開眼したという感じ。あ、まだまだ書けることある!って。

 みなさんは、数年前と今、自分のなかで変化したことってありますか? たとえば、以前は「人間なんて誰もが一人ぼっちに決まってる!」と思っていたけれど、今は「いや、そうでもないかもしれない…」と感じたり。恋愛がすべてだと思っていたけれど、別の楽しさを発見したり。逆に恋愛なんて無縁だと思っていたけれど、初めて愛を知ったり。

 また、容姿も環境も変わっていくものですので、人は常に変化の繰り返しとも言えるでしょう。さて、そんななか今日のうたコラムでは【歌詞面での変化】をご紹介いたします。アーティストもまた、時とともに作詞法や価値観、描きたいメッセージが変わってゆくことが多々。今日は【前編】として、6組の過去インタビュー回答をピックアップ!

<井上苑子(2019年取材)>
今までは感情をすぐ言葉にしていたというか。ただ伝えたいことだけを書いた、飾りのない丸裸な歌詞だったんですよ。だからこそ、等身大とか言っていただけていたんですけど。でも今は、いろんなものをまといたいなと思っているんです。曲の核を決めたら、その周りの物語とか、言葉選びをもっと丁寧に描いていきたいなって。きっとそんなことアーティストのみなさんはもっと前からやっているんだろうけど、私は本当にわかっていなくて。最近になってようやくそういう作詞法に変わってきましたね。

<BLUE ENCOUNT・田邊駿一(2019年取材)>
今回(ニューアルバム『SICK(S)』)の楽曲はどれも10年前には書けなかったと思います。あとやっぱりね…なんというか…活動を重ねてきたからこそ、自分たちの立ち位置でフィルターをかけないといけないときもあるんですよ。言い過ぎちゃダメだし、あまりマイナスなことを想起させるのは僕らのライフワークとは違うし、そういう“ブルエンらしさ”というところはすごく考えてやってきました。

そんななかで今回は、うまいことすべてのバランスを取って、アーティストとして言いたいエッセンスを入れることができたように思えるんです。自分の内面を主観で見つつ、俯瞰で見る。その両方の作業を何回も繰り返しましたね。その結果、今までで一番時間はかかったけれど、一番満足のいく歌詞が書けたと思います。

<足立佳奈(2019年取材)>
小中学生の頃はとにかくラブソングばっかり歌っていたんですね。でも今は将来のことを真剣に考えて悩んだりとか、友達や家族のことを思ったりとか、何かや誰かを“心配してるよ”という歌をよく作っています。そういう時期なんですかねぇ。

(描くことが多い感情は)喜怒哀楽で言えば…哀ですね。怒まではいかないけれど、怒と哀の間くらい。自分の気持ちをさらけ出したいというか。世の中への訴えとか、私の明るいだけではない本音とか、決意とかを書くかな。デビュー時は思いっきり“楽”だったと思うんですけど、今は正反対な感じです(笑)。

<BIGMAMA・金井政人(2019年取材)>
単純なところだと、僕は最初、洋楽のバンドに憧れていたので、英語で歌う曲が多かったんですね。だけどやっぱりミュージシャンとして、まず日本人としてきっちり日本語で勝負できないと、長く音楽家でいることは難しいと思って。そこから日本語の歌が増えていったという変遷はあります。そこ以外はあまり変わってないかな。ただ、年相応の言葉にはなっていますね。今の自分が歌って、恥ずかしいか恥ずかしくないか、という美徳みたいなものは年齢を重ねるにつれ、少なからず変化していると思います。

<阿部真央(2019年取材)>
息子が産まれるちょっと前から、フィクションの世界を歌詞に書くのもありだと自分に許可し始めましたね。活動の中期以降、2015年のアルバム『おっぱじめ!』くらいのときかな。それまでは実体験をもとにしか書いていなかったし、それを評価されていたので、実体験を書かなければいけないって思い込みがあったんです。

でも、年々その考えが柔和になっていって、フィクションに対する苦手意識が薄れていったという変化はあります。あと、息子が産まれてからは、母になったからこその感覚で書ける曲、書きたい曲ができたのは大きな変化かな。ただ、音楽性が変わったというよりも“母親として”という新たな引き出しが増えたような感覚に近いと思います。

<槇原敬之(2019年取材)>
J-POPってどうしても“恋愛のお供”みたいなところがあるじゃないですか。でも、自分がちょうど30歳になるタイミングであった当時、友達に言われたんですよね。「もうそろそろ恋愛以外のことも歌っていかないと、嘘なんじゃないの? お前が40歳、50歳になって恋愛の歌しか歌わないって、キショイよ!」って。それが意外と僕の中で「そうだよねぇ!? ずっとこのままじゃ寂しい男じゃん!」と、刺さりまして。その会話がひとつの(変化の)きっかけだったように思います。

そして、その変化が最初に反映されていると思う曲は「太陽」かな。そこから、SMAPの「世界に一つだけの花」が書けたりもして、恋愛以外の物事をどうポップスに落とし込んでいくかという楽しみが始まったんです。それまでの活動に本腰を入れていなかったわけではなく、開眼したという感じ。あ、まだまだ書けることある!って。そのほうが音楽家として長く続けられるだろうという未来も見えたので、決意できました。これからも自分が人生で感じることがある限りは、歌詞を書いていけるんだろうなぁって思っています。

【後編へ続く!】