「ありがとう」「え、好きってことですか!?」

―― タイトルは、1st『DAYS』と2nd『MORE』に続き、今回『FACE』とローマ字4文字という点で共通していますが、シリーズ三部作だったりするのでしょうか。

三部作かぁ!そうだったらカッコよかったな(笑)。たしかに、ローマ字4文字で揃えたのは、みんなが1st~3rdのCDを部屋に飾ってくれたら、シリーズっぽくていいなと思った部分はあります。ジャケットを撮ってくださっている、占野花さんの写真がとても好きなので。ただ内容的には三部作のつもりはなくて。"全曲を通じて何を言いたいのか"が、アルバムタイトルになっています。今回は5曲作り終えてから決めました。今の自分たちをお見せする言葉が『FACE』です!というイメージですね。

―― 『DAYS』には“聴いてくれるひとの日々に寄り添いたい”、『MORE』には“もっと寄り添いたい”という意味が込められているんですよね。今回の『FACE』はいかがですか?

まず、前作の『MORE』は“もっと寄り添いたい”という気持ちと、もうひとつ、自分たちとして“もっとできるだろう”って想いがあったんですよね。だから4人だけで出せる音を意識して作って、リードギターが2本同時に鳴っている曲とかなかったんですよ。でも『FACE』はそういう部分は関係なく、とにかくいいものを作ろうというモードでした。1曲目の「春の中に」から、アコギとバッキングギターとリードギターが鳴っていて、ボーカルも4重5重くらいハミングコーラスが入っていたりして。今の自分たちのできることを最大限、引き出したいと思ったんです。そういう5曲が集まりました。

そして『FACE』の意味としては、単語そのままの直訳だと“顔”ですけど『FACE~』とか『~FACE』とか、別の単語が足されるとまったく違う意味になるんですよ。今回のアルバムは、聴いてくれるひとによって場面の捉え方が異なるだろうなと思ったので、聴いてくれるひとそれぞれに、それぞれの意味を持たせてくれるアルバムになったらいいな、という気持ちを込めました。あと、自分の劣等感や感情がむき出しになって、歌詞という“表”に表れているところも『FACE』に当てはまるし。自分や他者ともっと向き合いたいという気持ちは『FACE TO FACE』という言葉に当てはまるし。いろんな意味がタイトルに繋がるんじゃないかなと。

―― たしかに“向き合いたい”という気持ちは、5曲それぞれから感じました。

photo_02です。

そうですね。いちばん最初に「春の中に」ができてくれたおかげで、そういう意識になったのだと思います。

―― 「春の中に」はどんなきっかけから生まれたのでしょうか。

曲のデモ自体の構想は2年前ぐらいからあったんですよね。タイトルからして季節感のある曲って作ってなかったから、1曲は春の曲を作りたいと思って。なので、今回のコロナのタイミングだからというわけでもないんですよ。で、春と言ったら、桜だったり出逢いと別れだったり、爽やかなイメージが強いと思うんですけど、それは僕らが、the shes goneが歌わなくてもいいなと。そうじゃなくて、僕らは年度の始めや季節に限らず、"何か新しく始めたことや始まったことに対して直面する悩みや不安な気持ち”にしっかりフォーカスを当てて歌おうという考えが、歌詞を書く前からありましたね。

その結果、いつも書いているような<あなた>と<私>じゃなくなったので、歌詞には時間がかかりました。メンバーやスタッフは「大丈夫だよ!」と言ってくれるんですけど、何を書いても「これは自分が聴き手だとして聴いたらなぁ…」って上辺の言葉に感じてしまって。なんか…この曲を何度も聴いてくれるひとは、すでに頑張っていると思うんですよ。だから<頑張れ>とか<一緒に頑張ろう>とか書いてないんですね。自分らしい普遍的な言葉で、どれだけ相手を肯定して、背中を押してあげられるかなという部分を、考えて考えて書きました。

―― ご自身が“劣等感”を抱えてきたからこそ、言われても響かない言葉や、言ってほしい言葉がわかるのかもしれませんね。

それが、自分だったらこの歌詞のようなことを言われても嬉しくないんですよ。聴くのと書くのは違うんだなと思いました。本当は、女性ボーカルのズバッと抜ける明るい声でサビから<大丈夫だよ!>って言ってほしいし、よくアイドルソングにある<一緒に頑張ろう!>みたいな歌詞のほうが元気をもらえる人間なんですよね。でもそれを、こんな不安を引きずっているような僕が歌っても…と思うんです(笑)。

―― でも<見えない場所で築き上げてきた努力も実っていく>とか、<無理して笑顔で泣いている君を分かっている>とか、そういう言葉は力や支えになります。

うーん、そうだといいなぁ…。書きたいことを書いているつもりなんですけど、やっぱり自信がないんですよね。でも、努力やツラさを誰もわかってくれないときってあるじゃないですか。みんなツラいんだよって状況もあると思うし。そういうとき、直接的には関われないけれどこういう歌が、多少なりとも背中を押せたり、気持ちを楽にしてあげられたりするなら、いろんな劣等感を抱えている自分だからこそ歌うべきなのかなって。ちょっとカッコつけていますね。

―― 応援歌や人生歌に限らず、兼丸さんは常に「誰も傷つけないように」というところを強く意識されているのではないでしょうか。

そうだと思います。自分自身、良く言えば感受性豊かですけど、悪く言えば神経質でネガティブな人間なので。とくに歌詞は文字で読まれるということもあり、本来は優しい気持ちで書いた言葉だとしても、強く伝わってしまう場合もあると思うんです。傷つけるつもりがないのに傷つけてしまうって、いちばん嫌じゃないですか。だから語尾ひとつでも、かなり気をつけています。もちろん、強気な語尾でも、声質によってはそのひとなりの優しさが伝わると思うんですけど、自分の声には似合わないし、性格的にそういう言葉も似合わないんですよね。

たとえ<頑張れ>とか<大丈夫>とか歌えたとしても、ライブハウスを離れたら直接的に応援できることは何もないので、それは無責任なんじゃないかと考えてしまいます。だから<大丈夫>と言えない代わりにじゃないですけど、この「春の中に」では<大丈夫を纏う 無理して笑顔で泣いている君をわかっている 向き合っているからこんなに辛いんだね>というフレーズを書いたんです。本当はボロボロなのに、強がり続けているひとに対して、ちょっとうじゃうじゃ言いながらも肯定してあげるという書き方というか。この曲ができたから、他の曲でちょっと力が抜けたかなと思いますね。

―― 2曲目の「ふためぼれ」は5曲のなかでもっとも希望的なラブソングですね。

はい、これはもうとことんポップでいこうと。自分の曲のイメージとしては、ルンルンで始まって、ルンルンで終わる、テンションが同じ感じです。フラれるフラれないとか結末とかどうでもよくて、ただただずっと好きな子のことを家で悶々と考えている。ご飯が2倍おいしいような、恋愛のいちばん楽しいときですね(笑)。

―― 「ひとめぼれ」という言葉に対して、この「ふためぼれ」は、どのようなニュアンスなのでしょうか。

歌詞の最初の2行はすぐに出てきたんですよ。<少し目を瞑っているだけで 君が出てくるこの現象はなんていうのでしょう>…ということは、もう確実に“好き”ではあると。でも<君>のことはすでに知っているから「ひとめぼれ」ではない。相手を知ったつもりになってから、改めて新しい一面を知って好きになるって、これは…「ふためぼれ」じゃないか? という感じです(笑)。幼馴染とか友達のことを、いつのまにかよく考えちゃうとか「あれ、意外と、、」「もしかして好きになってない?」みたいなことって、みんなにもあるんじゃないですかね。

―― 歌詞の<君の声と言葉のその全てに 意味が宿る>というフレーズはとくに共感しました。たとえばLINEの返事ひとつでも、書かれている言葉以上の意味を深読みしようとしてしまったり…。

あーありますね!気になるひとに対しては、常に意味深な目で見ていると思います。やっぱり好きなひとから言われる「ありがとう」って違うじゃないですか。「ありがとう」「え、好きってことですか!?」みたいな(笑)。

―― 勝手に脳内で翻訳しますよね(笑)。

そうそう。相手からしたら「何が!?」ですよね。でもどんな状況だとしても、言葉の内容が濃くても薄くても、自分で意味を宿してしまうものだと思います。だから「おはよう」という声を聴けただけでも、もう「今日はありがとうございます!」って気持ちになる。まさにそんなイメージで書いた、ちょっとアホなラブソングですね。

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