さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放つ“川嶋あい”による歌詞エッセイを、3ヶ月連続でお届けいたします!第1弾、第2弾に続く最終回では、収録曲「雪割草」にまつわるお話を綴っていただきました。この花の持つ花言葉、みなさんはご存じですか? そしてその言葉を大切にできていますか…?
~歌詞エッセイ最終回:「雪割草」~
ミスミソウという花がある。早春に咲く花だ。三角形の葉を持ち、色は青や紫、赤、ピンクなど。冬の終わりに雪を割るようにして咲くことから雪割草という別名もある。
私自身はまだこの花を実際に見たことがない。子供の頃からずっとこの花を見てみたかった。というのも、大好きなアニメの物語の中でこの花が象徴的に出てくる場面があった。
桜のように華やかというよりは、可憐で繊細で物静かな印象。だけれど、内に秘めた強い情熱みたいなものを幼心に感じ、どうしても見てみたい衝動に駆られた。いまだ実現はできていないが、この憧れは永遠であってもいい。願いというものは達成するまでのプロセスやイメージの方が遥かに重要に思うからである。
ただ、今回の最新アルバム『針の穴』を制作してゆく中で、ふとこのまだ出会ったことのない小さな花を、今私が描く世界の中で楽曲に落とし込んでみたいと思い立った。
雪割草が持つ花言葉は、信頼や自信、はにかみ。
家族や恋人、友人、どんな関係に置いてもこの“信頼”を勝ち得ることはとても難しい。信頼は愛情とはまた違うところにある。この人になら、伝えたい、相談したい、任せたい…。もしかしたら愛情よりも付加価値の高いポジションにいる時もあるくらいに思える。
付き合ってきた恋人同士の中で、もし少しでも互いへのその信頼が薄れた時、あるいは失ってしまった時、それを取り戻してゆくのは困難だ。ゼロではなくマイナスからのスタート。もしかしたら関係はそこで終わってしまう場合もあるだろう。だからこそ、本当に原点に帰れるのだが、人の気持ちを軽薄に考えたり捉えたりしてはいけないのだろうなと思う。自分で人の気持ちを想像する力。この能力も必要だろう。
そして、人は誰でもいつかはその人生を終える。ということは、産まれた瞬間から終わりに向かって歩いているのだ。それは一見悲しいように思うけれど、多くの意味を持っている。自分のために今何ができるか、そして誰かのために今何をすべきか。あらゆることを想像して考えることができるからだ。
それを実行する生き方がベストなのだろうけれど、そんなに上手くは事運ばない。だけど、トライする気持ちがあるのとないのとでは人生は大きく変わってくる。
限りある時の中で、目の前にいる人と一緒にこれからも歩んでゆけるために、時にぶつかっても悩んでも、その都度乗り越えながら前に進んでゆくことはきっといつの日か“信頼”になってゆく。そしてその信頼が今度は“自信”へと変わってゆくはず。
長い冬を超えて、たくさん我慢をして、たくさん成長をしてやっと蕾を開かせた雪割草のように、今が苦しくても待った先の未来には必ず希望があると信じて、生きてゆきたい…。そんな誠実な想いがこの「雪割草」という楽曲には込められている。
お金があることや権力があること、名誉があること、愛があること。生きていれば必要な物はたくさんあるし、求めるほど増えてゆく。人それぞれに優先順位は違ったとしても。
私はそこに生き方を足してみたい。穏やかでも破天荒でも、悔いのない生き方を選んでいきたいと思えば、自分も誰かの人生も、そこからいつでも始まりに変わってゆけるのだ。雪割草がその身を枯らしても、また次の春に花を咲かそうとするように…。
<川嶋あい>
◆紹介曲「雪割草」
作詞:川嶋あい
作曲:川嶋あい
◆9th ALBUM『針の穴』
2020年6月3日発売
初回限定盤 TRAK-0168~9 ¥3,500(税別)
通常盤 TRAK-0170 ¥3,000(税別)
<収録曲>
1.Paradox
2.くるくる
3.綴
4.ペペロンチーノ
5.Home
6.Life
7.私を彼女にして
8.雪割草