Music
 
<収録曲>
1 ほろ酔い満月 (作詞:⽥久保真⾒ / 作曲:杉本眞⼈ / 編曲:佐藤和豊)
2 淋しがり   (作詞:⽥久保真⾒ / 作曲:杉本眞⼈ / 編曲:佐藤和豊)
3 ほろ酔い満月  オリジナル・カラオケ
4 淋しがり      オリジナル・カラオケ


 
 
 

■ コンサート / イベント出演 情報

 

 

坂本冬美 コンサート 2024

 

2024年 7月7日(日) 15:00 開演

岸和田市立浪切ホール(大阪)

 

2024年 7月18日(木) 14:00 開演

高槻城公園芸術文化劇場 トリシマホール(大阪)

 

2024年 7月19日(金) 14:00 開演

広島文化学園HBGホール  (旧:厚生年金会館)(広島)

 

2024年 7月28日(日) 14:00 開演

大井川文化会館ミュージコ(静岡)

 

2024年 9月14日(土)14:30 開演

アイプラザ豊橋(愛知)

 

2024年 10月5日(土) 14:30 開演 

松戸・森のホール21(千葉)

 

2024年 12月16日(月)12:00 開演 / 16:00 開演

氷見市芸術文化館(富山)

 

 

 

大阪 新歌舞伎座 開場65周年記念 歌手生活60年 五木ひろし 特別公演(坂本冬美 特別出演)

 

2024年 10月31日(木) ~ 11月21日(木)

大阪 新歌舞伎座

 

 

坂本冬美 コンサート情報

 







■ 坂本冬美 スペシャルインタビュー!



 

 

 坂本冬美の歌声は特徴的だ。とくに、高い張った声は、ガラスのような硬質な響きにハスキーな感じもあり、加えて、ヨーデルにも似た独特のコブシが、より個性を強め、魅力的にしている。なんとも心地よく、ひきこまれる歌声で、その場を圧倒する。

 

 NHK の視聴者参加番組『勝ち抜き歌謡天国』に出場したことで、作曲家の猪俣公章にスカウトされ、トントン拍子で、わずか 1年後の 1987年、19歳の時に『あばれ太鼓』(作詞:たかたかし / 作曲:猪俣公章)で歌手デビュー。その後、『祝い酒』(作詞:たかたかし / 作曲:猪俣公章)、『男の情話』(作詞:松井由利夫 / 作曲:猪俣公章)、『能登はいらんかいね』(作詞:岸元克己 / 作曲:猪俣公章)、『火の国の女』(作詞:たかたかし / 作曲:猪俣公章)、『夜桜お七』(作詞:林あまり / 作曲:三木たかし)、『風に立つ』(作詞:たかたかし / 作曲:弦哲也)、『また君に恋してる』(作詞:松井五郎 / 作曲:森正明)、『男の火祭り』(作詞:たかたかし / 作曲:杉本眞人)など多くのヒット曲を持つ。

 

 「NHK 紅白歌合戦」でも、1988年の初出場以来、出場数は、紅組歌手として歴代3位となる通算35回で、昨年末、2023年の第74回までは21年連続して出場中だ。

 

 そんな 坂本冬美 だが、驚くべきことに、歌手デビューするまで、本格的な歌のレッスンやトレーニングを受けたことがない。発声も、その特徴的なコブシも、全て自己流で、まさに天性のものと言える。

 

 しかし、そこが、長くコンプレックスだったと話す。本当の意味で、歌手として自信が持てたのは、デビュー から22年後の2009年に発売された『また君に恋してる』のヒットの後だと言う。

 

 これまで、カバーアルバムでは、演歌はもちろん、歌謡曲、ポップスやロックから長編歌謡浪曲まで、実に様々なジャンルのカバーを歌っているが、坂本冬美の場合、王道演歌でデビューし、王道演歌のヒット曲を持ちながら、持ち歌の中に、『夜桜お七』(作詞:林あまり / 作曲:三木たかし)、『アジアの海賊』(作詞・作曲:中村あゆみ)、『また君に恋してる』(作詞:松井五郎 / 作曲:森正明)、『ブッダのように私は死んだ』(作詞・作曲:桑田佳祐)など、ポップスやロック調のヒット曲もあることが特徴的だ。

 

 今年、2024年2月21日に発売された最新シングルの『ほろ酔い満月』(作詞:⽥久保真⾒ / 作曲:杉本眞⼈)も、最近だと「演歌」という分類になるのかもしれないが、王道演歌ではなく、1980年代風のノリのよいキャッチーなポップス調の歌謡曲だ。

 

 そして、2024年6月26日には、男性ボーカルのロックやポップスをカバーした最新カバーアルバム『想いびと』が発売される。自身が若い頃から好きだったサザンオールスターズや桑田佳祐のソロ曲、安全地帯、オフコース、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド などや、山崎まさよし、秦基博、GACKT、石崎ひゅーい といった最近の J-POP まで、全10曲が収録されている。

 

 いずれも、原曲のメロディに忠実に歌いながらも、坂本冬美 らしい歌声と歌唱で、その曲が持つ魅力をあらためて感じることができる。一見、バラバラに思える10曲だが、『想いびと』というアルバムタイトル通り、いずれも愛する人への想いがさまざまな形で表現されており、アルバムを聴き終えた後、やさしい気持ちになれる。

 

 今回、2020年に、桑田佳祐が坂本冬美のシングル曲として書き下ろした『ブッダのように私は死んだ』とイメージが近い 桑田佳祐のソロ曲『月』を、アルバム・コンセプトのキーになる曲と位置付け選曲された。

 

 アルバムの中でも、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド の『身も心も』、GACKT の『サクラ、散ル…』というロックの2曲が、とくに印象的だ。『ブッダのように私は死んだ』も『月』そうだが、こういうマイナー調のロック系バラードでは、とくに、坂本冬美の魅力を強く感じる。坂本冬美 は、演歌もポップスも、どちらもいい。

 

 今回のインタビューでも、坂本冬美は「ロックと演歌は実は近いのかもしれない」と言い、「自分は、たまたま王道演歌でデビューしたが、本当は王道の演歌歌手ではないのかもしれない」とも話している。

 

 坂本冬美は、テレビなどで見るイメージそのままに、偉ぶることなく、謙虚で、丁寧で、上品で、細かい気遣いも忘れない素敵な人だ。

 



<もくじ>

1 昭和歌謡曲の雰囲気をもった最新シングル『ほろ酔い満月』

  〜「嬉しさがやっぱりありましたね…」〜

 

2 男性ボーカルのロックやポップスをカバーした最新アルバム

  〜「誰もがきっと共感できる歌詞ばかりだと思うんです…」〜

 

3 やさしい気持ちになれるカバーアルバム『想いびと』

  〜「色でいうと "白" にしていくんですよ…」〜

 

4 際立って特徴的で、唯一無二の魅力的な歌声

  〜「それがきっと個性なんでしょうね…」〜

 

5 NHK の『勝ち抜き歌謡天国』出演から、わずか 1年で歌手デビュー

  〜「私の中ではコンプレックスだったんです…」〜

 

6 デビュー15年目に休業、そして復活

  〜「本当の意味で歌手として自信が持てたような…」〜

 

7 演歌もポップスもロックも歌える歌手

  〜「だから、本当は、私、ド演歌じゃないんですよね…」〜



 

1 昭和歌謡曲の雰囲気をもった最新シングル『ほろ酔い満月』 〜「嬉しさがやっぱりありましたね…」〜

 

 

ーー 今年、2024年2月21日に発売された最新シングルの『ほろ酔い満月』(作詞:⽥久保真⾒ / 作曲:杉本眞⼈)は、1980年代の昭和歌謡曲の雰囲気をもったノリのよいポップス調の歌謡曲。サビの「♪ちゃらんぽらんで ほら」や「♪ちゃらんぽらんなふり」の部分がキャッチーで耳に残るが、Aメロの出だし「赤く ほてって いるよな 満月のせいで」からすでにいい。

 

坂本: あっ、うれしいです。ありがとうございます。これはもう、おっしゃっていただいたように、昭和の歌謡曲をちょっと令和風にということで出来ました。

 

ーー 新曲『ほろ酔い満月』を作曲したのは、ちあきなおみ の『紅い花』『冬隣』『かもめの街』などや、因幡晃『忍冬』、桂銀淑『花のように鳥のように』、そして、小柳ルミ子 の『お久しぶりね』『今さらジロー』などでも知られる 杉本眞⼈(杉本真人)。坂本冬美 では、「♪あっぱれ あっぱれ あっぱれ そ〜れ!」と歌われる『男の火祭り』(作詞:たかたかし、2013年)や、「ザ・杉本バラード」とも言えるような『風うた』(作詞:吉田旺、2015年)なども手がけている。『ほろ酔い満月』は、杉本眞⼈(杉本真人)の非凡なポップセンスに加え、アレンジも心地よく、聴いても歌っても心地よい曲だ。

 

坂本: そうですね。歌っていて本当に心地いいです。たとえば、あの……、「演歌だとちょっと私歌えないわ。でも、今の若い人の歌はもっと歌えないわ」っていうような人に、きっと、「あっ、これだったら歌えるかしら」ってなんか親しみを持って歌ってもらえるかなって思ってます。

 

坂本: で、多分、コンサート会場なんかだと初めて聴く方が多いじゃないですか。でも、おかげさまで、反応がすごく返ってきますね。

 

ーー メロディが先に作られた『ほろ酔い満月』のサビに、「♪ちゃらんぽらんで ほら」や「♪ちゃらんぽらんな ふり」という言葉を乗せた作詞家の 田久保 真見 も見事だ。

 

坂本: そうですね〜。私、まず、「ちゃらんぽらん」っていう言葉が歌になるっていうことがびっくりで、その時点で、「あっ、(作詞の)田久保(真見)先生頑張ってくれな」って……(笑)。キャッチーなんですけど、きっと悩まれたと思うんですよね。メロ先(メロディ先行)だったので、そこに乗せて詞を書いてくださったということですから。

 

坂本: で、ディレクターが「坂本冬美をイメージして作ってください」と。なので、多分、私をその主人公の女性に見立てて、書いてくださったんだと思うんですね。私自身を知らない、あまりね存じ上げないでしょうから、(田久保 真見)先生が思ってらっしゃる 坂本冬美 をこの主人公の女性にしたら、年齢的にも、「こんな大人の恋の駆け引きで、こんな感じなのかな」っていうふうにして作ってくださったと思うので、私自身も、なんかその恋の駆け引きを本当に楽しみながら歌わせていただいてるっていう感じですね。

 

坂本: だから、最初にいただいたとき、また今まで歌ってきた世界観とはちょっと違いましたんで、「また新しい歌を作っていただけたな」っていう嬉しさがやっぱりありましたね。

 

ーー それこそ『今さらジロー』や『お久しぶりね』のように、昭和なら大ヒット曲になっていそうな曲だ。

 

坂本: ねっ、そうですね〜。まさに、それを狙ってたんです。『今さらジロー』『お久しぶりね』を狙って、ああいう感じで皆さんに歌っていただけたりしたら嬉しいなと思ったんですけど……。でも、今はもう CD がね、なかなか売れない時代なので、だから、なんとかして知っていただいて、カラオケで歌っていただけるようにと思ってます。

 

 

2 男性ボーカルのロックやポップスをカバーした最新アルバム 〜「誰もがきっと共感できる歌詞ばかりだと思うんです…」〜

 

 

ーー 2024年6月26日には、最新カバーアルバム『想いびと』が発売となる。これまでにも、演歌のヒット曲集、ナツメロ名曲集、猪俣公章 作品集、阿久悠 作品集、歌謡曲やポップスの『Love Songs』シリーズ(全5作)や、演歌の名曲をリアレンジした『ENKA』シリーズ(全3作)など、これまでにも多くのカバーアルバムが発売されているが、今回は、男性ボーカルのロックやポップスのカバー全10曲が収録されている。

 

坂本: 選曲は、私の意見もありますけど、まず、廣瀬(裕子)プロデューサーから、桑田(佳祐)さんの『月』(作詞・作曲:桑田佳祐)という歌が今回入っていますけども、『ブッダのように私は死んだ』(作詞・作曲:桑田佳祐、2020年、坂本冬美)を書いていただいて、同じライン上にある歌ということで、「じゃあ『月』を坂本冬美の声で歌ったらどうなんだろう?」っていうところから、「ちょっと歌わせてみたいな」っていうところから始まったんです。

 

坂本: で、やっぱり『月』も、愛する人への思いを歌った歌じゃないですか。ある意味、ちょっと以前に出させていた『Love Emotion』(坂本冬美のカバーアルバムで情念をテーマにポップスを選曲、2021年)にあってもいいような「情念の歌」という捉え方もあるんですけど、でも、この「愛する人への切ない思い」っていうのがありますから、そこから、今回、『想いびと』というくくりになったんです。

 

坂本: それで、『想いびと』っていうくくりで選曲をしてって何十曲もある中で、もちろん私が歌ってみて、「これは合う」「これは合わない」「これ、ちょっとチャレンジしてみようか」っていうところもあれば、私が「どうしてもこれ歌ってみたい!」っていう 石崎ひゅーい さんの『花瓶の花』(作詞・作曲:石崎ひゅーい、2016年)とか選んでいったんですね。

 

坂本: だから、普通、カバーアルバムって、だいたい大メジャーな曲を選曲するんですけど、今回は、そうではなくて、なんか心に残る……、たとえば、『Oh! クラウディア』(作詞・作曲:桑田佳祐、サザンオールスターズ、1982年)とかもね、ファンの方の間では有名な曲ですけどシングル曲じゃないですしね。

 

坂本: そういった意味では、マニアックな選曲になってますけど、でも、聴いていただいたら、それぞれの曲が、「それぞれの思いが愛する人へ届く」そんなメッセージも込められてる歌だっていうふうな、そういったものを集めてもらってるんですけど、やはり、「そのときに伝えられなかった想い」とかも、誰もがきっと共感できる歌詞ばかりだと思うんですよね。

 

坂本: だから、「男性が歌う、男性目線の歌」という、これもひとつのくくりなんですけど……、はい。

 

ーー アルバムの中でも、『Oh! クラウディア』には特別な想いがあるという。

 

坂本: まあ、やはり、『Oh! クラウディア』っていうのは……、これはちょっと、私の中では青春時代の曲で、『NUDE MAN』(サザンオールスターズ、1982年)というアルバムに入ってる曲なんですけど、でも、今回、「『月』があって、桑田(佳祐)さんの曲 2曲ってちょっと欲張りすぎかしら」と思ったんですけど、でも、(プロデューサーの)広瀬(裕子)さんが「『Oh! クラウディア』入れませんか?」って言ってくださって……。

 

坂本: ただ、私の中では、青春時代の 1曲でもあるんですけど、弟が昨年亡くなって、弟の娘たちに聞くと、弟の「カラオケ 十八番(おはこ)ソング」で必ず歌っていて、必ず車では、その『NUDE MAN』っていうアルバムがいつも流れてたっていう、そういう思い出のある曲でもあるわけですね。

 

坂本: だから、「ちょっと歌うのつらいかな」と思ったんですけど、それを悩んでいるときに、たまたま、付き人の女の子に、「(プロデューサーの)広瀬(裕子)さんは、これ歌った方がいいって言ってくれてるんだけど、ちょっと私つらくて歌えないかな〜」って言ったときに、近くに置いてあったバランスボールがスーッと動いたんですよ……、これ作り話じゃなくて本当に。

 

坂本: だから、「弟は、やっぱりこれ歌ってほしいのかな」って……、「歌ってくれよ」って言ってるような気がしたので、「桑田(佳祐)さんが OK してくださるなら、これも入れさせていただきましょうか」っていうところで、桑田(佳祐)さんの曲が 2曲になったということなんです。

 

ーー 『Oh! クラウディア』は、今回、名アレンジャーの 萩田光雄 によるアレンジで、歌声が引き立つように作られている。

 

坂本: そうなんです、アレンジがね〜。だいたい、今回は、お若い方々にアレンジしていただいてるんですけど、ここはもう重鎮にご登場いただいて……(笑)、びしっと。

 

ーー 今回のアルバムの中で、とくに、坂本冬美 の歌声が印象的だったのが、『身も心も』(作詞:阿木燿子 / 作曲:宇崎竜童、1977年、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド)と、『サクラ、散ル…』(作詞・作曲:GACKT・YOHIO、2013年、GACKT)というマイナー調のロック系バラード 2曲だった。

 

坂本: ありがとうございます。この『サクラ、散ル…』は、「えっ! GACKT さん! 私、GACKT さん歌うの?!」っていう……(笑)、最初、そういう感じだったんですけど、でも、曲聴いて、「いい歌ねぇ〜」って、本当に心揺さぶられました。

 

坂本: それに、桜ってやっぱり日本人は大好きじゃないですか。桜って聞くだけでイメージがありますし、「桜と別れ」っていうのは、誰もが何か琴線に触れる部分でもあって、本当に、私自身も 50(歳)も後半になって、もう 60(歳)手前になって、「あれ、あと何回、桜見られるのかしら?」って思う……、毎年ね、そういうことを強く思うようになってきている歳でもありますし、なんかそういった意味で、 「GACKT さんの曲だけど、ちょっとチャレンジしてみたい」ってなったんです。

 

坂本: で、歌ってみると、本当にロックですよね。『身も心も』もね、ある意味、雰囲気が似てるんですよ。だから、「あっ、私って意外とロックも合うんだな」って……(笑)。なんか、演歌とロックって、真逆にいるようだけど、何か根底の部分では、ちょっと繋がってるのかなと思ったりしますね。

 

ーー 『身も心も』では、サビはもちろんだが、「♪言葉はむなしいけど ぬくもりなら信じよう  涙は裏切るけど 優しさなら 分かち合える」の部分の歌声で、言葉が心に響く。

 

坂本: ありがとうございます。そうですね〜。やっぱり、まず歌詞がいいですよね……、どの曲も。

 

 

3 やさしい気持ちになれるカバーアルバム『想いびと』〜「色でいうと "白" にしていくんですよ…」〜

 

 

ーー たとえば、今回、アルバム制作のキーになった 桑田佳祐 ソロの『月』(作詞・作曲:桑田佳祐、1994年)は、淡々と歌われている難しい曲だが、坂本冬美 の歌声で、言葉が響いてくる。今回のアルバムで、歌ってみて大変だった曲を聞いた。

 

坂本: 全部……(笑)。いや、これはね、本当に苦戦しました。やっぱり、男性の歌なので音域が広いっていうのもありますし、それと、なんて言うんでしょう……、1番と 2番と、もう本当に初歩的なことなんだけど、譜割りが全然違って、とくに『One more time, One more chance』(作詞・作曲:山崎将義、山崎まさよし、1997年)なんて、これは 山崎(まさよし)さんご本人の歌で聴いたら、「ちょっと難しい」って思って、それで、ソン・シギョン さんて韓国のアーティストの方がカバーされてるんですけど、その方の歌を聴いて、なんとか覚えられたっていう感じなんですけど……(笑)。

 

坂本: 山崎(まさよし)さん、個性強すぎるんですもん……(笑)、個性強すぎるから、覚えるのにまず時間かかったんで、1番も 2番もなんか譜割りがちょっと違ったりなんかして。それでも、やっぱりレコーディングのときは、「えっ、ここは、こうなるの?」っていうのが何ヶ所かあって、歌い直しを何度かしましたね。

 

ーー 坂本冬美 と言えば、たとえば、テレビの番組収録の合間などには、トイレで歌の練習をしている声がずっと聞こえてくるというのが、関係者の間では有名だ。

 

坂本: そうそう……(笑)。

 

ーー それほど練習をする 坂本冬美 は、今回のようなアルバムのレコーディング前にも、相当、歌い込んで、作り上げて行くのだろうか?

 

坂本: すごく歌い込んで行くんですけど、でも、レコーディングするときは、色でいうと「白」にしていくんですよ。自分の中では、一応、練習もして「こんな感じかな、あんな感じかな」って、一応、自分なりの練習をしていくんですけど、レコーディングのときは、やはりプロデューサーの方の意見とかも聞きながら、「じゃあ、こうしよう」とか「ここは、もうちょっとこうしてください」って言われたときに、凝り固まってると、もう直せないので、「ここは、もうちょっとこうしてくれませんか?」とか「やっぱり元に戻しましょう」とかっていう柔軟性は持っていくんです。

 

坂本: でも、もともと間違って……、たとえば、『Oh! クラウディア』みたいに学生の頃に聴いていたものを歌うと、間違って覚えていたりとか、正確なメロディじゃなかったりとか、もう、そういうのは、なかなか直らないですね……(笑)、染みついてるので。なので、そういう苦労もやっぱりありましたし……。

 

坂本: だから、本当に、もう、あの……、毎回そうなんですけど、レコーディングした後からもう反省が始まって、「ああ、ここはこうすればよかった」「ここはこう歌えばよかった」っていう、その繰り返しなんですけど……、でも、レコーディングのときは、もう必死で「これで精一杯」っていう感じですね。

 

ーー とくに、カバー曲の場合は、原曲のイメージを壊さないようにしながらも、自分らしさも出さなければならないから難しい。今回、いずれの曲も、原曲に忠実に歌いながらも、坂本冬美 の良いところがよく出ている。

 

坂本: ありがとうございます。そうですね〜、やっぱり、カバー曲っていうのはとても難しいです、そういった意味では。

 

ーー 安全地帯 のヒット曲『恋の予感』のカバーは、テレビ朝日ドラマプレミアム 宮部みゆき 原作『霊験お初〜震える岩〜』の主題歌となっていたことから、アルバム発売に先駆けて、2024年4月30日に先行配信された。

 

坂本: これも、学生の頃に聴いていたのと歌うのとでは全然違いましたし、歌の解釈も、もちろん若いときに聴いていたときとまた違いますし……、それに、これはもう、玉置(浩二)さんが、うますぎますから。

 

坂本: でも、これは、たまたま「テレビ朝日の時代劇のエンディング曲として」っていうこともあったので、ドラマがなければ、もっとベタ〜ッとした歌を、どろっとした歌を歌っていたと思うんですけど、やはり主人公が若い 2人だったので、あまり重くならないように、ちょっと客観視しながら歌わせてもらいました。

 

坂本: なんか、こう、自分の若いときのこともオーバーラップさせながら、微笑ましい若い頃の自分も、その主人公の 2人も、「大丈夫よ、そのままいい大人になってね」みたいな……(笑)、「いい恋してね」っていうような……(笑)、「いい恋してたら大丈夫よ」って……、みたいな気持ちで、なんか客観的に歌ったような気がしますね。

 

ーー たとえば、『千の風になって』(日本語詞・作曲:新井満、2003年 新井満 / 2006年 秋川雅史)など、原曲と歌唱の雰囲気が全く違う分、あらためて曲本来の良さを再認識させられる歌もある。

 

坂本: やっぱり、『千の風になって』っていうのは、本当に、想いを乗せすぎると、どうしても重くなってしまうのでね。やっぱり「千の風」ですから、さわやかな風が吹いている中で、愛する人を失ったその人の想いと、愛する人を残してきた人の想い……、お互いが「大丈夫よ」って伝えたいっていう想いが、その風の中で交差して、どっちも、つらくならないような気持ちになればいいなと思って歌いました。

 

ーー 自身が「どうしてもこれ歌ってみたい!」と言った 石崎ひゅーい の『花瓶の花』(作詞・作曲:石崎ひゅーい、2016年)は、もともと好きで聴いていた曲なのだろうか?

 

坂本: 今回、初めて聴いたんですよ、ふっふっふっ……(笑)。候補曲に入ってて、初めてこれを聴いたわけなんですけど、「なんていい歌なの!」「こんないい歌があるんだ!」と思ったんです。でも、歌いたいけども、音域的にも本当にギリギリで、本当はオリジナルは転調してるんですけど、転調したらちょっときついなと思ったんで、ちょっと転調は勘弁していただきましたけど……(笑)。

 

ーー 今回のカバーアルバムの最後に収録されている『花瓶の花』は、石崎ひゅーい が自身の母への想いを歌った歌だと言われている。

 

坂本: そうなんですってね〜。でも、いわゆる輪廻転生で、もう何万年も前からの「生まれ変わって、生まれ変わって」っていうことの繰り返しだから……。私は、魂は絶対にいつもあると思ってるんですね、肉体はなくなっても。だから、私もやっぱり大事な人との別れをいくつか経験してますので、それはやっぱりすごく感じるんですよ、「あっ、そばにいてくれてるな」とか……。

 

坂本: だから、なんかそういう「想い」っていうか、そういうものは、時代が変わっても、生まれ変わっても、なんかその「想い」っていうのは、ずっと誰もが想い続けて、愛する人を想い続けて、それが繋がっていってるっていうような気がするので、なので、最後のアレンジのピアノもね、次に繋がるような、なんか「さみしい」とかじゃなくって、なんか次の世に繋がるようなね、そんな感じになってるんです。

 

坂本: だから、いろんな別れがあって、一瞬、さみしいけれども……、一瞬じゃないな……、それはずっとあるんだけれども、でも、「またなんか新たな出会いがあるのよ」っていうような、なんかそんな「想い」というか……。

 

坂本: だから、アルバムを聴いて、さみしい気持ちになるんじゃなくって、愛する人への、なんか温かい気持ちになって、最後、聴き終わってくれたらね……。「あの人に会いたいな」って、「また会えるといいな」って、なんかそんな温かい気持ちになって聴き終えてくれたら嬉しいですね。

 

 

4 際立って特徴的で、唯一無二の魅力的な歌声 〜「それがきっと個性なんでしょうね…」〜

 

 

ーー 坂本冬美 の歌声は特徴的だ。とくに、高い張った声は、エッジが効いて、輪郭がはっきりしていて、ガラスのような硬質な響きにハスキーな感じもあり、加えて、ヨーデルにも似た独特のコブシが、より個性を強め、魅力的にしている。なんとも心地よく、ひきこまれる歌声だ。そんな唯一無二の歌声を、自分ではどう思っているのだろう?

 

坂本: 褒めすぎじゃないですか……(笑)。もう最高の褒め言葉です。ありがとうございます。

 

坂本: まあ、クセはあるなとは思いますね。なんだろう……、でもね、演歌を歌うには物足りない声だと思うし、なんだろう……、あの……、難しいんですけど、個性が強いかって言ったら強くないと思うんです。だけど……、難しいな……、クセはあるんだけども、なんて表現したらいいんだろう……。

 

坂本: あの……、やっぱり、昭和の歌い手さんって「ひと声」聴いたらこの人ってわかったじゃないですか。で、今、とてもそれが、大勢アーティストがいるからなのか、似たようなタイプが結構いる中で、やっぱり「ひと声」聴いたらわかる歌手でありたいっていうのは思ってるんですよ、それは。だから、(坂本)冬休み さんとか、モノマネもよくしていただいてますけど……(笑)、モノマネしていただいてるってことは、ちょっとクセもあるんだろうなと思うんですけど。

 

坂本: この間も、『新・BS日本のうた』の収録で、天童(よしみ)さんと一緒に(天童よしみの)『道頓堀人情』(とんぼりにんじょう)を歌わせてもらったんですけど、その時に、天童(よしみ)さんが、「う〜ん……、独特な歌い方やな」って……(笑)。だから、天童(よしみ)さんから見ても、やっぱりちょっと私の歌い方って……。で、いつも、マネされるんですよ、「♪また きみ〜に〜」「♪あさちゅ〜ゆが〜」って……(笑)、だから、やっぱりクセがあるんだろうなって。

 

ーー とくに、ヨーデルのようにオクターブで裏返るような 坂本冬美 のコブシは珍しい。松原のぶえ のコブシもそういう感じだが、坂本冬美 ほど極端ではないし、ほかに、そういうコブシを回す歌手は、ちょっと思い当たらない。

 

坂本: そうですね……。だから、普通の演歌独特のコブシを回せって言われたら、私、意外とできないんですよね。でも、クル クル クルッ っていうコブシが……、なんか、う〜ん……。

 

ーー そのコブシが自然と入ってしまうこともあるのだろうか?

 

坂本: もちろんです。でも、それをおさえることもできますし、もちろん、意識的に入れることもできます。

 

ーー たとえば、『また君に恋してる』や『ブッダのように私は死んだ』といったポップス調の持ち歌や、ポップスやロックをカバーした今回のアルバムなどでは、コブシは、ほとんど入っていない。

 

坂本: うん、あの……、そこはもうおさえてますね。コブシは入れてないですけど、でも、「間(ま)」だったり、なんか鼻にかかったりとか、この辺に響く声とかっていうのはやっぱり演歌っぽいですし、でも、コブシ自体は回してないです。

 

ーー 今回のアルバム『想いびと』では、たとえば、『サクラ、散ル…』の「♪どれだけ手を伸ばしても Oh」のところや、『月』の「♪あ〜あ〜」のところで、かすかにコブシが入っている。

 

坂本: ああ……、ありますか? そうなんだ……。それは無意識かもしれないですね。

 

ーー その独特のコブシは、自然にできたと言う。

 

坂本: そうなんでしょうね。子供のころからですから。でも、そのころのコブシは、今よりも、もっとヒドかったです。もっとコロコロしてました。それで、(デビュー前に、師匠の)猪俣(公章)先生のところに行ったときに、「それがちょっと邪魔だ」「ヨーデルのようなその発声を少しおさえろ」って言われて、だんだんおさえるようになったんです。だから、もともとは、もっと コロン コロン してましたけど、それが逆に、今度、あんまり コロン コロン しなくなってきましたね。

 

ーー 天性の武器だと思う。

 

坂本: う〜ん……、それがきっと個性なんでしょうね。

 

 

5 NHK の『勝ち抜き歌謡天国』出演から、わずか 1年で歌手デビュー 〜「私の中ではコンプレックスだったんです…」〜

 

 

ーー 1967年(昭和42年)に、和歌山県の南端、いわゆる南紀白浜と呼ばれる白浜町に隣接する西牟婁郡(にしむろぐん)上富田町(かみとんだちょう)に生まれた 坂本冬美 は、子供のころから歌が好きだった。

 

坂本: 好きだったかどうかはわからないんですけど、最初に覚えた歌は、おじいちゃんの影響で、並木路子 さんの『リンゴの唄』(1945年)でした。で、自分で歌いたいと思って初めて歌ったのは、森昌子 さんの『せんせい』(1972年)とか『おかあさん』(1974年)とかです。そういう歌を初めて地元のお祭りで、桜祭りかなんかで生演奏で歌ったのが最初です。もう、おじいちゃんの影響で、家では、常に演歌・歌謡曲が流れてました。

 

ーー 中学校の作文で「将来の夢は演歌歌手」と書いていたようだが、そもそも、歌手になりたいと思ったのはいつからなのだろう?

 

坂本: それは、小学校 5年生のときに、石川さゆり さんの『津軽海峡・冬景色』(1977年)と出会って、「(石川)さゆりさんのような演歌歌手になりたい」って思って、そこからはもうブレずに、ずっと演歌歌手になりたいって思っていました。

 

ーー 中学、高校では、ソフトボール部に所属していた。

 

坂本: そうです、キャッチャーです……(笑)。で、そのころ、初めて サザン(オールスターズ)と出会ったんです。で、もちろん、アイドル全盛期ですから、(松田)聖子ちゃん、(中森)明菜ちゃんも聴いてました。それから、「たのきんトリオ」の トシちゃん(田原俊彦)派でファンでしたし……(笑)。

 

坂本: でも、トシちゃん(田原俊彦)も好きでしたけど、聴いていた歌っていうと、やっぱり サザン(オールスターズ)が多かったですね。で、歌の練習は、(石川)さゆり さんでした。

 

ーー 中高校生のころは、ソフトボール部で忙しかったのかもしれないが、その当時、歌手になりたいと思ってはいたが、とくに、歌のレッスンやお稽古に通うことはなかった。

 

坂本: はい、全く我流です。全く我流で、おじいちゃんが、それこそ毎日私が練習してると聴きに来ては、お客さんのふりして、酔っ払いのふりして来たりとかっていう感じで、おじいちゃんが聴いてくれてたんですけど、でも、おじいちゃんは歌好きでしたけどアドバイスするほどでもなかったですし。

 

ーー 歌手になりたいと思ってはいたが、高校卒業後は、大阪の会社に就職した。

 

坂本: はい、歌手になりたいと思ってはいたけども、なかなか、和歌山ではちょっとどうやっていいかわからないので、「一応、大阪に出てみるか」みたいな感じだったんですね。東京に行けばいいんですけど、やっぱり東京だと帰ってくるのも大変だし、知ってる人は 1人もいないので、とりあえず大阪だったら、友達も就職してたり、学校に行ってたりしたんで、大阪に一応行ってみようかなっていう感じでした。

 

ーー しかし、4か月ほどで、その会社を退社し、地元の上富田町からも近い日高郡みなべ町にある梅干し会社「株式会社ウメタ」に就職した。

 

坂本: そうです。高校を卒業して、一度、大阪で就職してから、すぐ戻ってきて梅干し会社に就職したんですけど、その梅干し会社のご近所に、中尾さんというお宅があって、カラオケの機材があって、ステージがあってっていうところで、そこで練習をさせていただいてました。そこで、中尾さんがカラオケ同好会みたいなのを作ってらして指導もされてたんで、ちょっとアドバイスを……、「ちょっとココはコブシ回しすぎちゃうの?」とかって言われながら、録音していただいて、それを(素人のど自慢)番組に送っていただいたっていう……。

 

坂本: そのころは、石川さゆり さんの歌はもちろんですけども、その当時に流行ってた歌を歌ってましたね。なので、それこそ『道頓堀人情』(1984年)もあれば、都はるみ さんの『北の宿から』(1975年)とか『夫婦坂』(1984年)とか、森昌子 さんの『越冬つばめ』(1983年)だとか、松原のぶえ さんの『おんなの出船』(1979年)だとか、もういろんな演歌を歌ってました。

 

ーー そして、当時、NHK で毎週放送されていた、全国各地を巡回し、素人が 市川昭介、猪俣公章、曽根幸明、中村泰士、平尾昌明、三木たかし、宮川泰、森田公一 といったプロの作曲家のレッスンを受けるという視聴者参加番組『勝ち抜き歌謡天国』(和歌山大会)にテープを送り出場、決勝でも勝ち抜き、番組での優勝に当たる「名人」となった。

 

坂本: 2曲、送ったんですけど、石川さゆり さんの『波止場しぐれ』(1985年)と、もう 1曲は、米倉ますみ さんで、ちょっと浪曲がひと節入る『俺の出番はきっと来る』(1983年)にしたんですけど、これはもう、ある意味、はったり……(笑)、おどかしで……(笑)、最初に本当に浪曲みたいに「♪花の舞台の〜」っていうのが入るんですね。で、その、浪曲から男歌を歌う曲と、対照的な(石川)さゆり さんのしっとりした女歌という 2曲を選んだんです。

 

坂本: 番組で最初に歌ったのは『俺の出番はきっと来る』で、それで、2人残るんですけど、そこで勝ち残って、決勝戦で『波止場しぐれ』を歌いました。

 

ーー そのとき、番組で歌唱指導を担当していた 作曲家の 猪俣公章 に声をかけられた。森進一 の『港町ブルース』『それは恋』『女のためいき』『おふくろさん』などや、『千曲川』(五木ひろし)、『京都から博多まで』(藤圭子)、『女のブルース』(藤圭子)、『噂の女』(内山田洋とクール・ファイブ)、『一度だけなら』(野村将希)、『空港』(テレサ・テン)などで知られる大作曲家だ。

 

坂本: はい、そうですね。番組が終わって、猪俣(公章)先生に、「歌手になりたいか?」って聞かれて「はいっ!」って言ったら、「よし、わかった。じゃあ連絡するから」っていうことで。

 

ーー その番組の翌月、すぐに上京し、猪俣公章 の内弟子となった。そして、トントン拍子で話が進み、『勝ち抜き歌謡天国』出場からわずか 1年、1987年3月4日、19歳の時に『あばれ太鼓』(作詞:たかたかし / 作曲:猪俣公章)で歌手デビューした。

 

坂本: はい、ちょうど 1年後ですね。番組が 1986年3月1日の収録で、翌年、1987年の3月4日にデビューですから、ちょうど 1年ですね。

 

ーー しかし、上京して 猪俣公章 の内弟子となったものの、歌手デビューまでの間、とくに歌のレッスンはなかった。

 

坂本: はい、ないです。レッスンはないです。ホントです。あの……、デビュー曲が決まってから、「じゃあ、この曲をレッスンしましょう」ってだけでした。なので、その後も、曲ができるたびに「じゃあ、この曲のレッスンをしよう」という感じで……。それに、レッスンって言っても、ワンポイント・レッスンですね。

 

ーー 坂本冬美 の場合、歌手になるまで、いわゆる歌のトレーニングやレッスンを受けたことがない。

 

坂本: ないんです。でも、逆に、それが、私の中ではコンプレックスだったんです。本当に基礎的な練習というか、そういうレッスンを受けてないので、いきなり『あばれ太鼓』でデビューして、忙しくなって、もう基礎もないのに、もうとにかく次から次へとお仕事があって……、発声の基本ができてないわけですから……。

 

ーー そうは言うが、しかし、仮に発声がよくなかったりしたら、猪俣公章 から言われただろうし、そんなにすぐにデビューとはならなかっただろう。

 

坂本: そうでしょうかね〜……。まあ、だから、もう行き当たりばったりなところはあったんですけど、でも、もう実践で、どんどんどんどん身に着けていったっていうところはあるかもしれないですね。

 

ーー 天性のものに加えて、まさに「習うより慣れろ」で、歌に磨きがかかっていったのだろう。

 

 

6 デビュー 15年目に休業、そして復活 〜「本当の意味で歌手として自信が持てたような…」〜

 

 

ーー デビュー曲の『あばれ太鼓』は、いきなりヒットし、『第29回 日本レコード大賞』で新人賞を受賞。翌年、1988年には、3枚目のシングル『祝い酒』の大ヒットで、『第30回 日本レコード大賞』で金賞を受賞、年末には、『第39回 NHK 紅白歌合戦』に初出場した。その後も、1991年には、オリジナル曲として 5作目(通算8枚目)のシングル『火の国の女』で『第33回 日本レコード大賞』最優秀歌唱賞(演歌・歌謡曲部門)を受賞するなど順風満帆だったが、そんな中、1993年に、師匠であり、それまで 坂本冬美 の曲を作曲していた 猪俣公章 が 55歳という若さで亡くなった。

 

ーー しかし、その翌年、1994年に 12枚目のシングルとして発売された『夜桜お七』(作詞:林あまり / 作曲:三木たかし)がロングヒット。その年の『第45回 NHK 紅白歌合戦』で歌われて以来、『NHK 紅白歌合戦』では、現在まで 9回も歌われている代表曲になったが、『夜桜お七』は、それまで 猪俣公章 が書いてきた『あばれ太鼓』『祝い酒』『火の国の女』『能登はいらんかいね』などの王道演歌とは全く毛色の違う、和ロックのサウンドに乗せたポップス調の歌謡曲だった。戸惑いはなかったのだろうか?

 

坂本: いや、逆に「この曲しかない」と思いましたね。猪俣(公章)先生が亡くなられて、たとえば、市川昭介 先生や、岡千秋 先生とか、演歌路線の先生に曲を書いていただいてたら、きっとどこかで、「猪俣(公章)先生だったら、こんなふうになるな」とか「きっとこういうメロディーになるな」とか思ったでしょうし、(『夜桜お七』は)三木たかし 先生のああいうメロディだったし、かつ、ああいう歌詞だったし、アレンジも含めてちょっと斬新な楽曲だったので、次のステップを踏むことができたのかなと思いますね。

 

ーー その後も、『ふたり咲き』(作詞:麻こよみ / 作曲:岡千秋)や『風に立つ』(作詞:たかたかし / 作曲:弦哲也)などがヒットし、デビュー翌年の 1988年から 2001年まで『NHK 紅白歌合戦』にも 14回連続で出場した。

 

ーー しかし、歌手活動 15周年を迎えた 2002年3月に、歌手を休業することにした。1997年に父親が突然、交通事故で亡くなったことや、当時の過密スケジュールの中、体調がすぐれなかったためだ。そのときは、休業ではなく、歌手をやめようと思っていた。

 

坂本: うん、もうやめるつもりでいました。まあ、いろんなことが重なってっていうこともありますし……、で、やっぱり、そのコンプレックスが、ずっとそれが根底にありました、やっぱり。「じゃあレッスンに行けばいいじゃないか」ってことなんですけど、本当に忙しかったから、もうレッスンに行く暇もなかったです。本当に、たった 1日の休みに体を壊して病院に駆け込んだりとかね、点滴打ってもらったりとか、そんな感じで 10周年くらいまでは、本当に駆け足でいきましたんで、やっぱりその疲れとかもドッと出たんでしょうね。

 

ーー 休んでいる間にも、2002年9月4日にシングル『うりずんの頃』(作詞・作曲:永井龍雲)が発売されている。

 

坂本: そこは、レコード会社が……(笑)。『うりずんの頃』は、アルバムに入ってたんで、そこからシングルになったっていう……。でも、休んでる間も NHK のラジオの番組(『昼どき日本列島』)で『日々是好日(ひび これ こうじつ)』(作詞:阿木燿子 / 作曲:宇崎竜童、2002年発売シングル『男侠』カップリング曲)って 宇崎(竜童)さんに作っていただいた曲が流れてましたし、まあ、レコード会社のみなさんは、何とか帰ってくるのを待ってくださってたんでしょう……(笑)。

 

ーー そんな中、和歌山の実家で母親と一緒にテレビで見た「二葉百合子 65周年リサイタル」での『岸壁の母』を聴いて感動した 坂本冬美 は、二葉百合子 に「歌う自信を失くして引退しようと思っている」と縋る思いで手紙を書いたところ、二葉百合子 から連絡が入り「ウチに来なさい」と言われた。

 

坂本: そうです。もう、すぐ行きました。お電話いただいてから、もうすぐ伺って、その日のうちからお稽古が始まって、毎日、毎日、二葉百合子 先生のお宅に伺ってました。

 

ーー そうして、2002年の11月から、二葉百合子 の門下生となり、レッスンを始めたことで、そのうちに復帰しようという気持ちになっていった。

 

坂本: はい、そうですね、徐々に、徐々に。それでも……、それで、頑張ってみようって思ったはいいんですけど、実際、その翌年(2003年)の 4月1日かな、『NHK 歌謡コンサート』からスタートしたんですけど、その時点では、まだ迷いが本当にありました、「これで良かったのか?」って、「本当に戻ってきて良かったんだろうか?」って……、それは、まだまだ。

 

ーー 休業からちょうど 1年後の 2003年4月1日『NHK歌謡コンサート』への生出演で歌手活動を再開したが、その後も、まだ迷いがあり、本当に自信を持てたのは、ずっとあとだった。

 

坂本: 『また君に恋してる』(作詞:松井五郎 / 作曲:森正明、2009年)ぐらいからだと思います。やっぱり、その……、もちろん、戻ってきて、ずっと通常に戻ってやってましたけど、本当に自信を持って「ああ、大丈夫」って思ったのは……、「私、もう歌しかない」って言ったら大げさですけど、「この道で生きていくんだ」って自信を持って言えたのは、『また君』(『また君に恋してる』)と出会ってからだと思いますね。

 

坂本: 戻ってきても、「本当に良かったんだろうか?」「また、なんか普通に、昔と変わらない忙しさになってきてるけど大丈夫なのかな?」って思いながらも、でも、やっぱり、『また君』(『また君に恋してる』)で、本当に……、本当の意味で歌手として自信が持てたような気がしますね。

 

 

7 演歌もポップスもロックも歌える歌手 〜「だから、本当は、私、ド演歌じゃないんですよね…」〜

 

 

ーー 坂本冬美 の場合、「演歌歌手」とは言われるが、カバーではなく、オリジナルの持ち歌の中にも、演歌ではない曲も多い。デビュー曲の『あばれ太鼓』や『火の国の女』『祝い酒』などや、最近の『男の火祭り』『俺でいいのか』などは、いわゆる王道演歌と言えるが、『夜桜お七』は限りなくポップスに近いし、『アジアの海賊』『また君に恋してる』『おかえりがおまもり』『ブッダのように私は死んだ』などは、演歌ではなく完全にポップスだ。

 

坂本: まあ、でも、やっぱり、新聞に載るときは「演歌歌手」なので、やっぱり世の中の皆さんは演歌歌手と思ってるわけで、坂本冬美をイメージしたら、まず「髪をアップにして和服を着て」っていうのがまずあると思うんですね。

 

ーー しかし、最新曲の『ほろ酔い満月』をはじめ、最近は、ドレスで歌うことも少なくない。

 

坂本: そうですね。それも、『また君に恋してる』がきっかけですね。それまでも、(CD)ジャケットでは洋装のものもあるんですけど、ほとんどテレビに出る時は、和装が多かったですね。ステージでは、ドレスをワンコーナーだけ作ってましたけど、そういった意味では、ドレスがある意味定着したのは『また君に恋してる』からですよね。だから、『また君に恋してる』から、徐々に、徐々に、いろんなことが変わっていった感じですね。

 

ーー 『また君に恋してる』や『ブッダのように私は死んだ』もそうだし、今回のアルバム『想いびと』の 桑田佳祐、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド、GACKT のカバーなど、ポップスやロックも実にうまく歌う。これほど、ロックをうまく歌う演歌歌手は、そう多くはない。

 

ーー さらに、遡ること 1991年には、細野晴臣 と 忌野清志郎 とともに「HIS」という 3人組ユニットを結成し、シングル 2枚とアルバムを 1枚リリースしている。

 

坂本: あの……、私自身「ド演歌」だと思い込んでたんですけど……、だから、本当は、私、「ド演歌」じゃないんですよね。

 

坂本: でも、私自身は「ド演歌」が、一番、もしかしたら……、なんて言うんだろう……、いわゆるじっくりと歌う「ド演歌」って言いますかね、パンチの効いた「ド演歌」みたいなものは勢いでごまかせるんだけども、「じっくり歌う演歌」みたいな、たとえば、美空ひばり さんの『悲しい酒』だったり、ああいうものを歌えって言われたら、「ちょっと、私、苦手だな」っていうのは、やっぱりあるんですね。

 

坂本: だから、そういった意味では、もう本当に演歌が好きで歌手になりましたけど、聴いていた、歌ってたって言ったら、アイドルのものもあれば、サザン(オールスターズ)だったり、ロックだったり、ポップスだったりっていうのをずっと聴いてた……、学生の頃はね、普通に聴いてましたし、歌ってもいましたし、だから、そういった意味で、たまたまデビューが「ド演歌」だっただけで、それを、いろんな先生方が引き出してくださったのかなっていうのは感じますね。

 

ーー とは言え、坂本冬美 が歌う王道演歌『あばれ太鼓』『火の国の女』『祝い酒』『男の火祭り』『俺でいいのか』などは、とてもいい。

 

坂本: ありがとうございます。

 

ーー 最近も忙しく活動している 坂本冬美 だが、楽しむために音楽を聴いたりする時間はあるのだろうか?

 

坂本: もう、全く聴いてないんです。もうね、次から次へと覚えなきゃいけない曲があって……(笑)。もうね、このアルバムをやってるときは、昨年の暮れから、まず候補曲が 30曲くらいありましたでしょ。それをまず覚えなきゃいけない、覚えてワンコーラスでも歌わなきゃいけないので、まずそれを覚えなきゃいけないのが去年の暮れからずっとあって、それで、今度、絞り込んで 10曲になった。今度、それをちゃんと 1曲ずつ掘り下げて聴いて覚えなきゃいけないっていう作業があって、それと同時に、テレビで他の方の歌を歌わなきゃいけないとかって、覚えなきゃいけないみたいなものもある……。

 

坂本: ずっとそういうのが、去年の暮れぐらいから続いてますんで……、まだもうちょっと残ってるんですよ、来週くらいまで。なので、それが終わって、やっと何も覚えるものがないとなったら、余裕を持っていろんなものが聴けるかなと思うんですが……。まあ、ありがたいことに、次から次へと課題を与えてくれるので……(笑)。

 

ーー たとえば、先日放送された NHK『新・BS日本のうた』(2024/6/16 NHK BSP4K 初回放送)の収録では、坂本冬美 は、『祝い酒』と『ほろ酔い満月』の持ち歌 2曲に加え、『浪花恋しぐれ』『道頓堀人情』『津軽海峡・冬景色』『舟唄』『時代』の 5曲に加え、ロックの難しい『タマシイレボリューション』(Superfly)まで、カバーを全 6曲も歌っている。

 

坂本: そうなんです〜。いや〜、『タマシイレボリューション』はシビレました……(笑)。

 

ーー 最後に、今後、やってみたいことを聞いた。

 

坂本: これもね〜、さほどないんですよね〜……(笑)。なんでかって言ったら、本当に、次から次へと新しいお仕事をくださったりするので、なので……。

 

坂本: やってみたいことですか……、今、ちょっとお三味線を習ってるんで……、由紀(さおり)さんじゃないですけど……、由紀(さおり)さんは、この間、パリ公演なさったそうですけど、私は、ただお稽古してるだけで、それでも、もう 5年近くなるんです。

 

坂本: 最初にお三味線を握ったきっかけは、五木(ひろし)さんの舞台で、お三味線を弾かなきゃいけないっていうことで、お三味線をいただきましてね、それで、ちょっとお稽古をしようと思って、5年ぐらい細々とやってるんです。

 

坂本: でも、上手くならない。なぜかって言ったら、何かここに目標があって、どっかで披露しなきゃいけないってことがないから。だから、この間、由紀(さおり)さんから、「何かね、そういうものを作らないと上達しないわよ」ってアドバイスをいただいて、「はい」って……(笑)。

 

坂本: でも、その勇気が……、まだそこまでのレベルでももちろんないですし、あと 5年くらいお稽古して、60代のどこかでなんとなく弾いたり、何か自然に弾けて、「弾き歌い」なんかができたらかっこいいだろうなと思います。でも、私は「五十の手習い」ですから……、52か……、なので、なかなか、これはスムーズにはいきません……(笑)。

 

 

(取材日:2024年 6月5日 / 取材・文:西山 寧)

 




 
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■ インタビュー 関連動画

 
 
 
『ブッダのように私は死んだ』(2020年)
 
 
『俺でいいのか』(2019年)
 
 
『男の火祭り』(2013年)
 
 
『おかえりがおまもり』(2011年)
 
 
『ずっとあなたが好きでした』(2010年)
 
 
『また君に恋してる』(2009年)
 
 
『アジアの海賊』(2009年)
 
 
『うりずんの頃』(2002年)
 
 
『風に立つ』(1999年)
 
 
『夜桜お七』(1994年)
 
 
『火の国の女』(1991年)
 
 
『祝い酒』(1988年)
 
 
『あばれ太鼓』(1987年、デビュー曲)