恋の『喜び』と『痛み』を歌った全30曲入りコンセプトアルバム!

 2023年2月4日に“SHISHAMO”がCD デビュー10周年を記念したコンセプトアルバム『恋を知っているすべてのあなたへ』をリリースしました。今作には、10年間の楽曲を網羅しできあがった“恋愛網羅図”から、恋の『喜び』と『痛み』を歌った全30曲が収録されております。今回は、宮崎朝子(Gt.&Vo.)にインタビューを敢行。根本に「自分のことをあまり歌にしたくない」という想いがあるからこそ、生まれた数々のラブソング。その物語や主人公たちはどのように描かれたのか。『喜び』と『痛み』の主人公たちにはそれぞれ何か共通点はあるのか。歌詞へのこだわりもたっぷりお伺いしました。CDデビュー10周年というアニバーサリーに、改めてSHISHAMOのラブソングをご堪能ください…!
(取材・文 / 井出美緒)
恋する -10YEARS THANK YOU-作詞・作曲:宮崎朝子悪ふざけでもいいから 一度私のこの手を握って
「友達だなんて思ったことはない」とか言って見せてよ
一瞬でいいから
私のこと女の子だと思って接してみてよ
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ラブソングではない歌詞を書くほうがずっと難しい。

―― 宮崎さんが最初に音楽に心を動かされた記憶というと何が思い浮かびますか?

最初かぁ…。うちのお父さんが音楽の仕事をやっているので、その影響で私も姉も楽器を始めたんですね。小さい頃には一緒に仕事場に行ったりもしていて。だから何かきっかけがあってというより、生活のなかに音楽があって、自然と好きになっていった気がします。

私の記憶では歌も、幼稚園の頃から好きで。お母さんによると、ベビーカーに乗っていた頃からずっと歌っていたって(笑)。それぐらいずっと好きだったんですけど、「プロになってやっていくぞ!」みたいなことを幼い頃から考えていたわけでもないんですよね。

―― 「音楽で食べていきたい」と思い始めたのは、高校でSHISHAMOを結成してからでしょうか。

最初は「楽しい」だけでした。私はコピーバンドをやりたくて、高校の軽音楽部で結成したんですけど、部活動と同じ感覚というか。自然と高校を卒業したら引退だと思っていて。ただ、あるときに顧問の先生がみんなに、「オリジナル曲を1曲は作ったほうがいい」と言ったんです。それで初めてSHISHAMOの「宿題が終わらない」という曲ができて。そこから曲作りを始め、運よくお声をかけていただいたりして、気づいたら音楽の道に進むことになっていましたね。

―― ちなみに初めてオリジナル曲を作る前は、詩や歌詞のようなものを書いたりはしていませんでしたか?

いや、なかったです。今でも言葉を綴るのは、歌詞を書くためでしかないですね。だから自分の気持ちを言語化したいとか、それが得意かとか、考えたこともなかったです。

―― 完全に未経験のなか、最初の「宿題が終わらない」の歌詞はどのように生み出したのですか?

知り合いのライブを観に行ったとき、自分たちより1個下ぐらいの女の子がオリジナル曲を演奏していたんですよ。その姿を観たとき、「私たちもできるんじゃないか」と思って。そのライブハウスですぐ歌詞を書き始めて、帰りの電車でも書き続けて、次の日にはもう曲ができあがっていました。本当に何も考えずに書いたんだと思います(笑)。

その当時から今まで、ずっとSHISHAMOは詞先で曲を作っていますね。あと、自分のことを書くのは恥ずかしいという気持ちもすごく強くて。その恥ずかしさがきっかけで、自分ではない主人公を作って、架空のお話を書いていくというSHISHAMOのラブソングのスタイルができあがった気がします。

―― 歌詞面で影響を受けたアーティストはいますか?

BUMP OF CHICKENさんです。小学生くらいからめちゃくちゃ聴いていましたね。物語性があってストーリーとしてあんなに成り立っている歌詞ってあまり他にないなと。なので自分がおもしろい歌詞を書きたいと思ったとき、自然とそういう形になっていきました。

―― たしかに宮崎さんの書く歌詞も、1曲のなかに起承転結があるものが多いですよね。

photo_01です。

はい。歌詞を書くときいちばん強いのが、「聴いてくれるひとにおもしろいと感じてほしい」という想いなんですよ。だから短編の漫画のような歌詞になるように意識していて。曲が進むにつれ、「え!こうなっちゃったの!?」って裏切るような展開になるものも好きですね。

―― 君の大事にしてるもの」で結果的にレスポールを投げちゃうシーンも好きです。

私も好きです(笑)。この曲の歌詞を書き始めたときには、まさかレスポールを投げることになるとは思っていませんでした。だから私が物語を生み出していくというより、作った主人公が曲のなかで自由に動いていく感覚というか。その結果、投げちゃった。実体験ではないからこそ、予測がつかなかったり、言葉どおりの気持ちじゃなかったり。そういう部分を考えながら書いていくのが楽しいんですよね。

―― ご自身の歌詞が聴き手にちゃんと届いた実感があったタイミングというと?

この曲で、というより、本当にじわじわと、ですね。SNSで「自分のことを見られているのかと思った」と言ってくれる子がいたり。私は歌詞を書くとき、「できるだけ多くのひとに自分の曲だと感じてほしい」とは思わないんですよ。そうすると抽象的な内容になってしまうので。「この心情がわかるひとにだけ届いたらいい」という気持ちで、限定されたシチュエーションを具体的に描く。そうしたら1曲ぐらいは、「まさに自分のことだ!」って思えるような曲を見つけてもらえるんじゃないかなと思っています。

―― 10年以上ラブソングを書き続けているなかで、「今は恋を描きたい気分じゃないな…」というスランプに陥ったことはありませんか?

それがラブソングに関してはないんですよ。逆にラブソングではない歌詞を書くほうがずっと難しい。苦戦しなかったことがないかも(笑)。

私自身、恋愛というテーマがすごく好きで。曲だけじゃなくて、漫画とか映画とか小説とか全部。だから常に楽しくいくらでも物語は思いつくんです。ただそれ以外となると、自分のメッセージ性が入ってきちゃうというか。基本的には自分の想いをあまり曲にしたくないタイプなので、そことのバランスがすごく難しいですね。

―― 自分の想いが入ってしまうと主人公が濁ってしまうような感覚なのでしょうか。

それに近いです。思いっきり自分になっちゃうのが嫌で。ラブソング以外の歌で、自分じゃない主人公と物語を作るという作業も、もう少し楽しめるようになりたいですね。

―― 物語や主人公、相手のイメージは作詞のどの段階で見えるものなのでしょうか。

歌詞のスタートによって見えるタイミングは違いますね。まず、ふわっと書き始めることはあまりなくて。先に主人公の像を決める場合。ふたりの関係性を決める場合。シチュエーションを決める場合。あと、気持ちを主人公にする場合。そういう主人公の核になりそうなものを何かしら最初に決めてから書くという感じです。

―― 年齢や経験を重ねるにつれ、歌詞面で変化を感じるところはありますか?

意識してというより、自然と変わっている部分が多いですね。とくにラブソングはわかりやすいと思います。徐々に恋愛の仕方が変わるから。やっぱり10代~20代前半は、相手に憧れたりカッコいいと思ったりする気持ちを描いた歌詞が多かったんですよ。それが年齢を重ねるにつれ、母性というか、愛みたいなものというか、もう少し大きい想いが芽生えているようなラブソングも書けるようになっていて。自分にとっての恋そのものが変わっているんだろうなと。

―― たとえば『恋の喜びを知っているあなたへ』の「君と夏フェス」や「好き好き!」は若さゆえの勢いや眩しさがありますよね。一方で、「キスをちょうだい」「あなたと私の間柄」「天使みたい」はちょっとアダルトな流れでこれもまた好きです。

アルバムで言うと『SHISHAMO 6』あたりから明らかに変わってきた感じがありますね。この時期って自分だけじゃなくて、年齢的にまわりも結婚したとか、子どもが生まれたとか、そういう変化が多かったんですよ。私の歌詞は実体験ではないけれど、いつでも等身大では書いているので、そこが自然と反映されていったのかなと思いますね。

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