あえて歌詞の中で使わないように意識している言葉は…?

最も重要な決定とは
何をするかではなく、何をしないかを決めることだ
(スティーブ・ジョブズ)


 Appleの創始者であるスティーブ・ジョブズの名言です。これはもちろん、音楽作りのモットーとしても言えること。たとえば、あれもこれも詰め込んだ歌詞にしていたら、何か言っているようで何も言っていないような、ただただゴチャッとした歌になってしまいます。ときに、曲の中で“何を言わないか”を決めることが、そのアーティストの個性に繋がるのです。
 
 そして、歌ネットのインタビューや『言葉の達人』コーナーではよく「あなたが歌詞の中で、あえて使わないように意識しているワードはありますか?」という質問をしております。すると、やはりその“使わない選択”にこそ、それぞれのアーティストの信念が強く反映されているのがわかることが多々。今日のうたコラムではそんな様々な“回答”をピックアップしてみました…!

敢えてそういうテーマを選ぶ時以外は、あまりにもネガティブな表現は避けます。見て綺麗な言葉と聞いて綺麗な言葉は違います。
(さだまさし)

強いていうなら、同意を求めるような言い回しはあまりしないかもしれないです。変な言い方ですが、感じてもらわないと意味がないと思っているからでしょうね。
(槇原敬之)

「風」、「月」、「空」、「抱きしめる」、使いやすい言葉なので容易に出さないように心がけてますが、やっぱり使ってしまいます。技術不足です。
(ポルノグラフィティ・新藤晴一)

あんまり使いたくないのは“綺麗な言葉”です。たとえば「一人じゃないよ」とか。娘が産まれたからこそ、今は“一人じゃない”と心から思えるんですけど、昔は「何言ってんだ!一人だよ!どうせ他人は他人だし、自分のことが一番なんだよ!」って思ったりもしたんですね(笑)。だから、いわゆる応援歌に使われそうな言葉は苦手かもしれません。なんか胡散臭く感じちゃって。必ず自分が実感できる言葉を使っていますね。
(大塚愛)

たとえば、失恋ソングを書くときに『失恋』とは言いたくない。会いたくても『会いたい』とは言いたくない。あまり単純な言葉で表したくないなと思います。それを簡単に言っちゃうと、聞き流されちゃいそうなので。なるべく自分らしい言い回しで、みんなが知っている感情を探すことはいつも挑戦しています。だから「彼氏はいません今夜だけ」も『浮気』というワードは使っていなくて<あなたと間違えたい>と歌っているんです。いろんなフレーズでドキドキしてもらいたいですね。
(コレサワ)

基本的に「うれしい」「かなしい」「たのしい」「さびしい」とかは書かないですね。ただの形容詞ですから。それそのままを言ってしまったら、歌詞である意味がないというか。その気持ちを形容詞を使わずにどう表現するかということが大切だと思っているので、そこは意識しているところですね。
(ビッケブランカ)

下品な言葉は使いたくないですね。あとは若者だけの言葉遣いとか。お芝居をやっていると、綺麗な日本語の大切さを感じるんですよ、すごく。だから常に言葉のチョイスには繊細でありたいですね。
(大原櫻子)

<俺>とかは使ったことない。自分のものにできないので。自分のものにできない言葉は使わない。っていう感じかな。
(GLIM SPANKY・松尾レミ)

ちょっとでも誰かが傷つくような言葉には、気をつけるようにしていますね。いろんな角度から見た時、傷つく人がいるかもしれない言葉ですね。それって、考え始めると果てしないんですけど、実は前に言われたことがあって…。初期の「Traveler」という楽曲で、僕は一人の男性が赤ちゃんからおじいさんになるまでのストーリーを描こうと思ったんです。それで<男は4本足で歩き>、それから<2本の足>で立って、最後は杖をつくから<3本足>で生きてゆくという内容の歌詞を作りました。だけどその曲に対して「生まれつき足が不自由な人はどうするんだ」とか「その人がこの曲を聴いたらどう思うんだろう」とか、そういう意見をいただいて、ハッとしたんですよね。たしかになぁ…って。
(androp・内澤崇仁)

前まではそういう縛りはすごく意識していました。それこそあんまりスイートな言葉遣いはしなかったかもしれない。「愛してる」とかを真っ直ぐに歌う自信もなかったですし。でもいろんな環境の変化もあって、今はすごく自由に、良いと思った言葉をそのまま入れてますね。
(家入レオ)


 いかがでしょうか。10組のアーティストのの“使わない”をご紹介しましたが、まさに十人十色ですよね。家入レオのように「前まではそういう縛りはすごく意識して」いたものの、その“使わない”という選択を変えてみることで、また新たな楽曲が生まれてゆく場合もございます。だからこそ“使わない”ものを改めて意識してみることは、面白いですね。
 
 是非、ご紹介したアーティストの“使わない”を意識しながら、逆にどんな表現をしているのかという面から、いろんな歌詞を楽しんでみてください。また、あなたの好きなアーティストが“使わない”ように心がけていそうな言葉を推測してみるのも、ひとつの楽しみ方かもしれません…!