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和楽器バンド ライヴレポート

和楽器バンド ライヴレポート

【和楽器バンド ライヴレポート】 『ボカロ三昧2 大演奏会』 2022年9月14日 at 中野サンプラザ

2022年09月14日@中野サンプラザ

撮影:上溝恭香/取材:村上孝之

2022.09.21

2014年4月にボカロ曲のカバーアルバム『ボカロ三昧』で衝撃的なデビューを果たした和楽器バンド。箏、津軽三味線、尺八、和太鼓をフィーチャーした独自の音楽性は大きな注目を集め、以降国内はもとより世界を舞台に活動を行っている。そんな彼らは8人編成ということもあり“8”という数字にこだわりを持っていて、デビュー8周年を迎えた今年、自分たちの原点とも言えるボカロ・カバーアルバム第二弾『ボカロ三昧2』をリリースした。カバーアルバムでありながらも最新の和楽器バンドの魅力を堪能できる同作はリリースと同時に多数のリスナーを虜にし、高い評価を得ている。

そして、彼らは8月から『ボカロ三昧2』を携えた全国ツアーをスタートさせた。パンデミックが収束しない中で“全23本に及ぶホールツアー”という大規模なツアーを行なえる彼らの動員力には圧倒されずにいられない。9月14日に中野サンプラザにて開催された東京公演も場内は幅広い層の観客でびっしりと埋まり、多くのリスナーが彼らのライヴを待ち望んでいたことを感じさせる中でのステージとなった。

実際のところ和楽器バンドのライヴは本当に魅力的で、今回も“おおっ!”と思わされるシーンの連続だった。彼らのパフォーマンスの魅力として真っ先に挙げられるのが、サウンドの上質さだ。群を抜いたピッチの良さが光る鈴華ゆう子のヴォーカルや和太鼓とドラムが組み合わさることで生まれる豊かなローエンド、テイストの異なる楽器群が奏でる立体的かつ多彩な音像などが相まった彼らのサウンドは本当に心地いい。緻密に作り込まれたスタジオ音源とはひと味異なる生々しさも含めて、和楽器バンドのライヴサウンドは何度も味わいたくなる力を持っている。

プレイの観どころも満載だった。まずは、ヴォーカル。鈴華がインタビューなどでも語っているように、ボカロ曲のメロディーは基本的に“高音、高速、跳躍”で成り立っており、彼女は『ボカロ三昧2』では通常より4~5度高いキーで歌っている曲が多いという。つまり、非常に難易度が高いというわけだ。だが、鈴華はライヴでも“ギリギリ感”のようなものはまったく感じさせることなく、艶っぽさや温かみなどを湛えた美声を全編で披露。和感を押し出した楽曲の詩吟を活かした歌唱の素晴らしさも含めて、シンガーとしてのポテンシャルの高さを存分に発揮していた。

楽器陣も充実していて、クリーントーンで超絶的な速弾きやタッピングなどを行なうリードプレイと、ほぼコードは弾かないバッキングの取り合わせという独創性が印象的な町屋のギター。パーカッシブなプレイやテクニカルなリフなど、三味線のイメージを覆す演奏を織りなす蜷川べに。箏ならではの雅やかな音色からトリッキーなアプローチまでこなす、いぶくろ聖志。いぶし銀の尺八の音はもとより、リコーダーやシンセサイザーなどを思わせる幅広いニュアンスを聴かせる神永大輔。それぞれの楽曲に合わせて、うねりやドライブ感、しなやかさ等々、細やかにグルーブを使い分ける亜沙のベース。タイトなビートやテクニカルなフィルワーク、絶妙のダイナミクスなどを活かしたドラミングを展開する山葵。和太鼓ならではの圧のある音色とモダンなリズムセンスを融合させたアプローチが光る黒流。
ハイレベルなプレイの応酬だったし、楽器の数が多いにも拘わらずサウンドが常にタイトで、なおかつ総ての楽器がクリアーに聴こえるというアンサンブルの正確さも見事なものだった。和楽器バンドのライヴはプレイを目当てに来場するリスナーも多いというが、今回も大いに満足できただろう。

そんなテクニカル集団でいながら、メンバー全員がアツいステージングを見せることも和楽器バンドの魅力と言える。『ボカロ三昧2』ではそれぞれが新しいことに挑戦した結果、これまでにないほど演奏の難易度が高まり、鈴華曰く“みんな限界ギリギリのところで演奏している”とのことだが、それは微塵も感じさせなかった。むしろ全員が楽しんで演奏していることが伝わってきたし、ライヴ後半ではメンバー全員がステージに散ってフィジカルにパフォーマンスする姿を披露。気持ちを駆り立てるステージにオーディエンスのボルテージも高まり、場内は盛大に盛り上がった。

最後になってしまったが、楽曲の良も注目だ。“今回のツアーは『ボカロ三昧2』に収録された曲が核になっているわけだから、曲がいいのは当たり前でしょう”と思う人もいるかもしれない。そうとも言えるが、彼らの選曲センスや秀でたアレンジ力が奏功して、魅力的な楽曲が並んだセットリストになっていることは間違いない。原曲に対するリスペクトを感じさせつつ和楽器バンドの音楽へと昇華しているところも今回のツアーの観どころである。そして、ボカロという観点から和楽器バンドを知った方には、ぜひ彼らのオリジナル曲も聴いてみてほしい。彼らが上質な楽曲を数多く生み出していることが、分かってもらえるはずだ。

今回のライヴでも和楽器バンドはハイクオリティーな楽曲と演奏、華やかなパフォーマンスなどが折り重なって生まれる魅惑的な世界を、たっぷりと味わせてくれた。ここ数年で和楽器バンドと出会いつつパンデミックの影響などでまだ彼らのライヴを生で観たことがないという方には、今回のツアーで体感することを強くお勧めしたい。彼らがトップクラスのライヴバンドであることに加えて、“和楽器”という言葉から受けるアカデミックなイメージとは異なり、アツさや激しさ、猥雑さなどを持ったスリリングなロックバンドだということに気づいて、より深く魅了されるに違いない。『ボカロ三昧2』の制作と今回のツアーを経て和楽器バンドがさらなる高みに登ることを感じさせたこともあり、今後の彼も本当に楽しみだ。

撮影:上溝恭香/取材:村上孝之

※現在ツアー中のため、セットリストの公表を控えさせていただきます。

和楽器バンド

ワガッキバンド:詩吟、和楽器とロックバンドを融合させた新感覚ロックエンタテインメントバンド。2014年4月にアルバム『ボカロ三昧』でデビュー。15年に発売した2ndアルバム『八奏絵巻』はオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、翌16年にはデビュー1年9カ月にして初の日本武道館公演、北米単独ツアーを開催し、ワールドワイドに展開。さらに19年にはさいたまスーパーアリーナ2デイズ公演を成功させ、よりワールドワイドな活動を本格的に始動させ、世界最大のレコード会社ユニバーサルミュージックとグローバルパートナーシップ契約を締結。今、日本のみならず世界中から注目を集めるアーティストである。

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