どこか遠い場所に行きたい。

 2024年1月31日に“OKAMOTO'S”がニューシングル『この愛に敵うもんはない』をリリース。タイトル曲はTVアニメ『アンデッドアンラック』第2クールのEDテーマであり、OKAMOTO'Sがアニメのために書き下ろした新曲となっております。さらに今作には新曲「カーニバル」も収録!
 
 さて、今日のうたコラムでは“OKAMOTO'S”による歌詞エッセイを2週連続でお届け! 第2弾はオカモトコウキが執筆。綴っていただいたのは、収録曲「カーニバル」にまつわるお話です。どこか遠い場所に行きたい…、いつもぼんやりとそんな気持ちを抱いているあなたへ。歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



どこか遠い場所に行きたい。
 
 寒い冬は特にそんなことを思ったりする。暖かいところがいい。ベタにハワイやグアムに行きたい。ハワイなんてほんとに楽しいのかなぁ?と懐疑的だったけど数年前に行った時は最高だった。綺麗な海、青い空。タイとか、東南アジアもいいかもしれない。あるいはもっと近場で温泉地とかでもいい。高望みはしない。箱根や草津で温泉に浸かって、畳の部屋で日本酒を飲みながらダラダラしたい。
 
 でも正直、思い切って海外に行ったりするくらいのエネルギーがなかなか湧いてこない。ケチくさいことは言いたくないけど金銭的な問題もある。数年前にレコーディングでニューヨークに行った時点でラーメンが一杯2000円もするような有様だったし、今なんてもっとだ。子どもも生まれたばかりで何時間も飛行機に乗ったりは簡単にはできない。国内旅行もまだまだ難しい。
 
 一方で他人から見れば自分は年がら年中旅をしているような人間だ。アルバムを出せば20本や30本、日本中を飛び回って色々な人の前で演奏する。それなのに遠い場所にいきたいってお前は何を言ってるんだ? と思われても仕方がない。だけど言わせて欲しい。もちろん色々な所に行ってその土地の名産を食べたり、時にはベタに観光したりなんかもする。ただ、楽しんでいるように見えてもどこか頭の片隅には次の日とかに行われるであろうライブのことが居座っていて、あまり羽目を外さないようにしよう、とかまた今度ゆっくり来た時に見よう、とか思ったりする。
 
 そしてそのまた今度の機会はなかなか訪れないのだ。
 
 家の居心地が予想以上に良くなってきてしまった。という問題もある。自分の部屋には、各地から買い集めてきたたくさんのレコードや本がある。自分で選んだんだから当然自分の好きなものばかりだ。酔っ払って興が乗ってきたら、好きな映画を観ながらゆっくりとソファで寝落ちしても良い。外で食事をするときのように、お会計いくらかなぁ? とか終電の時間が無くなりそうだ、とかそういうのを気にする必要もない。好きなものが揃った自室から出る必要なんて少しもない。
 
 だけどやっぱり遠いところに行きたい。なんなんだろう? この気持ち。誰もいない綺麗な景色を見てみたい。気がつけば夜になりそうなことを忘れるくらい夢中になって歩き回りたい。偶然行われているお祭りに参加したりして、新しく友達を作りたい。何もかも忘れて楽しみたい.........
 
 でも本当にそんな場所はあるのかな? それってもはや俺の頭の中にしかないんじゃないの? 頭の中の記憶の集積が理想のイメージみたいなものを勝手に作り上げていて、実際には存在もしないような場所にずっと行きたいなぁ、なんて思ってるのかも。ていうか多分それが真相だろう。だから実際どんな綺麗な場所に行っても、どこに行っても満足できないんだろうな。なんかちょっと馬鹿みたい。
 
 みたいなことを考えながら歌詞を書きました。
 
<オカモトコウキ(OKAMOTO'S)>



◆紹介曲「カーニバル
作詞:オカモトコウキ
作曲:オカモトコウキ

◆ニューシングル『この愛に敵うもんはない』
2024年1月31日発売