LIVE REPORT

LAID BACK OCEAN ライヴレポート

LAID BACK OCEAN ライヴレポート

【LAID BACK OCEAN ライヴレポート】 『LAID BACK OCEAN 「音楽と旅人」』 2021年10月8日 at 品川プリンスホテル ステラボール

2021年10月08日@

撮影:Yusuke Sato/取材:帆苅智之

2021.10.14

ライヴを観ている間、肯定と否定の感情が交互に頭の中を巡った。簡単に言えばそれは“解散は仕方がない”と考える諦念にも近い気持ちと、理由はいろいろあるにしても“解散を選ばなくても...”という気持ちで、後者は否定というよりも懇願に近いものだったかもしれない。そもそも当事者が活動を止めることを決めたのであれば、こちら側にそれを止める権利も術もない。放っておいても止めてしまうわけで、何をしたってどうにもならない。その意味で“諦念にも近い”と言ったのだけど、LAID BACK OCEANの場合、それだけでなく、バンドの生い立ちを考えると、実は労りや犒いの想いが沸いてくる。“称賛”と言ってしまうとかなり語弊があるように思われる人もいるかもしれないが、誤解を恐れずに言えば、今回の解散を褒め称えたいくらいの想いもある。

というのも、LAID BACK OCEAN はYAFUMI(Vo)、KAZUKI(Gu)が在籍していたバンドの解散によって結成されたという経緯があるからで、あの時は解散ライヴができる状況ではなかった。突然の幕切れで、演者もファンも本当に諦めるしかなかったのである。それを思えば、コロナ禍でライヴもままならない中ではあるが、有観客ライヴでフィナーレを迎えることができたというのは、バンドにとってはベターなシチュエーションではあったと思う。最期をしっかりと看取ってもらえるのだから。

結成10周年記念作品と言ってもいいベストアルバム『色+色』を、今年2月に発表していたことも解散のひとつのきっかけではなかったかと考える。ベスト盤であるがゆえにこれまで発表してきた楽曲を集約したものである。ひと区切りがついたと考えるのは当然として、『色+色』に新曲「COLOR COLOR」と未発表曲「pray_music」が収められたことも、今になって思えば意味深だ。YAFUMIは“俺はできるだけ繊細な歌が歌いたくなってるんですよ”と語っていた。それをそのまま、彼がバンドという表現手段に飽き足らなくなってきた...と結論づけるのは短絡的すぎる話だろうが、結成当初からピアノ奏者をバンドに迎え、デジタルもヒップホップも意欲的に取り込んできた、言わば“増し増し”だったLAID BACK OCEANがひとつの成熟を迎えたタイミングではあったという見方はできる。

また、彼らが再生産を善しとしないバンドであることは、従来のパッケージにとらわれないCDをリリースする“RE:SOUZOU PROJECT”を推進してきたことからも明白だ。今後も音源制作→ライヴツアーを単純に繰り返すという選択肢は端からなかったのだろう。そのプロジェクトのファイナルにおいて解散を発表したのは如何にも現代アートらしい美しい流れではあるし、バンドの解散劇としては相当に美しい大団円である。

だが、しかし──。詮なきことではあると知りつつ思う。この日の演奏を観て何度“もったいない”と思ったことだろう。オープニングナンバー、M1「7Up」~M2「DEFY」からこのバンドの特徴がはっきりと炸裂していた。ヴォーカルを含めた5つ個性的な音の競演と融合。KAZUKIのエッジーかつキャッチーなギターリフ。正確にビートを刻みながら時折シャープな響きを聴かせるSEIJI(Dr)のドラム。5弦ならではと言える幅広い音域を流麗に奏でるSHOUYA(Ba)のベース。SYUTO(Pf)のピアノは時にポップに時にクラシカルに、独自のメロディーで楽曲を彩る。そして、柔らかくも落ち着いた声域を司りながら主旋律を歌うYAFUMI。イントロからAメロ、Bメロにかけてはそれらが各々のプレイを堅持して折り重なりながらも、サビで全てが結集し、ラウドに昇華していく。

かと思えば、M3「NO NO BOY」ではファンキーにフロアーを揺らし、M4「TOILET REVOLUTION」やM5「The Fever」ではパンクマナーに則ったビートでグイグイと迫る。しかも、単調ではなく、そこにグルービーなうねりがちゃんとある。また、ミドル~スローのM10「透明人間」やM12「しんぱいきのう」では、聴き手に言葉がしっかりと伝わるような配慮だろうか。YAFUMIの歌を中心に他のメンバーはその歌をしっかりと支えるような演奏を心がけているようだ。いや、ミドル~スローに限らず、YAFUMI以外のメンバーがヴォーカルラインを口ずさむ光景が随所で見受けられたことからすると、メンバー間の楽曲の共有度が相当に高いことも容易に想像がつく。バラエティーに富んだ楽曲を持つバンドと言ってしまえば簡単だが、それを可能にする多彩な表現力を持ったバンドであったことも間違いない。そして、それはこの5人だからこそ発散でき、紡ぐことができるものでもあったのだろう。無駄な思考だと理解していても、やはり“もったいない”ばかりが頭の中を巡った。

ステージ演出も見事だった。M4「TOILET REVOLUTION」でステージ中央に用意された便器に座してYAFUMIが歌ったのも面白かったし、《この本はすごく面白いけど/もうこれ以上この先を読む事はないだろう》という歌詞に合わせたと思われる、M20「SHINE」で本のページを破くパフォーマンスも興味深かった。何と言っても、ライヴ途中で用意されたパフュームの匂いを嗅いてこの瞬間の記憶を脳に定着させる(という意図だったのだろう)“RE:SOUZOU PROJECT FINAL”の一環として行なわれたギミックは、このバンドならではのものであり、筆者にとっても忘れ得ぬ体験になったと思う。

そんな中、個人的にもっとも印象的だったのはライティングの美しさだ。ビビッドにシャープにステージと客席を照らし、かなり視覚に訴える代物だった。M19「Million」でのミラーボールはベタと言えばベタだったし、もしかするとロックバンドの演出として“?”と思った人がいたかもしれないけれども、何をどう言われようが、《Say the Word I have created another one/ただ見渡す限りまばゆい星が/Say the Word 物語の向こうには/可能性がいつも Million》の歌詞と相俟って正直言ってかなりグッときた。LAID BACK OCEANの解散ライヴの光景として自分の記憶に綴られていくのだろう。

アンコールのMCでメンバーひとりひとりが心境を語った。SYUTOが“もっとできると思っていた”と言ったことや、SHOUYAが落涙で言葉が出てこなかった様子から察するに、決して全員が100パーセント納得ずくの解散ではなかったようではある。SEIJIは“YAFUMIが歌う限り後ろで叩き続ける”と伝えていたことを明かし、KAZUKIはYAFUMIを指して“最後まで掻き回しやがって”と苦笑っていた。メンバーもまた、この日、演奏していくうちに、このアンサンブルがこれで最後になってしまうことが惜しくなったのかもしれない。最後はEN3「明日からの旅」と何とも暗示的なタイトルの楽曲でLAID BACK OCEANは終焉した。

YAFUMIは終始、変に表情を崩すことなく、みんなに感謝の言葉を述べながらも、凛とステージに立ち続けていたことが思い出される。どこか清々しくも感じられた。やりきったという想いがあったのかもしれない。もしかすると、やり尽くしたとLAID BACK OCEANの10年間に想いを馳せたのかもしれないと思ったりもする。あれから数日が経ち、こうして原稿を書いている今も、大団円だったと思う気持ちと、手前勝手なモヤモヤが同居している。リユニオンを望まないではないが、それは早計すぎるほどに早計だ。月並みな物言いになるが、今後を見守るしかない。願わくば、事態が動いた時にはまたYAFUMIと話しをしたいし、その時には2021年の顛末も訊けたらとは思う。

撮影:Yusuke Sato/取材:帆苅智之

LAID BACK OCEAN

レイド・バック・オーシャン:2010年12月活動をスタート。ピアノ、ギターサウンド、プログラミングを駆使し、攻撃的なロックや繊細なアレンジのミッドテンポやバラードを鮮やかなコントラストで鳴らす5 人組ロックバンド。幾度かのメンバーチェンジを経て、SYUTO(Pf)、SHOUYA(Ba)が加わり現体制となる。また、YAFUMI(Vo)は役者、モデル、文化人とのトークイベントへの出演など幅広い分野での活動を行なっており、マルチな才能を発揮。KAZUKI(Gu)をはじめ、他メンバーも他アーティストのレコーディングやライヴのサポートとして参加。

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