恐らく自分史上、最もノンフィクションな歌詞になった。

 2021年2月10日に“Awesome City Club”が、ニューアルバム『Grower』をリリースしました。今作には全10曲が収録。アルバムタイトルは、前作『Grow apart』でそれぞれ成長した彼らが、今度はその証を聴いてもらえる人たちに伝えていく、与えていくという意味を込めてつけられており、成長、決意を感じられるアルバムとなっております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Awesome City Club”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回はその最終回です。執筆はメンバーのatagiが担当。今作の収録曲「夜汽車は走る」にまつわるお話を綴ってくださいました。突如、一人旅に出ることになった彼。そこで目にしたもの、感じたものを是非、このエッセイと歌詞から感じてみてください…!

~歌詞エッセイ最終回:「夜汽車は走る」~

「じゃ、明後日にはリハだからそれまでに戻るとして…。今日!行って来たら!今日逃したら来週以降しばらく休みないよ。」

「いいじゃん!こういうのは思い切りが大事!」

15時 事務所
新曲制作会議でマネージャーM氏とバンドメンバーPORINの露骨なヨイショにより、僕の一人旅が決定した。

かねてより、いつか寝台列車「サンライズ出雲」に乗ってみたいと思っていた。そしてその情景を歌にしてみたい。と。そんな事を会議でポロっと言ったばかりに、余りに急な一人旅が決まってしまったのだ。

会議を終えたその足で駅の窓口に向かい、切符を買った。本当なら個室のグレードをあらかじめ吟味しておきたかった。だが興に乗ってしまった以上、みみっちい選択は無粋というもの。その時取れる一番良いシングルの個室を押さえた。

22時 東京駅

憧れの列車「サンライズ出雲」に乗り込み、しばし感慨に浸った後、早々に個室の室内灯を消して部屋を真っ暗にした。

車内アナウンスの後に、ヌルリと列車が滑り出した。静かな興奮を覚えた。

車窓から流れ星のようにピュンピュンと流れて行く街頭。

街から外れて行くにつれ光はポツポツとまばらになっていく。

暗闇の中、遮断機は赤く点滅を続け、ひと気のない踏切を列車が走り抜ける。

月の光が海に反射してチリチリとわずかに輝いて、遠く動かない月は山に遮られるたび、顔を出したり引っ込めたりしている。

全て、暗闇の中の出来事。
まるで異世界にいるような体験だった。

敢えて乱暴に例えるなら「ジブリっぽい」のだ。あの感じによく似ている。千と千尋の神隠しの列車のシーンが、となりのトトロの風景で描かれている感じ、とでも言おうか。

そしてこの全ての光景の中に、自分以外の人間が存在していないというのも何とも不思議な感覚だった。ひとりぼっちなのに、あったかい感覚。

こういう時に人間はふと、いや、どうしても、通り過ぎていった過去を思い出したくなるのは何故だろう。わからないが、とにかく郷愁が全身に纏わりつくような感覚になるのである。

あまりに不思議な光景に眠れないまま朝を迎えた。


無事に出雲に着いた僕は、出雲大社に行き、メンバーにお守りを買い、あちこちと歩き回った。夕方にはふらっと寄った飲み屋でしこたま美味い魚と酒を頂いた。

とてもいい旅だったのは言うまでもないが、それより何より、あの光景だ。列車の中から覗く異世界。

あの光景、風景、情景を、そのまま歌にしたかった。匂いや湿度まで伝わるような。それが「夜汽車は走る」という曲になった。

恐らく自分史上、最もノンフィクションな歌詞になった。目に写る風景、その時に感じた事、全てが過不足なく詰まっている。近道も寄り道もせず、飾りもせず、間引きもせず。100%オーガニックな歌を作ることができた。

歌詞を見てもらえればわかるが、ほとんどここに書いたのと同じ事を記してある。これって結構すごい事だと思う。「こういう歌詞も書けるようになったか、自分。」と少し誇らしくなれた。

読者の皆様も是非、寝台列車に乗る機会があればこの歌の事を思い出して欲しい。

<Awesome City Club・atagi>

◆紹介曲「夜汽車は走る
作詞:atagi
作曲:atagi

◆ニューアルバム『Grower』
2021年2月10日発売

<収録曲>
1.勿忘
2.tamayura
3.Sing out loud,Bring it on down
4.ceremony
5.湾岸で会いましょう feat.PES
6.記憶の海
7.Nothing on my mind
8.Fractal
9.僕らはこの街と生きていく
10.夜汽車は走る