向き合った時間は無駄じゃない。あなたの生きる季節に寄り添う全5曲!

 2020年10月28日に“the shes gone”が3rd mini album『FACE』をリリースしました。今作には、通販先行シングル「春の中に」を含む全5曲が収録。インタビューでは、兼丸(Vo&Gt)にその新曲についてじっくり語っていただきました。常に劣等感が強く、歌詞を褒められても素直に喜べない、自分には「頑張れ」も「大丈夫」も似合わないという彼。しかし、そんな自分だからこそ築ける主人公像、伝えられるメッセージとは…。是非、歌詞と併せて受け取ってください!

(取材・文 / 井出美緒)
Orange作詞・作曲:兼丸そういえば 今着てる服のブランドも 君に教えてもらったんじゃないか君との思い出がぼやけて霞んでいる
悲しかった日々に混ざる気持ちも忘れ失くす前に
そばにいる人はもう今は君じゃないけど
大切にしたいと思える僕がいるのは
君とのきっと 日々があるからだ ありがとう
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届いてなくてもいいどころか、届くわけないと思っているんです。

―― 先日、兼丸さんが「人より劣っているという意識はいつまで続くんでしょう」とツイートなさっていたのが印象的でした。1stミニアルバム『DAYS』リリースの際にもご自身の抱く劣等感について触れられていましたよね。

小さい頃から「なんでみんなと違うんだろう」「なんで自分にはできないんだろう」という気持ちが根本にあるんですよね。たとえば、小中高の頃って球技ができる子のほうがモテたりするじゃないですか。でも僕はそれが苦手だったし、他に何ひとつ自慢できるものがなくて。あとわりと厳しい家庭だったので、携帯もゲームもなかなか買ってもらえず、それによって話についていけなかったり、話せる共通項が狭くなってしまったりという背景もありました。恋愛面以外でも自分は他者とのコミュニケーションが下手という点でも、劣等感は人一倍大きいですね。

―― 他者とのコミュニケーション時間の代わりに、内省する時間が長くなっていったのかもしれませんね。

そうなんですよ。野球もバスケもできないから、小学校ぐらいまでひとりでロボット遊びをしていましたし、考える時間が多くあったと思うんですよね。その一方で、人と違う特技で「目立ちたい」という気持ちもあって。唯一、パソコンは触れれる環境にあったので好きなバンドやアーティストの曲を聴いたりして、バンドに興味を持つようになって。今となってはバンドのど真ん中で歌うようになっていって。そして、自分たちでお金を払って出演させていただいたり、お客様からお金をいただいてライブをするという機会を経て、「目立ちたい」から「誰かの為に歌いたい」という意識に変わっていった気がします。

―― 歌詞のように、自分の気持ちを言語化する術は、幼少期から思春期にかけて覚えていったのでしょうか。

photo_01です。

いや、当時は自分の気持ちを表現するツールがありませんでした。今はみんな、Instagramに写真とポエムを載せたり、Twitterに愚痴を吐き出したりできますけど、そういうものもなかったので。それが今でも自分の気持ちを言語化するのに時間がかかってしまう原因かもしれないですね。歌詞も常に「これじゃダメだ」って感覚が強くて、ひとつひとつ悩むので、気楽に書けないんですよね。だから今、言語化する術を学びつつあるという感じですね。

―― いちばん最初に歌詞を書いたのはいつ頃ですか?

中学3年生だったかなぁ。高校に入る前にやっと携帯を買ってもらえたんですけど、そのタイミングで友達と文化祭みたいな場でちょっとバンドをやってみようという流れになり。当時、YouTubeでインディーズバンドを漁っていて、興味があったんです。それで書いてみたのが初めかな…。結局、文化祭には出なかったんですけど。その頃は恋愛とか受験のことぐらいしか悩みがなかったから、そういうことを書いた気がします。日記みたいな感じでしたかね。でも、もともと日記を書くことすら自分の習慣になかったので、気持ちを言葉にするという経験はそれが初めてだったように思います。

―― the shes goneは歌詞人気も高いですが、影響を受けたアーティストというと?

いちばん大きいのはやっぱり高校の頃に好きになったback numberですね。でも、なんでback numberを好きになったのかって考えると、それ以前にも影響を受けていたアーティストはいて。それがFUNKISTというバンドです。恋愛だけでなく人間愛も描いていたり、詩というよりラップのリリックに近い表現があったり。メッセージ性が強いなと感じて、中学の頃にずっと聴いていました。メロディーとか音楽の知識はないけど、自分は歌詞にストーリー性や意味を感じるものが好きなんだなって。

それから、自分が初めて失恋したとき、改めてback numberさんのいろんな歌詞のフレーズがちゃんとわかった気がしたんですよね。同時に、歌詞って、自分で意味を込めれば込める程、相手に伝わるし、飽きがこないものになるのかなってなんとなく思って。だから自分が歌詞を書く立場になって、ノリ重視だけのもの、あまりループが多いものにはしないようにしようという意識が当初はありました。それでは聴き手に気持ちが伝わりにくいし、失礼なんじゃないかなって。そんな影響を受けている気がします。

―― 初めての失恋、というのは“the shes gone”というバンド名の由来にもなっているそうですが、バンドの方向性、歌詞面にも影響は大きかったですか?

そうですね。結成自体は、初めての彼女にフラれてから3年くらい経っているんですけど、どうしても自分のなかにある「書かなきゃやってられないぜ!」って不満や劣等感は、恋愛面のそれが大きすぎて。「なんであの金髪のチャラいやつを選ぶんだよ!」みたいな(笑)。そういう気持ちが歌詞の原点にありましたね。

ただ、別に「後悔させてやる」とか「戻ってきてほしい」ってわけではなく、自分の軸として“彼女がもう戻ってこない事実を知ったこと”が、それまでの短い人生のなかでいちばん大きなことだとも思ったんです。忘れちゃいけない、また繰り返してしまうぞ、という気持ちも歌詞を書く上で強かったですね。あとは彼氏彼女に関わらず、聴いてくれる人の身近な、大切な人がそばにいなくなってしまっても、僕らの曲はずっとそばに居続けてくれたらいいなぁって思ってました。だから、ゆくゆくは恋愛詞じゃないものも書いていきたい気持ちは、結成当初からありました。

―― 今作で3枚目のミニアルバムとなりますが、歌詞面で変化を感じるところはありますか?

そうだなぁ…。それこそ「ゆくゆくは恋愛詞じゃないものも」って気持ちがあったからこそ、今回は5曲中2曲のテーマが恋愛ではないということが、自分のなかで大きいように思います。あとは、内面的に完結していながら、<君>や<あなた>の存在がより濃くなったかもしれないですね。たとえば「春の中に」も自分のことを書いているようで、<君>に言っているような。「Orange」なんかもそうですね。

―― 何故、相手の存在が濃くなってきたのでしょうか。

良くも悪くも、前より視野が狭くなっている感じがするんですよ。特定の<あなた>があるというか、自分のなかで「こういうひとです」というイメージがわかっている。それによって<あなた>との関係性も、1stミニアルバムから比べると濃くなっているのかなと思います。あと今回に限ってはもう、その<あなた>に伝えようともしていないのかもしれません。

―― 届いてなくてもいいけど、歌うよ、ぐらいの。

そうですそうです。届いてなくてもいいどころか、届くわけないと思っているんです。今回はコロナの影響でライブが全然なくなったことも背景にあり、ライブで演奏することやお客さんに聴いてもらうことをまったく意識しませんでした。本当に自己完結。とにかく自分が言いたいこと、自分が納得できるものを書きましたね。なんか…今回どの曲を聴いてもどこか暗い面があるので、「なんて自分は後ろ向きなんだ」という部分が、よりさらけ出された歌詞になったと思いますね。

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