片っぽのピアス。

 2022年4月27日に“藤川千愛”がミニアルバム『ちょっとそこまで昨日を迎えに』をリリース。既に発表されているTVアニメ『盾の勇者の成り上がり Season2』エンディングテーマ「ゆずれない」、昨年放送されたテレビ東京系 ドラマParavi『にぶんのいち夫婦』オープニングテーマとなった「片っぽのピアス」の他、新曲5曲が収録されております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“藤川千愛”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「片っぽのピアス」にまつわるお話。古道具屋で脳内に広がった、とある妄想から生まれたというこの曲…。ぜひ、歌詞と併せて、お楽しみください。


苦手というほどではないのですが、新しいものがどこかしっくりこないことも多く、休日はもっぱら古着屋や古本屋、中古家具の店なんかを冷やかしている。
 
ある時、いらなくなったものならば何でも売っていそうな古道具屋で、片っぽになったイヤリングを見つけた。片っぽというのは実に不思議なものです。深夜の路上に落ちている子供の靴にしろ、ガードレールのポールに被せられた手袋にしろ、片っぽになっただけで、対でいた時の何十倍もの悲しみを感じさせるのだから。それが身に着けるアクセサリーであれば尚更です。そこにはどんな物語があって、どうして片っぽになってしまったのか、妄想の世界は広がるばかりです。
 
もちろん片っぽが誘う妄想は悲しい物語だけではありません。ひょっとしたら、このイヤリングは瞬間移動装置で、これを付けて鏡を覗き込んだ瞬間に、この世界と対を成す異世界に引き込まれて、あれよあれよと私は勇者としてミッションを課せられるのかもしれない。勇者という響きはなんとも甘美ではあるが、『嗚呼、許してくれ』私にはまだこの世界で歌手としての役目が残っているのだ・・・などと壮大な妄想を掻き立ててくれもするのだから、片っぽというものはやはり侮れない。

そして私が勇者になるべきか躊躇していることなど意に返さず、ひたすらスマートフォンをいじっている店員も侮れない。ひょっとしたら彼は知られてはいけない、こちらの世界とあちらの世界を繋ぐ門番のような存在なのかもしれない。

まあ、ざっとこんな具合かは別にしても、古道具屋で売られていた片っぽになったイヤリングから妄想して書いたのがこの「片っぽのピアス」という曲です。
 
他の女とあなたが
もめる理由になればいいな
 
歌詞にあるように、彼の部屋に残された片っぽのピアスが原因で、彼は他の女と修羅場を迎えたのかもしれないし、難を逃れてメルカリあたりでピアスをたばこ代にしたのかもしれない。

一方、女はいつまでピアスに男の面影を見るのでしょう。

埃かぶったピアスが今も
前に進めぬ私責めるよ『ハァ…』

前に進めぬ彼女の溜息に妙にシンパシーを感じるのは、あの日、私が勇者になり損ねたからかもしれない。

<藤川千愛>



◆紹介曲「片っぽのピアス
作詞:藤川千愛
作曲:竹田祐介(Elements Garden)

◆ミニアルバム「ちょっとそこまで昨日を迎えに」
2022年4月27日発売
初回限定盤 COZP-1904/5 ¥4,000(税込)
通常盤 COCP-41759 ¥1,800(税込) 
 
<収録曲>
1. たしかなことって
2. ゆずれない
3. 手のひらの中で
4. ゆびさきから
5. 片っぽのピアス
6. そんなんばかりループ
7. 覚醒前夜