季節のように生きる人でありたい。

 2022年7月6日に“関取花”がメジャー2ndフルアルバム『また会いましたね』をリリースしました。今作は「ありのままの関取花らしさ」をコンセプトに自身がサウンドプロデュースし、ライブサポートでもお馴染みの盟友たちが全編に渡り参加。オンエア後から「ぶっ刺さる」と話題の「明大前」など、100%関取花節の全13曲が収録。歌ネットではインタビューも敢行しましたので、ぜひ改めてチェックしてみてください。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“関取花”による歌詞エッセイを5週連続でお届け!今回は第1弾。今作の収録曲「季節のように」にまつわるお話です。<季節のように生きる人でありたい><変わりゆく私を愛し続けたい>と綴られたこの歌に通ずる、関取花の歩んできた軌跡を明かしていただきました。歌詞と併せて、お楽しみください。



私は飽き性だ。常に小さなマイブームの連続で生きている。でも、幼い頃はむしろその逆だった。集めるおもちゃはシルバニアファミリーだけ。ぬいぐるみも1、2歳の頃に買ってもらったウサギとラッコさえあればそれでよかったし、キャラクターものや流行りのアニメに夢中になってグッズを欲しがることもなかった。今になって当時の話を母としたりするのだが、決まって「うちの兄妹は本当に物を欲しがらない子たちだった。物がなくてもあるもので楽しめる子たちだったから」と言う。新しいものを買い与えなくても、同じおもちゃから創意工夫で次々と新しい遊びを生み出していたらしい。
 
たしかに思い返せばそうだった。でもそれは私がというより、兄がそういう人だったからかもしれない。瓶の王冠に白画用紙を貼り、そこに色鉛筆で絵を描いて、その裏にボンドで安全ピンをつけて、てんとう虫のバッジを作って私にくれたりした。色とりどりの洗濯バサミをたくさん繋げたものを、今でいうエクステみたいにして襟足につけて、そこらへんにあったサングラスをかけたら変身完了。そのままテーブルの上にあがればそこはもうステージだ。その瞬間、「目つきバサラ」という謎のアーティストになるのだった。ちなみに私は、テーブルの下のアリーナ席から彼を見守るファンの役だった。
 
家族旅行でグアムに行った時のホームビデオを見返しても、そんな私たちの愉快な様子がばっちり残されている。ホテルのベッドの上で、ビート板型の浮き輪をエレキギターのように抱えオリジナル曲を歌い上げる兄と、その横でワニ型の浮き輪をキーボードに見立てて一緒に演奏している私。ちなみに「サーフィンU.S.A.のネズミ♪ サーフィンU.S.A.のネズミ♪」という歌詞だった。未だにちゃんと歌えるし、今聴いても結構名曲である。もちろんホームビデオには観光地らしい他の場所で旅行を楽しむ様子も映っていたが、正直比べものにならないくらい、このシーンが家族全員一番楽しそうだった。べつに家でもできることなのに。
 
小学校の頃は、胸元に大きくロゴが刺繍されたG A Pのパーカーばかり着ていた。友達とおそろいで買ったハムスター柄の大きな筆箱もボロボロになるまで使い続けていたし、丁寧に扱っていたかは別として、他にも何かと物持ちのいい方だった。中学時代はとにかく部活のバスケ一色の毎日。キラキラと流れるまっすぐな汗と共に3年間があっという間に過ぎていった。
 
問題はそのあとである。高校生になり軽音楽部に入部したものの、早々に弾き語りのスタイルに落ち着いてしまった私は、一人だったら家でいくらでも歌えるし放課後学校に残る必要もなくなり、バイトに精を出すようになった。ここからである。私が飽き性になっていったのは。
 
私の通っていた高校はこれといった校則がなく、メイクも髪型も制服の着方も自由だった。そこでバイトをするようになり自由に使えるお金ができた私は、とにかく服や髪にお金を使うようになっていった。いつからか「月一で髪型を変える」という謎のルールを自分の中に作るようになり、パーマをかけてみたりカラーを変えてみたり、あるときは思い切ってドラマ“ラスト・フレンズ”の時の上野樹里さんくらい髪を短くしてみたり、とにかくあらゆることに挑戦した。
 
それに伴ってファッションもどんどん変化を遂げた。森ガール、山ガール、一周してユニクロしか着ないのが一番カッコイイと思っているガール……。とにかくいろいろやった。学校かばんも、校章が入ったみんなと同じものでは飽きてしまい、ピンクのグレゴリーのボストン、ネイビーのフレッドペリーのショルダー、茶色の革でできたイーストボーイのバッグなど、その日の気分や髪型、制服の着こなしに合わせて持ち物を変えないとすぐに飽きてしまうのだった。
 
大学生になると今度は推しのK-POPアイドルができるもすぐに目移りしてしまい、新曲が出るたびに掛け声を覚えてはライブに行きペンライトを振りに振ったかと思えば、気づけばまた別のグループにハマっていった。ちなみに米粒ほどの大きさではあったが、生で見た少女時代の美脚は圧巻だった。
 
それから約10年、さすがにもうそこらへんも落ち着いてはきたが、今でもやはりその傾向はある。漫画にハマったかと思えばアプリに鬼課金して20巻近くを一晩で一気読み。とある作家にハマったかと思えばとりあえず過去作品をamazonで一気買いからの読み漁り。そして今はとにかく“ちいかわ”にお熱で、日に日に部屋にグッズが増えていっている。
 
大人になると趣味趣向がもっと精査されて、「自分といえばこれ」みたいに自然となるものだと思っていた。でも、どうやら私は違うようである。無限に知りたいことがあるし、どんどん好きなものは増えていく。ひとところには止まれず、好奇心の海を風来坊のごとく未だに彷徨っている。それを「自分には強みがない」と嘆いたこともある。何かを突き詰めるかっこいい人に、誰かにとっての特別なものに、なれない自分を恥じたこともある。
 
でも、それでいいじゃないかと最近は思う。たとえ過ぎ去れば一瞬でも、何かに夢中になる瞬間というのはいつだって尊い。風に飛ばされ、雨に紛れて、いつしか記憶の彼方に追いやられるとしても、その時々に目を輝かせ、心を燃やし、時々思い出しては抱きしめる、そういう瞬間の連続な人生もまた素敵ではないか。そしていつか、そういう小さな経験の一粒一粒が、私らしさという花になり咲けばいい。
 
私は飽き性か。いや、違う。見たいもの、聞きたいもの、やりたいこと、そしてできることが、大人になるにつれてどんどん増えていっただけだ。そしてそれらに出会うたび、私は未だに子供のようにいちいち心を揺らしている。繰り返される毎日の中で、これからもたくさんのものに目移りしながら日々を過ごしていきたい。そしてそこからたくさんの光を吸収して、まだまだ成長していきたい。私はこれからも、季節のように生きる人でありたい。変わりゆく私を愛し続けたい。
 
<関取花>



◆紹介曲「季節のように
作詞:関取花
作曲:関取花

◆メジャー2nd FULL ALBUM『また会いましたね』
2022年7月6日発売
UMCK-7170 ¥3000+税
 
<収録曲>
1.季節のように
2.ねえノスタルジア
3.風よ伝えて
4.やさしい予感
5.長い坂道
6.明大前
7.ミッドナイトワルツ
8.道の上の兄弟
9. 障子の穴から
10.モグモグしたい
11.青葉の頃
12.ラジオはTBS
13.スポットライト