さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“YONA YONA WEEKENDERS”の磯野くん(Vo.)による歌詞エッセイを2週連続でお届け。今回は後編です。綴っていただいたのは、収録曲「In my room」と「唄が歩く時」にまつわるお話。それぞれの歌詞には一体どのような背景・感情があるのでしょうか。是非、このエッセイを読んでいただいた上で、歌詞をじっくり味わってみてください。
~歌詞エッセイ【後編】~
M-4.「In my room」
2020年4月。新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大に伴い、緊急事態宣言が発出された。日々の報道をまるで対岸の火事の様にぼんやりと眺めていたが、スーパーに出向いてガラガラの商品棚を見た時に「これが世紀末か……」と大袈裟でなく本当にそう思った。
春先に決まっていたライブは勿論全て中止になった。2nd EP『街を泳いで』のリリースをキッカケに野外フェスに出演し、ピーカン照りの空のもと、皆んなで美味しいビールを飲むという我々の野望も露と消えた。
増えゆく感染者に怯え、馴染みのライブハウスや飲食店が次々と潰れていく中、今まで味わった事のない喪失感と自分の無力さをただただ呪うばかりの毎日。楽天家の僕でさえも、この時ばかりは完全にまいってしまっていた。この状況下で自分は何をしたら良いのか、何が出来るのか、全くもって正解がわからなかった。
ソロ宅飲みにも飽きてきた頃、当時流行っていた“リモート飲み”に何度か参加した。「リモートて、どんなもんじゃい!」と始めは疑心暗鬼だったが、馴染みの友人と画面越しではあるが酒を片手に他愛もないことを話す、それだけでもかなり心が癒されたし、これまでの当たり前が当たり前でなくなった今、改めて幸せを感じることが出来た瞬間だった。
丁度そんな時に出来たのがこの「In my room」だ。僕は世界を変える様なことは出来ないけれど、せめて僕の周りだけは幸せであって欲しい。だから僕もとにかく前を向かなければいけない。振り返ってみると、そう自分を鼓舞している様な歌詞だなと思う。
決して「In my room」でも望みは捨てない。
僕たちの主戦場である
ライブハウスと、僕たちバンドマン。
それを愛してくれる
全ての音楽好きの人に思いを馳せた曲です。
M-5.「唄が歩く時」
この曲がまだデモ段階だった時の仮タイトルは「昔は良かった」だった。「In my room」の完成から数ヶ月、自粛期間は明けたが感染状況はあまり変わっていなかった。相当フラストレーションが溜まっていたんだなと思う。
ある時、バンドの先輩が営む青砥の豚麺ポルコ(夜はもつ焼きセキヤとして営業)が自宅用セットのネット販売を始め、早速僕も注文した。本格的な麺を家庭用の小さい鍋で茹でるのはなかなか大変だったが、ガツンと醤油が香る濃厚なスープとほろっほろのチャーシューに「家にいながらこんなに本格的なラーメンが食べられるのか……」と心底感動した。
ネット販売に漕ぎ着けるまでは様々な苦労と時間を費やしたと思うが、気軽に外食も出来ない状況で本当にありがたかった。出来ないことを嘆くより、出来ることを考えようというその前向きな姿勢にとても勇気付けられた。
僕たちも時を同じくして音源の制作を進めていた。これまでのバンド活動は、どちらかと言うと「ライブ楽しい!」とか「チヤホヤされたい!」とか、自身の欲求を満たすことがモチベーションになっていた。しかし、2nd EPのリリースをきっかけに、このコロナ禍で自分たちの曲が誰かの生活を彩ったり、心を癒したりする事が出来るという確かな手応えを感じることができた。
僕は大塚愛さんの「プラネタリウム」を聴くと、高校時代バイト先で好きだったマユちゃんのことを思い出す。銀杏BOYZの「漂流教室」を聴くと、亡くなった昔のバンドメンバーとその友達のことを思い出す。皆さんにも、そんな大切な曲が一曲くらいあるのではないだろうか?
この曲が完成した時、仮タイトルの「昔は良かった」と過去を振り返るだけじゃなく、withコロナのこれからの時代、誰かの側に寄り添って一緒に歩いていける様な、そんな曲になったと思う。
<YONA YONA WEEKENDERS・磯野くん>
◆紹介曲「In my room」
作詞:磯野くん
作曲:磯野くん
「唄が歩く時」
作詞:磯野くん
作曲:磯野くん
◆3rd EP『唄が歩く時』
2021年1月20日発売
PDCR-017 ¥1,500(tax out)
01. 君と drive
02. Lonely times
03. R.M.T.T
04. In my room
05. 唄が歩く時