澤田知可子 & 作詞家 松井五郎、ロングインタビュー!「そこは、あえて意識的に変えました…」作詞家 松井五郎がプロデュースするアルバム『Vintage』シリーズ 第2弾『Vintage Ⅱ~時がめぐるなら』が 2023年6月28日に発売! 新たな日本語詞で生まれ変わった洋楽の名曲カバー集! 大ヒット曲『会いたい』と、その30年後を歌った新曲も収録! 何度も聴きたくなる心地よい大人のアルバム!
インタビューの最後に、読者プレゼントあり!
Sawada Chikako
澤田 知可子
Album『 Vintage Ⅱ~時がめぐるなら 』
★ 1987年『恋人と呼ばせて』で歌手デビュー!
★ 大ヒット曲『会いたい』で知られるシンガーソングライター!
★ 2022年5月に「沢田知可子」から「澤田知可子」に改名!
★ 作詞家 松井五郎がプロデュースするアルバム『Vintage』シリーズ 第2弾!
★ 洋楽の名曲に日本語詞を乗せ、新しく生まれ変わったカバー13曲!
★ 大ヒット曲『会いたい』のオーケストラ・バージョンも収録!
★『会いたい』の30年後を歌った新曲『時がめぐるなら 〜Solitude』も収録!
★ 何度も聴きたくなる心地よい大人のアルバム!
★「そこは、あえて意識的に変えました…(澤田)」〜
★「日本人の感性にフィットするような形に…(松井)」〜
■ リリース情報
■ コンサート情報
澤田知可子 Vintage Live 〜時がめぐるなら〜 福島県いわき市
開催日時: 2023年 9月10日(日)開場 14:00 / 開演 14:30
開催会場: 福島県いわき市「まちポレいわき B1プラス」
チケット: 全席自由 前売 ¥6,000(税込)※ドリンク代別途
澤田知可子 Vintage Live 〜時がめぐるなら〜 福島県伊達市
開催日時: 2023年 9月18日(月・祝)開場 14:00 / 開演 14:30
開催会場: 福島県伊達市「伊達市ふるさと会館 MDDホール」
チケット: 全席自由 前売 ¥6,000(税込)※ドリンク代別途
澤田知可子 Vintage Concert 〜時がめぐるなら〜 東京
開催日時: 2023年 10月6日(金)開場 18:00 / 開演 19:00
開催会場: 東京・有楽町「I‘M A SHOW」(アイマショウ)
チケット: 全席指定 7,000円(税込)※ドリンク代別途
<出演>
澤田知可子
清水淳(Ds/Cho)、五十棲千明(B/Cho)、長谷川友二(Gt/Cho)、伊藤ハルトシ(Gt/Vc/Cho)、小野澤篤(Key/Cho)
岸和田「むくの木ホール」開館10周年記念 澤田知可子 コンサート
開催日時: 2023年 10月29日(日)開場 14:40 / 開演 15:00
開催会場: 大阪府岸和田市「むくの木ホール」
チケット: プレミアムチケット ¥12,000(限定20名)/ 通常チケット ¥7,000
■ 澤田知可子 & 作詞家 松井五郎 スペシャル・ロングインタビュー
1960年代、日本では、洋楽ポップスの日本語カバー・ブームがあった。山下敬二郎、飯田久彦、伊東ゆかり、ダニー飯田とパラダイス・キング、坂本九、弘田三枝子、田辺靖雄、中尾ミエ……らが、漣健児、みナみカズみ(安井かずみ)、岩谷時子 らによる日本語詞で洋楽ポップスを歌い、流行歌としてヒットしていた。当時は、それらが「洋楽カバー」とは知らずに耳にしていた人もいたと思う。それくらい、自然に洋楽が聴かれていた。
その後も、ハイ・ファイ・セット『愛のフィーリング(Feelings)』(作詞:なかにし礼、1977年)、西城秀樹『YOUNG MAN (Y.M.C.A.)』(作詞:あまがいりゅうじ、1979年)、郷ひろみ『哀愁のカサブランカ(Casablanca)』(作詞:山川啓介、1982年)や『GOLDFINGER '99(Livin' la Vida Loca)』(作詞:康珍化、1999年)、麻倉未稀、葛城ユキの『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』(作詞:売野雅勇、1984年)、荻野目洋子『ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)』(作詞:篠原仁志、1985年)、森川由加里『SHOW ME』(作詞:森浩美、1987年)、Wink『愛が止まらない 〜Turn it into love〜』(作詞:及川眠子、1988年)……など、1970年代以降も、洋楽の日本語カバーが、歌謡曲というジャンルの中で数多く発表され、ヒット曲となった。
そういう「洋楽の日本語カバー」の場合、よくできているものもあれば、原曲をよく知る人たちにとっては、日本語にしたことで、聴いていて違和感を覚えることも少なくなかった。原曲とは違ったイメージになってしまったり、どうしても「ダサイ」と感じたりしてしまうものもある。
その理由は、多くの場合、日本語の言葉のリズムと響きに原因がある。
英米の歌詞の場合、その内容よりも、まず、リズミックであることが求められ、基本的には、フレーズの語尾を同じ音で終わらせるなどしてリズム感を出す「韻を踏んでいるもの」(rhyme)でなければならない。
そして、子音の多い英語をはじめとする多くの言語とは違い、日本語は、世界的にも珍しい母音だらけの言語で、「ん」以外、「あいうえお」という「母音単体」か、「かきくけこ」以下の「子音+母音」(KA、KI、KU、KE、KO)で出来ている。とにかく、やたらと、はっきりとした母音が多い。
加えて、you とか come とか rain とか、英語の場合、ひとつの音符に対してひとつのワードを乗せることができるが、日本語の場合、基本的には、ひとつの音符に対してひとつの文字しか乗せられない。
そのため、洋楽に日本語を乗せた場合、どうしても重たくなったり、リズミックでなくなったりする。
洋楽カバーだけに限らず、洋楽のポップスやロックのメロディとサウンドを真似してきた日本では、「はっぴいえんど」の 松本隆 以降、「ロックにどうやって日本語を乗せて歌うか」という課題への挑戦が始まっていった。
しかし、作詞家の 松井五郎 がプロデュースする 澤田知可子 の「洋楽の日本語カバー企画アルバム」『Vintage』シリーズは、誰もが一度は耳にしたことのあるような有名な曲が多いにも関わらず、そういう日本語詞にした時特有の違和感を全く感じさせない。
原曲のメロディが持つリズムやグルーブ感を壊さないような日本語が乗せられていて違和感がない。時には、原詞と同じ音の日本語を乗せていたり、韻を踏んでいる語尾の母音も同じにしたりと、実に繊細な工夫もされている。しかも、一度、聴いたら覚えてしまうような、キャッチーで耳に残る言葉が乗せられている。実に見事だ。
そして、それらを歌う澤田知可子のボーカルも素晴らしい。子音を意識して歌われているだけでなく、そのチカラが抜けた、まるで米国のシンガーのような倍音が豊かな太い響きの歌声で、原曲を知っていても違和感がない。いや、むしろ、原曲を意識させないような、原曲とはまた違う楽曲として聴こえてくる。
先日、2023年6月28日には、2022年3月に発売された 澤田知可子のアルバム『Vintage』に続くシリーズ 第2弾『Vintage II 〜時がめぐるなら〜』が発売された。
カーペンターズの『青春の輝き』や『雨の日と月曜日は』、オリビア・ニュートン=ジョン『そよ風の誘惑』、ビージーズ『若葉のころ』、アルバート・ハモンド『落葉のコンチェルト』などの誰もが知る名曲に加えて、ジェーン・バーキンが歌った『無造作紳士』、映画『カサブランカ』の『As Time Goes By』、ミュージカル『キス・ミー・ケイト』の『So in Love』、映画『007 カジノロワイヤル』主題歌で バート・バカラックが作曲した『恋の面影』、ヘンリー・マンシーニが作曲した映画『ひまわり』のテーマ、シャルル・トレネが歌い、その後、ジャズのスタンダードにもなった『I Wish You Love』など、洋楽の名曲に日本語詞を乗せ、新しく生まれ変わった カバー 13曲が収録されている。
プロデュースとともに、洋楽カバー全曲の日本語詞(訳詞ではなく新たな日本語詞)を作詞している 松井五郎 は、『悲しみにさよなら』(安全地帯)、『勇気100%』(光GENJI)、『逢いたくてしかたない』(郷ひろみ)、『また君に恋してる』(ビリー・バンバン、坂本冬美)など数多くのヒット曲を作詞したことで知られ、これまで、3,500曲以上の作品を手がけている。
しかし、この『Vintage』シリーズでは、「洋楽の日本語詞」には作詞家への印税が入らないため、作詞家としての収入はゼロだ。作詞家としての仕事にはならないにも関わらず、収録全曲の日本語詞を作詞し、アルバムのプロデュースをするのは、松井五郎 にとって、まさに、ライフワークとも言えるものだからだ。「お仕事」ではなく、そういう「想い」で作られているから、こういう良質なアルバムができるのだと感じる。
そして、最新アルバム『Vintage II 〜時がめぐるなら〜』には、これら洋楽の日本語カバー 13曲に加えて、2001年に「21世紀に残したい泣ける名曲」アンケートで 1位となった『会いたい』(作詞:沢ちひろ / 作曲:財津和夫)をフル・オーケストラで歌った豪華バージョンと、『会いたい』の30年後を歌った新曲『時がめぐるなら 〜Solitude』(作詞:松井五郎 / 作曲:藤澤ノリマサ)も収録されている。
『Vintage』シリーズは、単なる「洋楽のカバー集」ではなく、すべての楽曲が、松井五郎による日本語詞と、澤田知可子のボーカルで、日本語ならではの魅力を纏った新しい曲として生まれ変わっている。
この、心地よい、何度も聴きたくなるアルバムは、原曲を知らない若い人たちにも、ぜひ聴いてもらいたい。
<もくじ>
1 洋楽の日本語カバー企画『Vintage』シリーズ
〜「リクエストさせていただいたんですね…(澤田)」〜
〜「日本人の感性にフィットするような形に…(松井)」〜
2 許諾が取れなかった曲
〜「作る側の人間がそういう気持ちでやらないと…(松井)」〜
〜「まだ、ほんの序の口で…(澤田)」〜
3 豊かな響きのボーカルの心地よさ
〜「そこは、あえて意識的に変えました…(澤田)」〜
4 原詞の音やリズムを意識した歌詞
〜「意識しては作ってますね…(松井)」〜
5 大ヒット『会いたい』のその後を歌った新曲
〜「初めて月日の流れを感じさせてもらって…(澤田)」〜
〜「この歌詞で『会いたい』が歌えるんですよ…(松井)」〜
6 澤田知可子、ライフワークの「歌セラピー」
〜「感情を超えて流れた涙なんですね…(澤田)」〜
7 作詞家 松井五郎の意外な原点
〜「好きなことやってるだけなので…(松井)」〜
1 洋楽の日本語カバー企画『Vintage』シリーズ
〜「リクエストさせていただいたんですね…(澤田)」〜
〜「日本人の感性にフィットするような形に…(松井)」〜
ーー 2022年3月に発売された 澤田知可子のアルバム『Vintage』に続くシリーズ第2弾『Vintage II 〜時がめぐるなら〜』が、先日、2023年6月28日に発売された。『Vintage』シリーズは、その名の通り「ビンテージ」と言える洋楽の名曲に、作詞家の 松井五郎 が 新たに日本語詞を付け、澤田知可子 が 歌ったもので、2022年の第1弾と今回の第2弾で、全27曲の洋楽カバーが収録されている。カーペンターズ、B.J.トーマス、ギルバート・オサリバン、ジャニス・イアン、ライチャス・ブラザーズ、ベット・ミドラー、オリビア・ニュートン=ジョン、ビージーズ……らの名曲が絶妙な選曲でコンパイルされており、いずれも、日本語ならではの魅力を纏った新しい曲として生まれ変わっている。実に心地よいアルバムだ。
澤田: ありがとうございます。あの……、もともと、私も洋楽の大ファンで……、ただ、英語のコンプレックスがすごくありまして……、やっぱり、ネイティブで歌う歌手の方が、昨今、こんなに増えている中で、そういうまるでネイティブな環境になかった私のような歌手が、英語で歌って世の中に出すっていうことに対して失礼なんじゃないかと思っていて……(笑)。
澤田: でも、なんかそこを、松井(五郎)先生とちょっと話をしてるときに……、松井(五郎)先生も、以前より、カーペンターズとかに訳詞を乗せてご自身のライブ『ソングブック』とかで、いろんな方に歌ってもらってきたっていうことをお聞きして、その企画を、私のアルバムの中で……、「(松井五郎)先生の訳詞で、洋楽のカバーのアルバムを作るっていうのはいかがでしょうか」っていうことを、ちょっとリクエストさせていただいたんですね。「日本語で洋楽を歌いたい」って。
松井: 僕も、もともと、ライフワークってことじゃないですけど、やっぱりその洋楽で育ってきてる中で、日本語の訳の歌に対して、ちょっと失礼な言い方になるんだけど、「ちょっと違うな……」って違和感を感じることも多かったんです。
松井: ひとつには、意味をすごく重視して書かれてる詞がやっぱり多くて、僕ら、もちろん、英語の原詞でも聴いてるわけで、それが日本語になったときに、やっぱりその聴感上、母音であるとか子音であるとか、いろんなところが英語と日本語ってすごく変わっちゃうじゃないですか。
松井: で、それがすごく、やっぱり違和感があって、なんとか、そういうところを、その(原曲の)グループを残しながら、日本語の意味……、さらに、やっぱり日本人の感性でね、やりたかったんですよ。洋楽って、直訳すると、たとえばちょっと宗教的な意味があったりとか比喩がすごく多いので、それをそのまま直訳すると、やっぱり日本人の感性ではちょっと違和感の多い曲になるんですよね。
松井: なんかそういうのを、「もう少し日本人の感性にフィットするような形にデフォルメしたものを作りたいな」というか……、まあ「趣味で」というか、作ったりもしてたんですよね。で、たまたま、澤田(知可子)さんとそういう話になって、「あっ、だったらやろう!」ってなったんです。でも、許諾のこととか、ちょっとハードルが高いプロジェクトではあったんですけど、まあ、そこは「気持ちでやりましょう!」ということで始めたんです。
ーー 収録されているのは、いずれも有名な曲ばかりだが、日本語詞で聴いていて違和感がない。原曲の音としての言葉の響きや、そのアクセントの位置、原曲のそのメロディーの持つリズムを壊さないように、見事な日本語詞が付けられている。松井五郎にとっては、これまでの洋楽カバーでの日本語詞の中には、聴いていて不満なものもあったのだろう。
松井: 不満っていうことじゃないですけども……(笑)。やっぱり、どうせ日本語でやるんであれば、そこら辺のところっていうのは、「なるべく違和感ないように」っていうところはありましたね。(権利を持っている)(音楽)出版社とか、その(日本語詞を付けて録音するための)許諾を得るのに、先方にも、「こういうものですよ」っていうふうに、出さなきゃいけないですしね。
ーー この『Vintage』シリーズでは、現在、27曲が CD化されているが、最初から、「目指せ100曲」ということでスタートしている。
澤田: 本当に、いい曲って星の数ほどあって、100曲じゃ足りないくらい……(笑)。歌いたい楽曲がたくさんあって、でも、やっぱり 60年代の普遍的な いわゆるスタンダードナンバーをもう一度掘り起こすというか、そこから年代ごとに進んでいけたらなっていう計画は漠然とあったんです。最初の『Vintage』(2022年)の選曲なども、そういう意味では、本当に「ザ・スタンダード」な歌がたくさんあって……。ただ、今回やってみて、本当にもう大変だったのは、あの、許諾をいただくという「許諾待ち」……(笑)、そういう意味での「風待ち」みたいなね……(笑)。待っている作業が長かったような気がいたしますけど……(笑)。
ーー 洋楽カバーで、日本語詞を新たに付けての録音は、その楽曲の権利を保有する音楽出版社の許諾が必要となるが、そういう許諾を取ることは、そんなに難しいものなのだろうか?
松井: う〜ん……、あの……、もちろん、わりと早くいただける方もいるし、あと(権利を持つ)音楽出版社が複数あったりすると、それだけ時間がかかってしまったりとか……、未だに返事がないものもあったりとか……。
松井: だから、やっぱり準備ができないんですよ……。あの……、オケを作っていただくのに、作ったはいいが、結局、最終的に許諾が NG ってなったら、それ自体はポツになってしまうわけで、そういう意味も含めて最初に 100曲近く用意はして、最初の段階で 100曲ぐらいもうラインナップして、もうどんどん作っていったんですよ。
松井: それで、最初の『Vintage』(2022年)ときに、40曲くらいですかね……、40曲くらい許諾(申請)をまず出して、そのうちの十何曲かが最初の『Vintage』という形で(CDが)出て、それから、もう(CDが)リリースされた後に許諾がおりたりしたやつもでてきたので、それからまた何十曲かまたプラスして、それで、今回の『Vintage II』に繋がっていったということですね。だから、まだ返事が来てないものもあったりするんですよね……(笑)。
2 許諾が取れなかった曲
〜「作る側の人間がそういう気持ちでやらないと…(松井)」〜
〜「まだ、ほんの序の口で…(澤田)」〜
ーー 許諾が取れないかもしれないのに、松井五郎は、最初にリストアップした 100曲には全て歌詞を付けていた。
松井: そうです、100曲、もう全部付いてます。だから、ライブではできるんですよ。許諾がダメだったりとか、まだ許諾が出ていないものでも、澤田(知可子)さんがライブで歌ってくださったりとか、そういうことはやってるんですけど。
ーー 松井五郎は、詞を書くのがとにかく速いという評判だが、許諾が取れないかもしれず、CD化ができないかもしれないのに、100曲の日本語詞を書いたということだ。
松井: そう……。
澤田: すばらしいですよね〜。ホントに、まだまだ聴いていただきたい名曲がいっぱいあって、(今回の)『Vintage II 〜時がめぐるなら〜』は、まだ、ほんの序の口で……、ほっほっほっ……(笑)。
ーー その最初の100曲は、どういうふうに選曲されたのだろう?
松井: まあ、ある程度、(澤田知可子から)「こういうのやりたい」っていうリクエストをもらいましたし、僕が勝手に、「すごくいい曲なんだけど、あまり皆さんが知らないような曲」とか、そういうのも含めて僕はもうどんどん好き勝手にやらしてもらって……(笑)、澤田さんに投げて、キャッチボールしながらっていう感じですね。
ーー 逆に、どうしても入れたかったけど許諾が下りなかった曲には、どういうものがあるのだろう?
松井: ああ……、『君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)』(1967年、フランキー・ヴァリ)とかね、やっぱり、あれはダメだったんですよ。まあ、こっちの憶測ですけど、あれは、多分、ミュージカルやってて、ミュージカルの中の日本語訳っていうのがあって、そういうことも含めて多分いろいろ厳しいんじゃないかなとか。
ーー すでに、オフィシャルな日本語詞があると難しかったりするのだろうか?
松井: うん、そういうのが難しかったりとか……。
澤田: あと、『デスペラード(Desperado)』(1973年、イーグルス、『ならず者』)とかもダメでしたね。
松井: うんうん……。あとは、もう、年代的に……、最近もあんのかな……、「法定訳詞」って言うんでしたっけ? いわゆる「日本語で歌うのはこれだ」っていうのが……。わかんないけど、昔は、レコーディングする場合は、(音楽)出版社でそういうのが決まってたんですよね。で、そういうので『デスペラード(Desperado)』は、もうそういう詞が決まっていたので、それ以外はやらせてもらえないとかね。
松井: あと、『ティアーズ・イン・ヘヴン(Tears in Heaven)』(1992年、エリック・クラプトン)とかは、要するに、結構、ナーバスなデリケートな内容だから、他の国の言葉になるのが、クラプトン自身がやっぱり「なかなか、どうなのかな?」と……、それはこっちの憶測ですけどね。あと、内容自体が、結構、翻訳に近いんですけど、ダメだったりとかね。
松井: まあ、当然、ビートルズとかも、最初から書いてはいるんですけども、そこら辺は、逆に言うと、もう「ダメもと」で……(笑)。
ーー 洋楽の訳詞の場合、その訳詞を書いた人に印税は入らない。訳詞ではなく、「新たな日本語詞」を付けた場合も、それを書いた作詞家に印税が入らない。
松井: はい、これも入りません……(笑)。こんな話をしていいかわかんないですけど……(笑)、基本的に、今回、プロデュースっていう形では「お仕事」という側面はあるんですが、作詞家としての収益はゼロです……、はははは……(笑)。
ーー 日本語に訳しているわけでもなく、新たなオリジナルの歌詞を書いているのに、それらを書いた 松井五郎 には印税が入らず、不思議なことに、原曲の歌詞を書いた作詞家に印税が入る。
澤田: あの……、これって、JASRAC は、何も言ってくれないんですか?
松井: うん、法律的にはそうなっていて……、でも、逆の立場もありますからね。僕の日本語の詞を、たとえば韓国や中国の人がその国の言葉で歌う時には、結局は、僕のところに許諾が来るわけで、その場合、僕に印税が入ってくるんだから、なんかそういう意味では「WIN-WIN」……(笑)、まあ、「WIN-WIN」って言葉はちょっと意味違うけど……(笑)。
ーー もちろん、アルバム・プロデュースという意味では仕事だが、作詞家としては、全く仕事になっていない。松井五郎にとっては、ある意味、ライフワークのようなものなのだろう。
松井: うん……、だけど、やっぱり……、でも、ある意味、たとえば、(バート)バカラックと曲を作れたり、ミシェル・ルグランと曲を作れたりするわけじゃないですか。だから、そういう意味で、自分のクリエイターとしての楽しみも含めて、発見もあったりとか、あらためて、昔の曲のメロディーの良さであったりとか、やっぱり、そういう接し方をしてみて初めてわかることがあったり、自分の作詞家としての訓練にも、もちろんなったし、そういう意味でのプラス……、僕自身のメリットって言うのかな……、そういうこともあって……。
松井: だから、作詞家の印税といういわゆる本来の仕事のところでは、全然……(笑)。でも、逆に言うと、それこそ制作者、レコード会社の方から言うと、(本来は)「書き料」ってのが出るんですよ。韓国の歌なんかもそうですけど、いわゆる(歌詞の)「買い取り」ですね。
松井: でも、それだと、やっぱり「よっぽど売れないと……」ってことがあるから、レコード会社的にはやっぱりやりたがらないんですよね……、やれないというか。たとえば、10曲、20曲になると……、普通に僕がよくやってる仕事の金額で言うと、それだけで、普通にアルバム1枚の制作費になっちゃう可能性もあったりするから、なかなかレコード会社とかから、そういう話って最近はちょっと難しい。
松井: だから、やっぱり、本当に作る側の人間がそういう気持ちでやらないと、きっとこういうものは、生まれない……。
ーー まさに、そうだと思う。そういう「想い」があってやっているから、こういういいものになるのだろう。
澤田: だから、こういう取材は、(松井)五郎先生ありきなんですよ。もう、本当にそうなんですよ。私なんか、ただただラッキーで、歌わせていただける喜びをかみしめながらやらせていただいていて、なかなかこういうプロジェクトってね……。でも、(印税が入るように)法律、変わった方がいいですよね、本当に……(笑)。
3 豊かな響きのボーカルの心地よさ
〜「そこは、あえて意識的に変えました…(澤田)」〜
ーー 『Vintage』シリーズは、アレンジもいい。原曲のイメージを残しつつも、シンプルで、さりげなく、日本語詞で歌う澤田知可子の歌声が映えるアレンジになっていて、楽曲の良さが伝わるし、ちゃんと歌が聴こえる。
澤田: あ〜、ありがとうございます。
ーー 洋楽の日本語カバーのほとんどは、キーボーディストで、澤田知可子の夫でもある 小野澤 篤 がアレンジを担当している。プロデューサーとして、松井五郎がアレンジのイメージなども伝えているのだろうか?
松井: いや、もう僕は、本当に詞だけです。だから、僕も小野澤(篤)さんから上がってくるのを聴いて、「ああ、こういうふうにしたんだ」とか楽しみながら……(笑)。
ーー 原曲っぽいイメージのものもあれば、わりと違うものもある。
松井: そうですね……、まあ、もともと「こういうふうに日本語を乗せて(歌って)ほしい」っていうデモテープを僕の方で作ってたんですよ……、やっぱりちゃんと伝えなきゃいけないんで。でも、もうそれは、ほとんど本当に原曲に近かったりとか、ピアノ1本みたいな形なんで、あとはもう小野澤(篤)さんに全部おまかせっていう感じで……。
澤田: ちゃんと、(松井五郎)先生が、仮歌の入った(デモ)テープをしっかり作って送ってくださるので、洋楽に対しての言葉の乗せ方が、とても勉強になりました。
松井: で、やっぱり、スタンダードの難しいところって、やっぱり普通にやっちゃうと、そのもの原曲に近いものになり過ぎちゃうじゃないですか。だから、そこを、どういうふうに「いい意味で裏切るか」っていうのは、あったと思うんですけど、それは、本当に、僕も「できました」って上がってきたのを楽しみながら……(笑)。
ーー 原曲のアレンジと違ったものにするにしろ、奇を衒ったものにすればいいわけではない。
澤田: いや〜、ホントそうなんですよ〜。
ーー そして、何より、澤田知可子のボーカルが、なんとも心地よい。チカラが抜けていて、響きが豊かで、やわらかで優しい。声の響きが日本人ぽくなく、米英の歌手のような響きの太さを感じる。そういう安心感のある歌声で、言葉がクリアだから、歌詞の内容もよく伝わってくる。
澤田: ありがとうございます。なんか、いまさらなんですけど……、よく聴いていると、英語の歌って、そんなにみんな声量出してないんですよね。なんか、「倍音が心地良く乗っかっている」っていうニュアンスで、その声量の部分をまず 1回 洋楽で歌ってみて真似てみて、「あっ、このぐらいの声量感なんだな〜」っていう部分を日本語に少し変換していったような……。でも、そうすると、実は、相当 "引き算" だったんだっていうことに気付いたんです。
ーー その響き、倍音が豊かだから、そんなに大きな声を出さなくても声が前に出てきていて、言葉が聴こえてくる。
澤田: ああ〜、ありがとうございます。なんか、発声法でさえ、「英語で歌うものと、日本語で歌うものって、やっぱり違うんだ」っていう根本的な違いを何となく感じながら、より、その(松井五郎)先生がお書きになった歌詞が、英語に聴こえるような歌い方で……、ちょっと、そういう風にね……。
ーー たとえば、『若葉のころ』で言えば、「♪ほん"と" の こ"と"」の「と」の「T」のアクセントのように、子音のアクセントがちゃんと意識されていると感じる。そういう「T」や「K」などの子音が、意識しつつも、わざとらしくでなく、自然なアクセントで歌われている。
澤田: そうですね。「英語に聴こえるようでいて、ちゃんと目を閉じてても日本語の歌詞が入ってくる」っていうようなことは、すごく大事にしながら歌いました。今回のテーマとしては、洋楽へのリスペクトということを非常に大事しました。なので、どっちかって言うと、「日本語をガチッと伝える」ではなく、「この(原曲の)世界観を大事に残す」っていう……。
ーー でも、ちゃんと言葉が聴こえてくるし、メロディに乗せて歌われた言葉から、風景が見えてくる。
澤田: あ〜、うれしいです〜。あの……、どっちか言うと巫女のような感じで……(笑)、ふふふふ……(笑)。
ーー 言葉を語るように歌っていて、感情が入りすぎていないから聴き手に伝わる。
澤田: あ〜、そうですね〜。コンサートで歌うときの、お客様の空間が大きいところにバーンって投げかけて歌う歌と、本当に、たったひとりの方が、ひとりの時間に、どんな状況の中で聴いてるかわからないけども、このひとりの方に届ける歌って全然違うんですよね……、レコーディングのときって。なので、今回、ついついライブで歌うときの歌い慣れてしまってる声量感とかそういうものを 1回 削ぎ落として……、やっぱり、テクニック的なことなんですけど、発声法から何か変わっていくっていうか……、そこは、あえて意識的に変えました。
ーー 洋楽カバーの 13曲 全てが見事な仕上がりだが、とくに思い入れのある曲もある。
澤田: あの……、どうしても、独りよがりになってしまうんですけど……、やっぱり、カーペンターズの曲を歌ったときの喜びは、ひとしおでございました……(笑)。もう、あの「『青春の輝き』を歌えるんだ〜」って思うと……。『雨の日と月曜日は』も、ライブでは英語でカバーしたことがあったので……、本当に素晴らしいですね。
澤田: あと、楽曲的に、「なんてすごいんだろう」と思ったのは……、やっぱり難しいけれども、曲としてのクオリティの高さっていうと、バート・バカラック(『恋の面影』)の世界観っていう……、真似ができない作曲家っていうか、やっぱり独特な難しさがありました……、うん、めちゃめちゃ難しかった。
4 原詞の音やリズムを意識した歌詞
〜「意識しては作ってますね…(松井)」〜
ーー 「洋楽の名曲に、松井五郎が新たな日本語詞を付けて、澤田知可子が歌う」という『Vintage』シリーズでは、有名な曲ばかりであるにも関わらず、日本語歌詞で聴いて違和感がない。それは、詞の内容もさることながら、まず、音としての言葉の選び方、原曲のメロディや原詞の音にフィットする言葉の乗せ方が見事だからだ。日本語詞を乗せる上で、音としての言葉の選び方、そのアクセントの位置、原曲のそのメロディーの持つリズム感を壊さないように、極めて緻密な工夫がされている。
ーー たとえば、『青春の輝き』の冒頭では、「♪泣か〜ないで」の「か」には、自然にアクセントがつけやすい音の言葉が選ばれているし、サビの「♪I know I need to be in love」のあと、原曲では「♪I know」となっているところを「♪愛を」と同じ音になるように日本語を乗せている。また、たとえば、『若葉のころ』では、原曲にある「♪Chiristmas Tree」を、そのまま同じところで「そうクリスマスツリーより」となっている。いずれにしろ、原曲のリズムを崩さない音の言葉が選ばれているから心地よく聴こえる。
ーー そして、いずれの歌詞も、サビのキャッチーなメロディに、耳に残るような言葉が乗せられているのはもちろん、いずれの曲でも、歌い出しの 1行目に、フックとして、惹き付けられる印象的な言葉が置かれている。
松井: あの……、おっしゃるように、洋楽って、出だしが結構サビみたいなとこってあるじゃないですか。だから、その最初の口の形と音の響きっていうのは、まさに、おっしゃってくださったように、もう本当に「空耳」に近いぐらいの感じで……(笑)、そこから何か物語を始めていくっていう……。いわゆる訳詞、ちゃんとした「どういう内容を歌ってるか」っていうことを踏まえた上でね。
松井: ただ、英語の歌って、そんなに……、何て言うのかな……、日本語みたいに文脈はたくさんないんですよね。韓国の歌なんかもそうなんすけど、わりと同じことをず〜っと歌ってたりとか……。だから、その意味では、(日本語詞だと)ストーリーを作らなくちゃいけないので、日本語にしたときに、同じことばっかり繰り返してると、やっぱり、日本語の歌として聴くと、日本人はちょっと飽きちゃうかもしれないので、多少、その展開を考えなきゃいけなかったりとか、そういう部分はあったんですけれども……。
松井: でも、今、おっしゃってくださったように、「サビの頭」と「歌の出だし」、それと「抜け」ですね、いわゆる、その言葉の最後、「メロディの最後がどういう母音で伸ばして終わっていくか」って、そこら辺は、なるべく、その原曲と同じもの(音)にしようと思って、意識しては作ってますね。
ーー やはり、歌の出だし、1行目は、すごく考えるようだ。
松井: そうですね。
澤田: そうですよね〜、「♪時がそう言わなくても 理由のない 涙なんかない」(『雨の日と月曜日は』)とか、素晴らしいですよね〜。
ーー たとえば、シリーズ 1作目の収録曲になるが、『Raindrops Keep Fallin' on My Head』(1969年、B. J. トーマス『雨にぬれても』)の冒頭、「♪Raindrops Keep Fallin' on My Head」が、「♪なんにも したくない〜」となっているのも秀逸だ。一度、聴いたら、頭から離れない。
澤田: ね〜っ、私もすごい素敵だな〜と思って。
ーー 今回、ぜひ聞いてみたいことがあった。今作『Vintage II 〜時がめぐるなら〜』に収録されている、ジェーン・バーキンが歌ったセルジュ・ゲンスブールによる『無造作紳士(L'aquoiboniste)』(アクアボニスト)で、歌詞カードでは「♪A quoi bon」(アクアボン)(フランス語で「そんなことして何になる?」の意)となっているところが、どうしても「♪馬鹿もん」と歌われているように聴こえる。
澤田: はい……、「馬鹿もん」って歌ってます……(笑)。『無造作紳士』は、もう傑作だなと……。でも、この歌詞を見ると、おしゃれな感じで、「馬鹿もん」じゃない感じがしますけどね……(笑)。
松井: まあ、そもそもジェーン・バーキンが歌ってるあれも、「空耳」じゃないですけど、そういう風に聴こえるじゃないですか……(笑)。だから、日本語で置き換えたときに、何か面白い言葉が見つかればねって……。
ーー 音として近いもので、しかも、意味も考えられて日本語として置き換えてある。見事だ。しかし、歌詞カードには、ルビを付けた方が良いのではないだろうか?
松井: うん……、でも、まあ、そこらへんは、そういう風に聴こえてたりするってことで……(笑)。あと、なんとなく、セルジュ・ゲンスブールとジェーン・バーキンの、あの男と女、あのカップルの……、ジェーン・バーキンのなんか男感みたいな、ちょっとルーズなセルジュ・ゲンスブールが恋の相手としていた時に、なんか、「馬鹿もん」っていうのが、すごくロマンチックに聴こえるなと思って……(笑)。
澤田: ホント、素晴らしいですよね〜。
ーー そのジェーン・バーキンも、先日、2023年7月16日に亡くなった。
松井: ね〜、ジェーン・バーキンも亡くなっちゃいましたね……。
澤田: オリビア・ニュートン=ジョンもね……(2022年8月8日 死去)。
松井: なんか、みんなね……、ある意味、追悼アルバムみたいになっちゃってね……。
澤田: ね〜、偶然なんですけど。
ーー そして、洋楽カバーの場合、すでに邦題がついていて、それが有名になっているものも少なくない。そうすると、新たな日本語詞を付ける場合にも、その邦題のイメージによる制約を受ける。
松井: うん……、いや、まあ、そこらへんは……、邦題は、逆に皆さんが聴くときに、「あの曲だ」って、やっぱり、英語のタイトルより馴染みのあるものもあるんで……。ただ、『そよ風の誘惑』なんていうのは、本来の詞の意味とはちょっと違ったりするんですよ。だから、僕なんかも、あらためて直訳っていうか翻訳を見て、「ああ、こういう意味なんだな」と思いながらも、ただ、一方で、彼女(オリビア・ニュートン=ジョン)が当時歌ってた年齢であったり、『そよ風の誘惑』っていう邦題のイメージも含めて、どれくらいそこら辺をうまく日本語で、今聴いて違和感がないものにするかってのは、そのバランスを考えましたけどね。
ーー 1960年代、日本では、洋楽ポップスの日本語カバー・ブームがあった。山下敬二郎、飯田久彦、伊東ゆかり、ダニー飯田とパラダイス・キング、坂本九、弘田三枝子、田辺靖雄、中尾ミエ……らが、漣健児、みナみカズみ(安井かずみ)、岩谷時子 らによる日本語詞で洋楽ポップスを歌い、流行歌としてヒットしていた。当時は、それらが「洋楽カバー」とは知らずに耳にしていた人もいたと思う。それくらい、自然に洋楽が聴かれていた。
ーー 松井五郎と澤田知可子による『Vintage』シリーズは、その現代版のような感じもする。逆に、これほど自然で、見事に出来ているのを聴くと、これらの原曲を知らない若い人たちにも聴いてほしいと思ってしまう。1960年代と同様に、たとえば、『そよ風の誘惑』のサビの後半「♪あなたならきっと 幸せになれる まだなにも 遅くない」などのように、英語で聴くよりも、ずっと自然に体に入ってくるように思う。
松井: そうですね……。
澤田: うんうん……。
5 大ヒット『会いたい』のその後を歌った新曲
〜「初めて月日の流れを感じさせてもらって…(澤田)」〜
〜「この歌詞で『会いたい』が歌えるんですよ…(松井)」〜
ーー 『Vintage』シリーズ 2作目となる今作『Vintage II 〜時がめぐるなら〜』には、澤田知可子の大ヒット曲『会いたい』(作詞:沢ちひろ / 作曲:財津和夫)のオーケストラ・バージョンと、その『会いたい』のその後、30年後のヒロインの姿を描いた新曲『時がめぐるなら 〜Solitude』(作詞:松井五郎 / 作曲:藤澤ノリマサ)のオリジナル曲 2曲も収録されている。
ーー 『会いたい』のオーケストラ・バージョン『会いたい 〜2001 ストリングス・バージョン』は、2001年に発売されたアルバム『Rhapsody』に収録されていたもので、フルオーケストラとの呼吸するような歌唱が印象的な豪華なものになっている。
澤田: ありがとうございます。この時は、2001年に「21世紀に残したい泣ける名曲」というアンケートで『会いたい』が 1位になったっていうことで、「記念にストリングスバージョンを録ろうか」っていうことになって、千住 明 さんがアレンジしてくださって、フルオーケストラでレコーディングさせていただいたんです。
ーー 後半のサビでは、演奏がなくなり、歌だけになる箇所がある。カラオケだけを先に録音し、そこに後から歌を入れるという一般的なレコーディング方法とは違い、オーケストラと一緒に歌って録音されている。
澤田: そうですね、同録です。本当に素敵なアレンジで……。アカペラになるところは、千住 明 さんがずっと待っててくれて、その間は、(ガイドのクリックとか、ガイドのピアノとかも)何もないです。
ーー だから、ジャストのリズムとは違う、自然なリズムの心地よさがある。
澤田: そうですね……。でも、だから、なかなかカラオケを使えないっていう……、はははは……(笑)。
ーー そして、その『会いたい』のアンサーソングとも言える『時がめぐるなら 〜Solitude』は、もともとは、藤澤ノリマサとのデュエット・バージョン『時がめぐるなら…』として、2020年11月26日にリリースされた配信アルバム『会縁奇縁 涙曜日』に収録されているが、今回のアルバムでは、『時がめぐるなら 〜Solitude』として、澤田知可子がソロで歌っている。
澤田: はい、そうですね。2020年ころ、松井(五郎)先生と久しぶりにお会いさせていただいたときに、「『会いたい』から、実は30周年なんです」っていうご挨拶の中で、「30年前の『会いたい』のヒロインどうしてるかね?」っていう話の流れで、この『時がめぐるなら…』が生まれたんです。
澤田: で、(作曲した)藤澤ノリマサくんに、(松井五郎)先生から歌詞が送られて、(藤澤)ノリマサくんがメロディを後から付けたんですけど、完成したときに、(松井五郎)先生が、からくりとして、「実は、これ、『会いたい』のメロディーに歌詞を乗せたんだけど、ノリちゃんには言ってなかったからね」って。
ーー 『会いたい』の 30年後を描いた『時がめぐるなら…』は、なんと、『会いたい』のメロディに乗せて作られた歌詞だった。
松井: そうそう、だから、この歌詞で『会いたい』が歌えるんですよ。逆も歌えるんですよ。まあ、そういう整合性というか、この二つの歌の何か意味合いみたいなもの……。
澤田: もうホント素晴らしくて、私もそれ聞いた時に、「え〜っ! そうだったんだ〜!」っていう……。でも、ノリちゃん(藤澤ノリマサ)も、いいメロディーをちゃんと乗せてくださって。
ーー 『時がめぐるなら…』は、きれいなメロディの王道バラードで、サビの王道のコード進行も気持ちいいが、メロディの譜わりが難しい曲だ。
松井: そうそう。もともと、『会いたい』に合わせて書いてるから、(メロディが)書きやすい詞にはなってないんですよ。だから(メロディを)つけるの難しかったと思いますね。
澤田: でも、(藤澤)ノリマサくんが、「松井先生に初めて褒めてもらいました!」って感動してました……(笑)。
ーー 今回のアルバム収録バージョンは、タイトルの『…』が『〜Solitude』となっていて、澤田知可子がソロで歌っているが、歌詞は変わっていない。
松井: あっ……、あの、ちょっとだけ足りないんですけどね。サイズっていうか、デュエット部分で(藤澤)ノリマサが歌っているところが、詞的には澤田(知可子)さんが歌いにくいと言うか、展開的にちょっとおかしかったんで、そこだけ抜いてあるんです。だから、サイズはちょっと短いんです。その分「Solitude」っていうひとりで歌ってるっていう意味合いになってるんですね。
ーー サビの「♪ふたりはふたりのままで 一緒に見ていた海を きっとまだ見つめてる きっとただ見つめてる 時はめぐるのに」「♪ふたりがふたりのままで 一緒に見ていた海は きっとどんな未来も きっと許してくれる 時がめぐるなら」が耳に残る。
澤田: はい。なんか、『会いたい』を歌っている時は、いつも時が止まってるんですね。なんか、何年経っても、時は止まっていて、「『会いたい』っていう楽曲の出来たての頃のイメージを大事に」っていう感じだったんですけど、この『時がめぐるなら…』を歌わせていただいてから、初めて月日の流れを感じさせてもらって、なんか「あ〜、時が流れたんだ……」っていう……。何でしょう……、不思議なんですけど、この 2曲を歌いながら、時間旅行をさらに深くさせてもらった感じがしました。
ーー 2021年の12月には、この 2曲、『会いたい』と『時がめぐるなら…』をテーマにした歌と朗読で綴る物語コンサート『時がめぐるなら 〜あの頃へのラブレター』(脚本・演出:松井五郎、出演:音無美紀子 沢田知可子、音楽監督:小野澤 篤)が、埼玉で開催された。行われたのは、『Vintage』シリーズ発売前だったが、まさに『Vintage』シリーズに収録されているような洋楽の日本語カバーをフィーチャーしたコンサートだった。
松井: まあ、『会いたい』と、この『時がめぐるなら…』との時間の中で、あの歌の中には映画を見に行ったりとかいろいろあるんですけれども、いわゆる青春時代に聴いていたこういったビンテージの曲を網羅して、そこに詞の朗読を入れていって……。でも、演者は女性 2人なので、たとえば、亡くなった男の人が出てきて朗読するみたいなお話ではなくて、その亡くなった男性のお母さんから手紙が来るという出だしから始まって、歌で、何となくその頃の思い出を紡いでいくというストーリーになっていますね。
澤田: 音無美紀子さんが、昔の彼のお母さん役で朗読していただいて、で、私は、(音無)美紀子さんが、そのお母さんの立ち位置で読まれる歌詞の世界からのアンサー的な形で洋楽のカバーを歌っていくんです。
松井: 澤田さんは朗読はしないんですけども、朗読は、音無美紀子さんのひとり語りで。
澤田: すっごい、素敵な世界でした。本当は、いろんなところで、再現していきたいんですけどね。
ーー この 1公演しか行われていないのはもったいない。ぜひ見てみたい。
澤田: はい、やりたいですね〜。
6 澤田知可子、ライフワークの「歌セラピー」
〜「感情を超えて流れた涙なんですね…(澤田)」〜
ーー 1987年10月5日に、「住友林業の家」CM曲となった『恋人と呼ばせて ~Let me call your sweet heart~』(作詞:門谷憲二 / 作曲:井上大輔 / 編曲:笹路正徳)で歌手デビューした澤田知可子(当時は沢田知可子)。1990年、4枚目のアルバム『I miss you』からシングルカットされた『会いたい』(作詞:沢ちひろ / 作曲:財津和夫 / 編曲:芳野藤丸)は、オリコン・シングル・チャート 100位以内に 87週もの長期にわたってランクインするという大ヒット曲になり、翌 1991年の『第24回 全日本有線放送大賞』でグランプリを受賞し、この年の『第42回 NHK紅白歌合戦』でも歌われた。そして、2001年には、その『会いたい』が、「21世紀に残したい泣ける名曲」アンケートで 1位となった。
澤田: いや、もう、あの時は、実は、本当に自分の中でもう自信を失いかけているような時期でもあって、「でも、ちゃんと神様は拾ってくれるんだな」「神様ってちゃんといるんだな」って思ったような、救われた瞬間でした。
澤田: それは、やっぱり、「『会いたい』を超えなきゃいけない」っていう大きなプレッシャーがず〜っとあって、でも、実は、その『会いたい』を超える必要はなくて、この『会いたい』が、本当に自分の中の一部になっていけばいいんだっていう……、すごく自分の『会いたい』との向き合い方を変えさせてもらえたきっかけでしたね。
ーー 『会いたい』があまりに有名になってしまったことで、「澤田知可子と言えば『会いたい』」となってしまっているが、デビュー曲の『恋人と呼ばせて』をはじめ、1993年のシングル『幸せになろう』(作詞:沢ちひろ / 作曲:沢田知可子 / 編曲:小野沢篤)、1995年のシングルで、日本テレビ系『火曜サスペンス劇場』の主題歌にもなった『Day by day』(作詞・作曲:沢田知可子 / 編曲:小野沢篤、服部克久)、1996年のシングル『もしも涙がこぼれたら…』(作詞:沢ちひろ / 作曲:沢田知可子 / 編曲:小野沢篤)など、実は、『会いたい』と同じくらいいい曲がたくさんある。
澤田: いや〜、うれしいです。ありがとうございます。
ーー その中でも、2007年9月26日に発売された『空を見上げてごらん』(作詞:沢田知可子 / 作曲・編曲:小野沢篤)は、中越大震災後に、長岡復興応援ソングとして制作された心に響くバラードで、2016年から、日本三大花火大会と言われる『長岡まつり大花火大会』(8月2日〜3日)でも使われている。
澤田: はい、曲に合わせて、「米百俵花火・尺玉 100連発」が、いわゆるデザインされた世界で曲に合わせて バーっと 4分間あがるんですね。これは、2004年に起きた中越地震の時に、チャリティーで野外でライブをやらせていただいたんですけど、その時に、『会いたい』を歌っていたら、突然、雹(ひょう)が降ってきて、そこから何となく『会いたい』は、ここからセラピーに変わるんだなっていう何か自分の中で役割が決まったような気がして……。
澤田: で、その翌年から、もう本当に毎年のように、長岡でチャリティーでコンサートさせていただく……、そのみんなとご縁が出来上がって、2016年になったときに、長岡市の方から「澤田さん、もうこれで花火上げましょう」って言ってくださったんです。だから、やっぱり、一緒に絆を作ってきた2004年からの、あの絆のおかげで、あの花火になったんですね。
ーー 『長岡まつり大花火大会』は、その規模や美しさはもちろんのこと、もともと長岡空襲の慰霊の花火として始まったことから、鎮魂と平和の思いを重ねて見る人も少なくない。そんな花火に『空を見上げてごらん』はぴったりだ。
澤田: はい、いちおう、応援歌として歌わせてもらってきたので……、「これで花火あげなかったらおかしいよ!」って言ってくださって……。実は、その前から……、もともと、その花火大会の時に、2007年からは、いわゆる花火大会が終わってエンディングで「さあ、もうそろそろ帰る時間だよ」っていうその最後の最後の帰りの時間の歌として、『空を見上げてごらん』を流してくれてたんですね。
澤田: それも、「決まってました」じゃなくて、音響の方が、もう独断と偏見で「これをかける」って言って、ず〜っとかけていてくれていて、それがなんか自然とエンディングテーマのようになっていって、「これで上げようよ」っていうふうになっていったんですね。
ーー いい話だ。
澤田: いや、もう本当に、紅白歌合戦が決まったとき以上に嬉しかった……はははは……(笑)。
ーー そして、その 2004年の中越地震後のチャリティーコンサートで、雹(ひょう)が降ってきたことをきっかけに、現在、ライフワークになっている「歌セラピー」の活動が始まった。
澤田: 本当に、自分の中で気付かされた瞬間は、その中越地震だったんですけども、やっぱり恐怖体験をされた皆さんの前で『会いたい』を歌った時に、皆さんが流す涙っていうのは、これは『会いたい』が悲しいから泣くんではなくて、『会いたい』という歌が、自分が恐怖で傷ついているというそういう心に対して、スーッと……、なんていうんですかね、共鳴感がまた全然違うんですね。そこで、自然と感情を超えて流れた涙なんですね。
澤田:「じゃあ、この涙はなんだろう?」って思った時に、この涙をもっともっと私の歌の声の倍音とか、もっともっと涙を流すということが似合う声っていうか……、この声を使って、泣くことの開放感をもっとセラピーという形でライブで表現していこうっていうことに、2005年からなっていったんですね。
澤田: で、音楽療法とかもいろいろ勉強させてもらったりして、やはりそれは、笑うのと同じぐらいにセロトニンが出るっていうことと、とくに、歌を聴いて、たった 5分間で泣ける自分の想像力から出てくる涙こそ、実は、すごい心のデトックスだとか、そういうことが、だんだんだんだん証明されていくんですね。
澤田: 「歌セラピー」のライブでは、そういうことをお話させていただきながら、歌を聴いて、自分の時間、とくに人生の時間旅行、自分の自己肯定の旅に行くんですね。
澤田: 歌を聴いて、「悲しい思い出は、今の自分でしか許せない」っていうことを伝えながら、だから、許されたときに、ほっとしたり、抱きしめてあげたり……、それは誰かに「ごめんなさい」を言うんじゃなくて、「"ごめんなさい" って言えなかった自分を許しに行く旅」っていうような、そういうことを語りながらのライブをずっとさせてもらってきてるんです。
澤田: そうすると、皆さん、本当に開放感に溢れて「どは〜」って泣いてくれるんですね。そうすると、もう帰りはスッキリして帰ってくださって、お笑い芸人さんと同じくらい「笑うことと、泣くことの大切さは同じだよ」っていう話を伝えています。
ーー ところで、澤田知可子は、デビュー当時は、沢田知可子という表記だったが、2022年5月22日、35周年の節目の時に、現在の表記、澤田知可子に改名した。
澤田: はい、デビュー35周年を迎えたきっかけで、それまで、(プロデューサー、アレンジャー、キーボーディストで夫でもある小野澤篤と)夫婦でず〜っと二人三脚でやってきて、35周年を機に「もうちょっと地に足がついた人生を」ということで……、旧漢字に変えることによって何か重厚感が出るような……(笑)。
澤田: それと同時に、実は、この「沢」の字を「澤」に変えると、「さらに開運の名前になるよ」「だから、ぜひお名前を変えたら非常にいいんだけどな〜」っておっしゃってくださった方がいて、主人に「どう?」って相談したら、「いいじゃない!」って言ってくれたんで、なので、「35年もこの名前でやってきたし、ちょっと心機一転でいいかもね」って。
ーー 小野澤の「澤」の字でもある。
7 作詞家 松井五郎の意外な原点
〜「好きなことやってるだけなので…(松井)」〜
ーー 1981年2月に発売された「チャゲ&飛鳥(CHAGE and ASKA)」2枚目のアルバム『熱風』に 4曲の歌詞を提供したことで作詞家デビューした 松井五郎 は、その後、『悲しみにさよなら』(安全地帯)、『勇気100%』(光GENJI)、『逢いたくてしかたない』(郷ひろみ)、『また君に恋してる』(ビリー・バンバン、坂本冬美)など数多くのヒット曲を作詞していて、これまで、作詞した曲は、3,500曲以上にもなる。「松井五郎は書くのが速い」という噂は聞いたことがあるが、どうしてこんなに数多く書けるのだろう?
松井: う〜ん……、まあ……、でも、他にやることもないし……、はははは……(笑)。
ーー 詞を書くことが本当に好きなのだろう。
松井: まあ……、そうですね。まあ、考えると……、どんなものでもそうなんですけど、やっぱり、スイッチが入っちゃうんでしょうね。やっぱり、何かを聴くと「自分だったらどうする?」っていうモードに入って、それが人の曲を聴いても、洋楽を聴いても、仕事もそうですし、「こういうアーティストがいる」とか、「こういう声の人がいる」とかっていうふうになると、「自分だったらこういうのを書こう」とか、「どうしたらいいんだろう?」とかっていうようなことを、やっぱり、もう職業病かもしれないですけど、常にそういう感じになっちゃいますね。
松井: だから、もちろん、それがお仕事になる場合もあれば、もう普段から、そういうふうに何かいろんなこと考えてるっていうのはあるかもしれないですね。
ーー もともと、安全地帯、玉置浩二、光GENJI、郷ひろみ、矢沢永吉、HOUND DOG、氷室京介、工藤静香、V6、Sexy Zone ……といった、ロック、ポップス系や歌謡曲の作詞家というイメージだったが、最近では、伊藤蘭、田原俊彦、林部智史、城南海、竹島宏……ら、ポップス系の歌手はもちろん、五木ひろし、純烈、市川由紀乃、山内惠介……といった演歌・歌謡曲系の歌手の作詞も数多く手がけている。もちろん、松井五郎が「ド演歌」の歌詞を書くことはないが、最初は意外だった。
松井: そうなんですよね。まあ、形式的には、七五調のやつとかも……、こないだちょっと1回チャレンジしたやつがあるんですけど……(笑)、これから出るんですけど……。でも、それにしても、「やっぱり演歌じゃないよね」っていうのは言われますよね。
松井: そう言われるし、あと、演歌畑の人からすると、やっぱり、当然のことながら(松井五郎は)演歌の人じゃないわけですよ。だから、「何を欲しいと思って僕に声をかけてくれてるのか?」っていうのがあるから、そこはいわゆる……、ま、かといってそんなポップスやロックみたいのを歌えるわけではなく、だから、ちょうどその中間の何か新しいものをやっぱりやりたいと思う時に声をかけてくださるんだと思うんですよね。
ーー 「この曲も松井五郎!」「あの曲も松井五郎!」といったように、最近、本当によく目にする。よく、尽きないものだと思ってしまう。
松井: まあ、基本的には、詞だけではないので……、曲があり、アレンジがあり、歌う人があり、まあ、あと時代があるので、そういう要素の中で、たとえば組み合わせとして新しいものになっていけばいいんだろうなと思いますよね。
松井: なんか、自分では、もう本当に好きなことやってるだけなので……(笑)。あとはもう、その使っていただく方が、僕の何が必要かっていうか、使い方があるうちはきっとお仕事になってるんだろうし、そういう意味では、自分が飽きさえしなければ、やっぱりね、やり続けられるんだと思うんですけど。
ーー 松井五郎が作詞家としてデビューしたのは、前述のとおり、1981年の「チャゲ&飛鳥(CHAGE and ASKA)」のアルバムに提供曲だが、初めて歌詞を提供したのは、杉山清貴がアマチュア時代に組んでいた「きゅうてぃぱんちょす」というバンド(「杉山清貴&オメガトライブ」の前身)で、『乗り遅れた747』(作詞:松井五郎 / 作曲:杉山清貴)という曲だった。
松井: うん……。まあ、あれは、基本的には、当時はレコードにはなってないので。
ーー 2018年5月5日に、「杉山清貴&オメガトライブ」のデビュー35週年を記念してオリジナル・メンバーが再結集して日比谷野外音楽堂で行われたライブで、アマチュア時代「きゅうてぃぱんちょす」の楽曲も、『乗り遅れた747』を含む 4曲が披露され、ライブ盤として CD化された。
松井: あっ、そうなんですか? ああ〜、あの時に歌ったやつね。
澤田: えっ、杉山(清貴)さんですか?
松井: そうそう、あの「きゅうてぃぱんちょす」の昔のメンバーで、「きゅうてぃぱんちょす」時代の曲もやるっていうライブだったんで……、千住(明)くんも入って。
澤田: え〜っ、そうなんですか〜。
松井: 千住(明)くんも(「きゅうてぃぱんちょす」の)メンバーだったんですよ、アマチュア時代はね。
松井: その頃はね、日吉のヤマハセンターってところによく集まってて、(杉山清貴や「きゅうてぃぱんちょす」のメンバーと)顔見知りだったりしたんですけどね。で、その前の年に、僕と、「きゅうてぃぱんちょす」と、「スタレビ」(スターダスト☆レビュー)の前身のバンドが、まあ、関東代表でヤマハの「ポプコン」(ポピュラーソングコンテスト)の本選に行って、その時に、みんな仲良くなったんです。
ーー ヤマハ音楽振興会の主催で、1969年から1986年まで行われていた「ポプコン」(ヤマハポピュラーソングコンテスト)は、当時、プロへの登竜門としてよく知られており、NSP、谷山浩子、八神純子、渡辺真知子、中島みゆき、因幡晃、世良公則&ツイスト、安部恭弘、佐野元春、長渕剛、円広志、チャゲ&飛鳥……ら、多くのアーティストを輩出していた。全国の各都道府県の予選があり、その後、各地区のブロック大会を経て、静岡県掛川市「つま恋」での本選会が行われていた。
ーー 1979年10月(第18回)に行われた、この「ポプコン」の本選(決勝大会)に、「杉山清貴&オメガトライブ」の前身バンド「きゅうてぃぱんちょす」、「スターダスト☆レビュー」の前身バンド「ジプシーとアレレのレ」らとともに、松井五郎のバンド「風雅」(フーガ)も、松井五郎が作詞作曲した『ラスト・ショット』という曲で出場していた。ちなみに、この時のグランプリは、クリスタルキングの『大都会』だった。
松井: そうですね。まあ、その頃は、演奏もしてましたし、歌も歌ったりとか……。そもそも弾き語りから始まってますからね、吉田拓郎さんとか井上陽水さんのあの時代にそういうことをやりだして、「作詞・作曲、ギター弾いて歌って」みたいなことで、ライブやってたりしてましたから、10代のころは。
松井: で、僕らのバンドは解散しちゃったんですけど、その時に、僕はやることがなくて、まあ、その頃からですね、作詞みたいなことを、歌ってくれる人にプレゼンしたりとかしてて、そういう中の 1曲が、また「ポプコン」に行くことになって(『乗り遅れた747』きゅうていぱんちょす)、それがきっかけで、こういう仕事をするようになったって感じですね。
ーー 「きゅうてぃぱんちょす」は、この「ポプコン」の本選(決勝大会)に、1979年10月(第18回)、1980年5月(第19回)、1980年10月(第20回)と、3回 連続で出場していて、最後の第20回の時に、松井五郎が作詞した『乗り遅れた747』を歌った。
松井: だから、まあ、良し悪しはともかくとして……(笑)、本当に、あの曲(『乗り遅れた747』)がなければ……、だから、あれを見てくれた「チャゲアス」(CHAGE and ASKA)のプロデューサーが興味を持ってくれて、声をかけてくれたっていう意味ではね……。もう本当に綱渡りの人生みたいな……(笑)。
ーー 当時、作詞も作曲もやり、ギターを弾いて歌も歌っていて、しかも、自身のバンドで「ポプコン」の本選にも出場していたほどだったにも関わらず、若くして、作詞という道を選んだのは、向いていると感じたからなのだろうか?
松井: いや……、もう、需要と供給というか、もう、その……、さっきの「WIN - WIN」じゃないですけど……(笑)、必要とされるところが、歌がなくなり、演奏はなくなり、ギターはそれ以上……、もうエフェクターが 3つ以上増えたらもうわかんなくなっちゃう……(笑)、今みたいなボードみたいなやつはなかったからね。
松井: だけど、作曲は……、今も、そこら辺のことっていうのは、こういう仕事してる中で、曲のことも口出したりすることはあるんですよ、アレンジもそうなんですけど。
松井: だから、作詞は作詞なんですけれども、プロデュースする時なんかもそうですし、その曲の構成であったりいろんなことを……、まあ(藤澤)ノリマサくんなんかとは本当に一緒に作ったりもしてるんで、明記(クレジット)はしないですけれども、曲作りとか音作りみたいなことっていうのは一緒にやってて、まあ、作詞家の中ではうるさい方って言うか……(笑)、いろいろアイディアを持ちながらやってはいると思うんです。だから、その、今回もそうですけど、聴感上であるととか、音的な部分をちゃんと気にしながら書いているというか。
ーー メロディのことがちゃんとわかっているから、『Vintage』シリーズのような歌詞が書けるのだろう。
澤田: うん、そう思います〜。
ーー 曲を書いてみようとは思わないのだろうか?
松井: いや、打ち込みもやりますし、別にその仕事としてじゃなくて……。あと、朗読なんかやってる時にバックで流す曲を作ったりとか、仕事とは違うところで、やったりはしてます。
ーー 最後に、そんな松井五郎がすごいと思う作詞家を聞いてみた。
松井: いや、やっぱり、みなさんスゴイですよ……(笑)、自分以外の人はみんな……(笑)。
澤田: でも、松井さんは、一筋縄じゃいかないアーティストともいっぱいお仕事されてますから……はははは……(笑)。
松井: 戦国武将みたいな人たちばっかだったんで……(笑)、もう「どうする家康」じゃなくて「どうする松井五郎」みたいな……(笑)。
澤田: それだけで本が書けそうですね。
松井: もう、みんな信長みたいなね……、はははは……(笑)。もう心境的には、僕、真田幸村みたいな気持ちでいつもやってる……、はははは……(笑)。
(取材日:2023年7月31日 / 取材・文:西山 寧)
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