ああいう“愛”が書けていたのは不思議な部分もあります。

 みなさんは、数年前と今、自分のなかで変化したことってありますか? たとえば、以前は「人間なんて誰もが一人ぼっちに決まってる!」と思っていたけれど、今は「いや、そうでもないかもしれない…」と感じたり。恋愛がすべてだと思っていたけれど、別の楽しさを発見したり。逆に恋愛なんて無縁だと思っていたけれど、初めて愛を知ったり。

 また、容姿も環境も変わっていくものですので、人は常に変化の繰り返しとも言えるでしょう。さて、そんななか今日のうたコラムでは【歌詞面での変化】をご紹介いたします。アーティストもまた、時とともに作詞法や価値観、描きたいメッセージが変わってゆくことが多々。今日は【前編】に引き続き【後編】として、7組の過去インタビュー回答をピックアップ!

<絢香(2018年取材)>
変わらない想いやテーマはあるんですけど、年齢と共に“チョイスする言葉”が変わってきている気はしますね。たとえば今回のアルバム(『30 y/o』だと、1曲目の「カラフル!!」の<色の無い時代>とか。自分の内から出てきた感情を言葉にするというところから一歩離れて、今の時代と冷静に向き合うこともできるようになったのかなって。

<忘れらんねえよ・柴田隆浩(2017年取材)>
前は、歌いたい相手を限定していたんですよ。モテない男子とか童貞男子を肯定して、イケている奴らを完全否定するみたいな。でも今はもっと人間全体を見たいんですよね。きっと俺が今まで否定してきたイケている人にも、どこかにしんどさってあるんだろうし。だからこれからは、頑張っている人たちみんなの“うまくいかない気持ち”を表現したいし、「こう変わるといいなぁ」って希望まで一つの歌のなかで伝えたいですね。

<家入レオ(2018年取材)>
以前は、発信者としての視点しか持っていなくて、すごくガムシャラで、グレーって言っておけば良いところを白黒はっきりつけたがる、みたいなところがあり…。でも二十歳を過ぎて、一人の人間としても、アーティストとしても、女性としてもたくさんの経験をしていくなかで、もっといろんな視点を持てるようになって。

だから、自分のちょっとした実体験を妄想で脚色して物語にする、というような作詞法も楽しめるようになりましたね。渋谷で思いっきり肩をぶつけられたのに「ごめんなさい」も言われなかった時のモヤモヤから、ブワーッと歌詞が生まれるときもあるし。フィクションもノンフィクションも両軸を楽しめるようになったんです。

<ビッケブランカ(2018年取材)>
もう昔と今じゃ、月とすっぽん並みに歌詞の存在意義が変わりました。比べるまでもないですね。僕は幼い頃からずっと、サウンドやメロディーにばかりこだわってきたから、歌詞に必要性を感じていませんでした。サウンドを引き立てる、ただの発音でしかなかったんです。

フェスとかでいろんなアーティストと曲作りの話をしても、やっぱりみなさん最初に「この気持ちを歌いたい」というところから歌詞が生まれて、音楽を作っていくかたが多くて。だけど僕は真逆だった。音が気持ちよくて仕方なかった。歌いたい気持ちなんてなくて、作りたい音しかなかったんです。歌詞や言葉の力に気付いたのは、本当つい3~4年前のことですね。

(中略)

今、僕がやっているのはその二つの作詞法が共存した歌詞を書くこと。自分にも、日常の中で本当に一瞬、悲しくなること、ツラくなることってあるんですよね。その一瞬をプッと切り取って、想像上の主人公に込める。つまり自分の本当の感情を大げさにストーリー仕立てにするという感じでしょうか。

そうすると、その曲で自分も救われるし、きっと聴いてくれる人も同じように救われるんじゃないかなぁ、そうだったらいいなぁと思う。だから25歳で始まり、27歳で本物になった歌詞人生なんです。そして今があるという感じですね。

<奥華子(2019年取材)>
どうかなぁ…。いや、歌詞はあんまり変わってないかもしれないです。結局、恋愛って変わらないんですよね、ずっと。本当に成長してないなぁと思う。好きになったら、高校生のときの「好き!」って気持ちと、今の年齢での気持ちと、まったく変わらない気がします。だから、学ばないし、繰り返すんだなって…(笑)。

<erica(2019年取材)>
それがまったく変わっていないんですよ。だからこそ今の年齢の私が等身大のつもりで書く歌詞が、中高生に響くわけです(笑)。実は本当にそこが課題でして。やっぱりもっと同世代の女性にも聴いてほしい。私は不器用で仕事が充実しないと恋愛まで手が回らないという現実もありまして。きっとここで悩んでいる方も多いと思っていて。そういう部分では共感してもらえる世界観の歌詞を書けそうです。

<大塚愛(2018年取材)>
う~ん。娘が産まれるより随分と前に「」という曲を書いたんですけど、その歌詞は「あれ?私この時期にもう子どもがいたのかな?」って思うくらいの内容なんですよ(笑)。そう考えると変わってないのかなぁ。こう…娘に会うことを目標にそれまで活動してきたというか、ずっと自分のなかに一緒にいたような感覚。ああいう“愛”が書けていたのは不思議な部分もあります。

 
 いかがでしたでしょうか。様々な【歌詞面での変化】がある一方で、奥華子やerica、大塚愛のように「変わっていない」と語るアーティストのコメントも印象的です。恋愛観が変わらないから、歌詞も変わらない。環境が変わっても、歌詞は変わらない。その“不変の理由”もまたおもしろいですよね…!

 また、今回ピックアップしたアーティストの方も、数十年後、数年後、数日後、今、さらに新たな“変化”があるのかもしれません。今後も、人間にとって大切な“変わったこと”や“変わらないこと”に注目しながら、インタビューをお届けしてまいりますので、様々な回答を楽しみに、ご熟読ください!