meridian

 2022年3月30日に“日食なつこ”がニューアルバム『ミメーシス』をリリース。今作は、多岐にわたるジャンルからさまざまな感性を吸い上げ、“擬態”をテーマに作り上げられました。「この世界たちをいま音と言葉で自分なりになぞったら絶対面白い曲が書ける!」という強いアウトプット欲が生んだ全13曲が収録されております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“日食なつこ”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第2弾。綴っていただいたのは、今作の収録曲「meridian」のお話です。



光が空に満ちた日
それを望んではいなかった誰かの絶望
 
高校3年生の時に「meridian」という曲を書きました。当時たいへん勉強のできる同級生が、その成績の良さだけで半ば強制的におりこう大学への進学を勧められ続けており、「本当は違う道に進みたいのに進路指導や担任のゴリ押しが強すぎて断れない」というようなことを女子トイレで泣きながら話してくれました。
 
ぶっちゃけその子とは特別仲が良かったわけでもなんでもなく、悩みを打ち明け合えるほど親密な関係を築けていたわけでも全然なく、クラスも部活も交友関係も別。今思い返すと一体どういう経緯であの子の胸中を女子トイレで聞くような流れになったのだったか全く思い出せないのですが、本当の意味で賢い同級生が絞り出したそんな嘆きを、特段賢くもなんともなかった私は何故か聞いていたのでした。
 
当時の私は教科によってはテストで学年最低点を取れちゃうようなもう誰からも何の期待もされていないような存在で、学校の行事なども既に気乗りしなくなってきていたのでライブや音楽オーディションの予選日程をわざとぶち当てて休んでみたりして、文武両道のスローガンに勤しむ同級生たちにこれ以上ない不信感と不愉快さを振り撒きながら過ごしていた出来の悪い逆流みたいな生徒でした。もう少し上手く立ち回れたんじゃないかという苦々しさと、それでもよくやりきったなその姿勢でという気持ちと、振り返るならば半々です。
 
とりわけ辞書を使う科目、英語や現文、古文、漢文なんていう授業では、ろくすっぽ話も聞かずに延々と辞書をめくり続けて面白そうな単語を探しては「これは曲に使える!」なんて目を輝かせながらノートの端っこばかりをその類の言葉で埋め尽くして、そうやって日々を何とかやり過ごしていたような時代でした。
 
その単語ストックの中に「meridian」という言葉がありました。太陽が最も高く昇った瞬間のことを指すその英単語は、陽光を浴びて光り輝く“難関大学○○名合格!”の立て看板や垂れ幕、それを絶やすことを恐れて生徒に迫る学校の姿勢そのものを揶揄する言葉のように当時の私の目には映りました。
 
光を望まない者たちが見据える影の道の存在など考えもしない、隠れ場所を見失って溶ける嘆きに気が付くこともない、導き終えたその先の未来にはもう興味がない、そんな先導者たち。
 
生徒が身を削ってようやっと打ち上げる光のことを、この学校は一体何年先まで覚えていてくれるんだろうか? 暗がりの女子トイレで吐露された悲しみのことを、私だっていつまで忘れないでいられるんだろうか?
 
乾いた壁に吸い込まれていくように続く啜り泣きの向こうで、太陽の光がすりガラスに当たって、幻のように揺らめいていました。
 
結局あの子は散々勧められたおりこう大学へと見事進学を果たしました。一度だけフェス会場で偶然会ったことがありましたが、案外元気そうにしていたのでまあよかったのかもしれません。
 
Twitterのフォローをいつの間にか外されていたのを確認した日を最後に連絡手段が潰えたため、幸福だろうとそうでなかろうと、あの子の行く末を知る機会はもう当分なさそうです。

<日食なつこ>



◆紹介曲「meridian
作詞:日食なつこ
作曲:日食なつこ

◆4thフル・アルバム『ミメーシス』
2022年3月30日発売
 
<収録曲>
1. シリアル
2. √-1
3. クロソイド曲線
4. meridian
5. 必需品 (album ver.)
6. 夜間飛行便
7. vip?
8. un-gentleman
9. hunch_A (album ver.)
10. 小石のうた (Natsuko singing ver.)
11. 悪魔狩り
12. うつろぶね
13. 最下層で