2022年10月19日に“ドレスコーズ”がニューアルバム『戀愛大全』をリリースしました。今作には、新曲「やりすぎた天使」や配信中の「聖者」「エロイーズ」など全10曲を収録。またドレスコーズは『戀愛大全』の発売を記念し、11月にワンマンツアー「the dresscodes TOUR2022」を開催予定!11月11日の北海道・cube gardenから30日の神奈川・CLUB CITTA'までの7会場でライブを行います。
さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“ドレスコーズ”の志磨遼平による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、最新作『戀愛大全』に通ずる想いです。過ぎ去ってしまった今年の夏に、どこか空しさや物足りなさを感じているあなたへ。何かを失ってしまった気がするあなたへ。楽曲と併せて、このエッセイを受け取ってください。
◆ニューアルバム『戀愛大全』
ぼくの夏は、今年も期待はずれだった。
いつか映画で観たような、クラクラするほどまぶしい出来事は、今年も起きやしなかった。
かんかん照りの太陽だけが夏の全てだなんて悲しいだろう。なにかとんでもないあやまち、たとえば草むらに落ちていた恐ろしいものを見つけてしまうだとか、それくらいのことが起きなけりゃ。
どうせ、海に行ったって、バカンスに出かけたって、そんなのは夏の表層だ。悲しくなって帰ってくるのは目に見えている。そう思うとどこかに出かける気も失せて、結局、クーラーを効かせた部屋にいるほうがマシ。
レコードを流すならベン・ワットにザ・ヒットパレード。昨夜観たのは相米慎二、その前はウォン・カーウァイ。漫画なら幻の名作『踊るミシン』ってとこだろう。ぼくが夏に期待するのはこういうことだ。
100年ぶりのパンデミックで、今やぼくらは“人類史上で最も潔癖な世代”となった。あらゆる場所は消毒され、透明のアクリルボードを挟んで会話し、誰かにふれることにさえ罪の意識をいだいている。
ことあるごとにふりかける消毒液のおかげで、ぼくらのこの手はけがれひとつなく、とんでもないあやまちだなんて、夢のまた夢。
もうこの先、夏がぼくの期待にこたえてくれることなんてないのかもしれない。せいぜい表層だけの夏を、クーラーを効かせた部屋の窓から見送るだけ。
ぼくらの夏は、いったいどこへ行ってしまったんだろう。いつか映画で観たような、それでぼくらがでっちあげただけの、期待どおりの夏。
二人乗り、燃えるタバコ、エーマイナーセブンス、とんでもないあやまち。
いっそ博物館のショーウインドウにでもならべて、こんなキャプションをつけてみる。
《かつておろかだったぼくらのあやまち、さしてなんの役にも立たぬもの》
あいにく、そんなものには収蔵するほどの価値なんてないし、ぼくには映画も撮れなくって、できることといえばレコードを一枚、増やすことぐらい。
さしてなんの役にも立たぬもの、だからぼくらが失ったもの。
それが2022年、夏のあいだにぼくが仕上げた新しいレコードだ。
<ドレスコーズ・志磨遼平>
◆ニューアルバム『戀愛大全』
<収録曲>
01. ナイトクロールライダー
02. 聖者
03. やりすぎた天使
04. 夏の調べ
05. ぼくのコリーダ
06. エロイーズ
07. ラストナイト
08. 惡い男
09. わすれてしまうよ
10. 横顔