Awesome City Club

「私を忘れないで。」なんて直接言えるはずない。

 2021年2月10日に“Awesome City Club”が、ニューアルバム『Grower』をリリースしました。今作には全10曲が収録。アルバムタイトルは、前作『Grow apart』でそれぞれ成長した彼らが、今度はその証を聴いてもらえる人たちに伝えていく、与えていくという意味を込めてつけられており、成長、決意を感じられるアルバムとなっております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Awesome City Club”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回はその第1弾。綴っていただいたのは、有村架純×菅田将暉の映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングとして書き下ろされた「勿忘」のお話。メンバーのatagiとPORINがそれぞれの想いを明かしてくださいました。歌ネットの注目度ランキング1位も記録したこの曲。是非、エッセイと併せて、改めて歌詞を味わってみてください。

~歌詞エッセイ第1弾:「勿忘」~

<Awesome City Club atagi>

「ヤマアラシのジレンマ」

思春期から現在に至るまで、僕にとって大きな人生のテーマだ。

アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』で、赤木リツコが話すこの言葉の意味を繰り返し繰り返し反芻し、物思いに耽ったのは高校生の頃だった。

その頃からなんとなく、正義と悪は視点の違いで正反対の立場になる事を理解していた。なんとも悲しい話で、豊かな世界は別々の未来にある。常に交わる事はない。

「へえ、大人になるとそんな事もあるんだな。分かり合えないって悲しいな。」そんな風に思っていた。しかし大人になって気付く、さらに救われない世界。それがヤマアラシのジレンマではないだろうか。

---以下ネットより引用---

冬の寒い日に、ヤマアラシの群れがお互いの体をくっつけて温め合おうとしました。しかし、双方の針毛が刺さり痛くてすぐに離れてしまいます。離れると寒いのでまた体を寄せ合いますが、やはり針毛が痛くてくっついていられません。ヤマアラシたちはくっついたり離れたりを繰り返して、いい距離を見つけることができたのです。

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この寓話をオーストリアの心理学者フロイトが精神分析の説明に引用したのちに、アメリカの精神分析医ベラックが、人間関係における心理的距離感の葛藤を「ヤマアラシのジレンマ」と名付けた。

-----------引用終わり

とある。先程の「正義と悪の関係」とは違い、互いが同じ未来を望み、さらには働きかけているにも関わらず、互いを傷つけてしまうのだ。こんな残酷な話があるか。と辛くなるが、もっと辛い事に、こういう事は実社会において往々にして起こる。こと恋愛では特に。

前置きが長くなり過ぎたが、映画『花束みたいな恋をした』は、最高純度のヤマアラシのジレンマを僕に投げかけてきた。これは刺さる、痛い。

「良かれと思って」の思いやりの糸がどんどんぐしゃぐしゃになって、次第に手枷足枷になっていく様は、過去の自分を見ている様でやりきれなかった。だけど、人生の複雑な味わいは、この辺りに結構味噌が詰まっている気がするのだ。


「勿忘」の歌詞を書くにあたり、このことはずっと頭にあった。

そして

・在りし日の後悔を自身が
前向きに受け止めるまで、その成長の過程。

・初期衝動を伴った恋の始まり、
その瞬きの前に人は無力であるということ。
だからこそ、その瞬間を取り戻したいという願い。

歌詞の中に感じて欲しいストーリーはこういった所。細かく解説するには字数が足りないので、またの機会にしようと思う。この歌を聴いてくれた方に、この軸となるメッセージを少しでも感じて貰えたら僕の狙いはひとまず成功と言えるだろう。



<Awesome City Club PORIN>

勿忘

女の子は花言葉に想いを乗せて、
花を渡したり部屋に飾ったりする。

「私を忘れないで。」

なんて直接言えるはずない。そんなこと言ったらおこがましいし、めんどくさい女って思われそう。だからこの女の子は勿忘草を部屋の隅に飾っていた。ドライフラワーにして君との思い出を閉じ込めて。

映画『花束みたいな恋をした』インスパイアソングとして描き始めたこの曲、映画を観てまず心に刺さったシーン、それは押しボタン式の信号待ちで二人がはじめてキスしたあのシーン。キスを終え絹ちゃんが発した一言が、脳裏に焼きついて離れなかった。

「こういうコミュニケーションは頻繁にしたい方です」

やっと絹ちゃんの心に触れることができた気がした。この言葉をちゃんと相手に伝えることができる彼女の強さ、素直さ、ここから始まる二人のラブストーリーへの期待が詰まっているようだった。

「あのキスから芽吹く日々」

二人の日々は芽吹いていく。だけど花は芽吹いて綺麗に咲いたら、あとは枯れていってしまう。どんなに水をあげても肥料を与えても。月日を重ねるうちに当たり前のように環境は変化し、二人の関係も変化していった。ずっと一緒にいられるなんてことは確約できないし、約束もできなかった。色とりどりな花束みたいな恋は枯れていく。

いつかこの恋が枯れてしまうなら、最高に綺麗で輝かしい時だけを閉じ込めていたい。「覚えたての愛の美しさ」を閉じ込めていたい。だってその刹那はきっと永遠に続くのだから。そう感じた。

絹ちゃんは強くてたくましい女性像だったけど、ほんとは口に出せない弱さも同じくらい持ち合わせているだろうと私は思った。だからこの曲ではその弱さも表現したかった。花の香りも二人の思い出も日に日に薄れ、思い出に生きていた心も散ってしまいそうになる。

願いが叶うなら、ふたりの世界をまた生きてみたい。
だから、「私を忘れないで。」
そんな心の声を表現したかった。



◆紹介曲「勿忘
作詞:atagi・PORIN
作曲:atagi

◆ニューアルバム『Grower』
2021年2月10日発売

<収録曲>
1.勿忘
2.tamayura
3.Sing out loud,Bring it on down
4.ceremony
5.湾岸で会いましょう feat.PES
6.記憶の海
7.Nothing on my mind
8.Fractal
9.僕らはこの街と生きていく
10.夜汽車は走る
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