東京で生まれたのに、息苦しくしてる。

 2018年6月27日に“瀧川ありさ”が、コンセプトミニアルバム『東京』をリリースしました。今作には、東京で生まれ育った彼女が【東京】をテーマに書き下ろした全6曲が収録。今日のうたコラムでは、そのなかからタイトル曲である「東京」をご紹介いたします。東京ソングと言えば、上京生活や遠距離恋愛が描かれた歌詞が思い浮かびますが、ずっと東京で生きている<僕>はどのような言葉を綴るのでしょうか…。

電車の窓から見える景色は
いつだって僕を慰めてくれる
電車の中の僕は
縮こまって肩をすくめてる
だから地下鉄はちょっと苦手

人との距離は難しい 人にされて嫌なこと
しないように意識しすぎて 何もできなくなって
心が狭いのかもなあ
「東京」/瀧川ありさ

 サウンドは、今日もたくさんの人々を乗せて、スピードを上げながら走ってゆく電車のように軽快。歌の冒頭からは、乗員のひとりとして揺られている<僕>の姿が見えてきます。きっと車内はいつだって満員で窮屈。でも、唯一<電車の窓から見える景色>だけは<僕を慰めてくれる>から、この主人公は毎日、外がよく見えるドア付近辺りを定位置に<縮こまって肩をすくめてる>のではないでしょうか。

 そんな電車内での在り方は<東京>を生きる自分の姿そのものでもあるのかもしれません。街に出ても、職場や学校も、人がいっぱい。心の中も“人の目”でいっぱい。だから、他者の心を踏んだり押しつぶしたりしないよう、暑苦しく思われないよう、常に<人との距離>を考えるのです。結果<何もできなくなって>それでも、何とか息がしやすいように、自分の存在さえ定位置にして<縮こまって肩をすくめてる>のだと思います。

東京はヘンテコだ 東京を知らない人が
この街覆ってく 東京はそういうんじゃない
じゃあなんなんだろう
「東京」/瀧川ありさ

 そして、サビでは<東京はヘンテコだ>と<僕>が思う“東京”の本質が歌われます。たしかに、東京はよく「他人に無関心で冷たい」ことから【凍狂(とうきょう)】などと上京組の方から言われますが、実は<東京を知らない人が>覆っていく街なんですよね。決して<東京で生まれた>人たちだけが「他人に無関心で冷たい」わけではありません。でも<東京はそういうんじゃない>と言いたくても、その続きをうまく言葉にすることができないのも事実…。

何がそんなに怖いのか 人の視線が気になって
無難に振舞ってみても 本当はこんなんじゃなくて
何がしたいんだろうな

東京はヘンテコだ 東京で生まれたのに
息苦しくしてる僕はずっと 東京は悪くないはずなのに
あぁ帰りたいな
「東京」/瀧川ありさ
 
 さらに<東京>という街自体も<僕>の姿に重なるところがあるように感じませんか? つまり<僕>もまた“僕を知らない人”の<視線が気になって 無難に振舞って>ヘンテコな自分になっているのです。まるで<東京を知らない人が この街覆ってく>のと同じように、自分が誰かに覆われていくのです。<本当はこんなんじゃなくて>…と言いたい。だけどやっぱり、続きをうまく言葉にできない。そんな葛藤が伝わってきます。

 また<あぁ帰りたいな>と思うものの、一体どこに帰ればいいのだろう…という、空しさも漂っております。上京組のように帰ることができる故郷はない。とはいえ<東京>が故郷かと訊かれても、なんだか違う気がする。東京はヘンテコでよくわからない。自分自身も<何がしたいん>だかよくわからない。でも、それでも<僕>は今日も明日も、この街<東京>で電車に揺られながら生きてゆくのでしょう。

東京はヘンテコだ 東京を知らない人が
この街覆ってくよ眠らずに 東京はそういうんじゃない
何て言えなくて

電車の窓から見える景色は
いつだって僕を励ましてくれる
「東京」/瀧川ありさ

 ヘンテコな東京だけど、自分らしく生きるのも難しいけれど、ただ<電車の窓から見える景色>だけは<いつだって僕を励ましてくれる>から。尚、電車内では<窓から見える景色>が<僕を慰めてくれる>唯一のものですが、電車を降りても、わたしたちにはそうした“おまもり”のような何かがあるはず。たとえば、大好きな音楽。本や映画などなど。それらがあれば少しだけ<人の視線>から意識が遠ざかり、心がホッとできるのです。
 
 自分だけの<電車の窓から見える景色>のような“おまもり”を見つけて、なんとか頑張ってゆこう。瀧川ありさの「東京」は、東京で生きている人にも、そうでない人にも、そんな優しいメッセージを送っております。是非、電車に乗りながら、街を歩きながら、この歌を聴いてみてください。

◆ミニアルバム『東京』
2018年6月27日発売
【初回生産限定盤】 SECL-2182~2183 ¥2,500(税込)
【通常盤】 SECL-2184 ¥1,800 (税込)